宰相への報告~総務大臣アンヌ・ロータス視点4~
宰相への報告~総務大臣アンヌ・ロータス視点4~
泣いてばかりもいられない。今後の対応について宰相と協議しなくては。
部下に宰相との面談のアポを取らせ、報告書の作成を開始する。
内容は
・勇者は正義感と使命感にあふれ、人柄には問題がないこと
・こちらが提示した行程、依頼についても問題なく了承してくれたこと
・緊急依頼の要請についても快く、了承してくれたこと
(ここまでは、すらすらと筆が進む。問題はここからだ。どういう風に取り繕うか?悩んだ末に正直に書くことを決意した。)
・私の肝入りの企画については失敗の可能性が高いこと
・思うように利益誘導できなかったこと(下手をすると大きな損失となること)
・今後の対応を迅速に行うこと
と記載して一端の報告書を締めくくった。そして、参考程度にメモを作成した。これは公文書ではなく、あくまでメモだ。私的な感想を含めて自由に記載する。宰相が採用した制度で、意見交換を活発にするための制度である。
内容は
・神官騎士レイモンドは、勇者に負けず劣らず、正義感と使命感が強い。
・ただし、聖母教会と深いつながりがあり、そちらの意向に従う可能性が高いので注意が必要。
・こちらと教会とが良好な関係を保っていれば問題はない。
・ドワーフの女戦士グリエラは典型的な酒好きのドワーフで特に何かの思惑で動いている様子はなさそう。
・エルフの拳闘士ガイエルも何かの思惑で動いていることはない。また、エルフ特有の多種族を馬鹿にしたような態度もない。酒も好きでグリエラに近い感じがする。
・二人は同じようなタイプで、一言で言えば、酒好きの馬鹿と言った感じだが好感が持てる。
・魔法使いルナリアは、少し気弱な印象を受けた。素直な性格と思われる。
・しかし、商業都市ダッカ、魔道協会との結びつきは強いように感じた。
・こちらも大元のダッカと魔道協会との関係が良好なら問題はなさそうだ。
と記載した。
しばらく、別用務をしていたところ、部下から宰相との面談が可能との連絡を受け、宰相の執務室に向かった。あーもう憂鬱だ。
~宰相のとの面談~
執務室で、宰相に報告書とメモを手渡し、口頭にて要点を報告した。時間にして1~2分(永遠のような長い感覚があった)後、宰相から声を掛けられた。それは予想外の言葉だった。
「よくやってくれた!!100点に近い出来だ。行程と依頼関係を飲ませたのは大きい。またメモのほうも本当に助かる。人物分析もよくできている。ちょっと表現が過激だが・・・。これでこちらも対策が取れる。ありがとう」
と言われた。予想外の答えに私は、戸惑ってしまった。結構な損失を出す可能性もあるのに。もしかして、その件は有耶無耶にして陛下に報告し、いざ損害が出たことが発覚したら、私に責任を取らせるとかいった感じで。だぶんそうだ。「そんな報告は受けてない」とか言って。
私は、
「でも宰相閣下。私の肝入りの企画で大きな損失を出す可能性があります。100点に近いと言われても・・・」
と言って、損害を出す可能性があると念押しした。
すると宰相は
「あーそのことね。この企画を通すときに目的は2つあったはずだ」
と、そのとき私は、もう1つの目的を思い出した。
それは「前回の勇者一行が失墜した信頼を回復すること」である。
宰相は続ける
「利益よりもまず、勇者一行の信頼回復!!こちらが主目的だと思うのだが。君が立ててくれた行程と合わせれば十分に目的を達成できると思う」
更に
「損失についてもまだ、回避できると思うよ。聖母教会についてはすでに君のほうで対処できると思うし、エルフとドワーフの酒についてもすべての酒を我が国でそろえることは難しくても、その酒の中に何品か紛れ込ませることはできるはずだ。魔術道具については・・・。ちょっとすぐには思いつかないけど。君の頑張りで、プラマイ0か微益には持っていけるはずだ。これで信頼も回復できて、利益もそこそこ上げられたら100点だろ!!」
と言ってくれた。
「ところで、早く歓迎パーティーの準備しとけよ。ちゃんとしないとせっかくの美人が台無しだぞ」
私は、自分の至らなさと宰相への感謝で複雑な気持ちになった。一瞬宰相を疑ったことも反省しないと。そして私は、宰相に挨拶を済ませて、執務室を後にする。歓迎パーティーで、酒類の中に自国産の物をなんとか滑り込ませてやろうと決意して。
あれ!!宰相。私のこと美人って言わなかった?