勇者ビジネス開始!!総務大臣アンヌ・ロータス視点2
~総務大臣アンヌ・ロータス視点2~
私はアンヌ・ロータス。ロータス侯爵家の次女として生まれ、現在は32歳。自分で言うのもなんだが、整った顔とスリムなスタイルをしている。若干胸は平均よりも小さいようだが。
各国の貴族の子女が学ぶセントラルハイツ学園を優秀な成績で卒業し、文官としての才にも恵まれたこともあり、この若さで総務大臣を任命された。残念ながら独身・・・
総務大臣の主な仕事は各部署の調整。なので、威厳が必要な他の要職に比べて我を押し通さず、調整できる人材が必要であったのが私が任命された理由であると分析する。
主な仕事が調整という主体性のない仕事なのだが、一つだけ大きく変わった業務がある。それが勇者ビジネスだ。
いかに問題なく、決戦の地に送り届けるか。そして、いかに収益を上げられるか。それが大きな課題だ。このプロジェクトが成功すれば更なる出世も夢ではない。
ゆくゆくは宰相にも・・・
現在のべルク宰相もこのプロジェクトで多くの功績をあげたそうだ。だが、リスクもある失敗は許されない。前総務大臣は、先の勇者の一件で大失態を犯して解任されている。
そんな思いを抱えながら、私は勇者一行に説明を続ける。現在のところ、装備品の販売とPRは上手くいっている。宰相からも直々にお褒めの言葉をいただいた。
「それでは、決戦までの流れについて説明いたします。まずノビスランドより南に位置しますエルフとドワーフの集落エルドワ村に立ち寄っていただきます。皆様の装備品を作成した工房があります。そこで1件討伐依頼を受けていただきます。ガイエル様とグリエラ様の人気が凄まじく、行程の一つに加えさせていただきました」
勇者クラシアは
「まあそうなりますよね。ただ魔族を倒すだけでなく、困っている人を助けるのが勇者の使命と考えてますので、お気遣いなく。」
と応じてくれた。
(あーよかった。今回の勇者はまともだわ。これなら予想収益よりも利益を上げられそう)
説明を続ける。
「その後は我が国有数のダンジョン都市でダンジョン攻略をしていただきます。このダンジョン攻略の証を入手して初めて魔族への挑戦権が与えられます。その後、これも有数の温泉地ベッツにて依頼を1件こなしていただきます。現在決まっている行程はここまでですが、緊急依頼が入りましたらそちらに対応していただくことになります」
勇者クラシアを見ると今回も
「丁寧な説明ありがとうございます。依頼については受けれる範囲で最大限受けようと思います。遠慮せずに言ってくださいね」
と答えてくれた。ここまでは順調だ。そしてここからがさらに収益アップを目指した私が企画した計画を説明する。気合を入れなおした。
部下を呼び、勇者パーティー一人一人に袋を渡した。
「この袋には金貨100枚が入っています。一人一つずつお渡しします。」
「金貨100枚も!!すごい。本当にいいんですか?」
と魔法使いルナリアが上ずった声を上げた。
「もちろんです。ただし使い道については一つ条件を付けさせていただきます。」
「条件とは?」
勇者クラシアが尋ねてくる
。
「はい。このノーザニアの民のためになること。ただその1点だけです」
「でも逆に広すぎて難しいな。どうしたらいいんでしょう?」
と魔法使いルナリアつぶやいた。
いい流れだ。計画としてはこうだ。
金貨100枚なんか普通の庶民が使い道なんて思い浮かぶわけない。
迷っているところにこちらから誘導を仕掛ける。
装備品の例もあるが、勇者パーティーが買った商品ともなればどの商人も喉から手が出るほど欲しいに決まっている。当然金貨100枚なんてすぐに回収できる。
現在のところ、そんな商品のオファーが殺到している。
どこまで釣り上げることができるか、それが課題だ。
また、城壁の修理に金貨100枚なんてのも検討中だ。勇者が修理した城壁ともなれば、今後の観光資源としても活用できるし。
そんな思いを抱きながら、ここまで順調に進んでいることに大きな満足を覚えながら営業を開始しようとしたところ、唐突に
「それなら、全額をノーザニアの聖母教会に寄付していただきたい。孤児院の運営が厳しいところもあると聞いています」
と神官騎士レイモンドが答えた。
「なにも全額一括で寄付しなくてもいいのではありませんか?おすすめの商品も用意してございますので。」
「いや。全額お願いします。こちらが得をするよりも、困っている人を助けたいので」
「さすがレイ兄!!」
勇者クラシアが感嘆の声を上げる
(くそ!!こいつは教会の関係者だから仕方ないか。リサーチの結果どおり、真面目で誠実。ここは切り替えて、寄付された教会にアプローチして利益を回収しよう。教会相手にぼったくることはできないので、こちらは利益が減るな・・・)
これはまだ想定内。
優秀な私は、教会への根回しと必要商品の調整はある程度済ませている。
気持ちを切り替えて、他のメンバーには想定の使い道に誘導しなければ。
しかし、その思いはすぐに打ち砕かれることになる。