進まぬ商談~総務大臣アンヌ・ロータス視点3~
進まぬ商談~総務大臣アンヌ・ロータス視点3~
なんとしても他のメンバーは、こちらが用意したところに金貨を使わせなければと思っていたところ
「全額酒に変えてくれ!!私の故郷の2大火酒、スピリットファイヤーとロッククラッシュを半分ずつで頼む。この盾を作ってくれたドワーフの里に届けたい」
とドワーフの女戦士グリエラが声を上げた。
(はっ!!こいつ何言ってんの!!全部が酒って頭おかしいんじゃないの?しかも銘柄まで指定して、そのお酒はこの国では作ってなくて、輸入しかないじゃない。そんなことになればこっちはほとんど利益とれないじゃない。どうすればいいの?)
なんとか平静を装い、思案していたところ
「いい考えだなグリエラ。それじゃあ俺も故郷の果実酒詰め合わせに全額頼む。山ぶどうを多めに頼む」
とエルフの拳闘士ガイエルが続く。
(おいおい!こいつまで何言ってんの!!「あるだけ酒持ってこい!!」ってここは居酒屋じゃねんだぞ!!)
「それと、エルドワ(エルフとドワーフの里)に行くときに持っていきたいんで、早急にたのむぞ」
とさらに続けて言われた。
これは想定外だ。酒については想定していたが、銘柄と産地まで指定されたらどうすることもできない。
説得を試みたが交渉の余地はなかった。
残りの二人には絶対にこちらの用意したところに使ってもらはなければ。
そんな思いもすぐに打ち砕かれる。魔法使いルナリアが遠慮がちに声を掛けてきた。
「この国の魔法使いを目指す子供たちに魔道具をプレゼントしたいと思います。私が今使っている杖もいい感じなので。商業都市ダッカで私の兄が経営する工房から仕入れていただければと思います。見習いにも使いやすい各種魔道具を取り揃えてますので」
(これも想定外!!なんとかしなければ)
「我が国にも優秀な魔道具職人が多くいます。できればそちらでの購入も考えていただければ」
となんとか食い下がったが、
「まあ兄の件もありますし。魔道協会の絡みもありますし・・・」
と歯切れ悪く答えられた。
もうすでに商業都市ダッカや魔道協会に取り込まれている。ここまで上手くいかないとは。
「それじゃ私は何にしようかな?悩むなあ」
と勇者クラシアがつぶやいたので、すかさず
「勇者様!!なにもこの場で決めていただかなくても。なんなら決戦の地クロスポートまでに決めていただければと思います。こちらもご希望に添えますように色々と提案をさせていただきますので」
と声を掛けた。
「それもそうよね」と勇者クラシアは納得してくれた。
私は何とか失望を顔に出さないようにして、勇者一行に
「これで、一端の打ち合わせを終わらせていただきます。今後勇者様方をしっかりとサポートさせていただきますので、よろしくお願いします。この後の歓迎パーティーが開催されるまでしばらくお部屋でおくつろぎください」
と伝え、部下に勇者一行を案内させた。そして、誰もいなくなった会議室でへたり込んだ。こんなはずではなかった。
宰相以下、他の大臣達に大見得を切った私の企画。
それがこうも簡単に頓挫してしまった。もう計画どおりの収益を上げることは不可能だ。下手をするとかなりの損失を出してしまう。
私は涙をこらえ、執務室に戻った。執務室に戻り、ドアを閉めると止めどなく涙があふれてきた。