勇者になった理由2
~勇者クラシア・ラーシア視点~
宰相や大臣の指示で、この会議では大人しくにこやかに座っていればいいとのことだった。気軽に発言して、変なことで言質を取られたりしないようにと。また、困ったときは「一端持ち帰って、国王と協議する」と言ってその場を切り抜けるようにと。
そんなこともあり、私は他人事のような感覚で議論を聞いていた。
神聖国ルキシアの代表カタリナ・クレメンスが怒ったように
「どの国も勇者を派遣するつまりはないのですか?邪悪な魔族を駆逐くしてやろうという正義の心を失くしてしまったのですか?なんと嘆かわしい」
カタリナ様は金髪の絶世の美女で抜群のプロポーションをしている。噂ではけっこう年齢はいっているようだ。この状況で年齢を聞いたら、たぶん殺されるだろう。
ノーザニア王国の国王が続いて発言する。ノビスおじさんだ。
「我が国の事情も考えてもらいたい。ユリシア大陸で唯一魔族領と接しており、いつ本格的な戦闘になるか分からず、勇者にまで国力を割けません」
そうしたところ、大陸最大の国、オルマン帝国の皇帝が
「我が帝国は、武勇に誉れ高く、人材も豊富だ。また我が帝国から勇者を出してやってもいいぞ」
と語った。これに各国の代表が罵声を浴びせた。
「前回、お前らが出した勇者がやったこと忘れたのか!!」
「何が人材豊富で、武勇に誉れた高くだ!!」
などなど、前回の勇者はなんかやらかしたらしい。
小国家群の各代表者は、一様に口を閉じている。国力から考えて、物理的に勇者を派遣するなどできない。宰相からは「勇者を出しても我が国にメリットはほとんどないので、絶対に勇者を出すなんてことは言わないでください」と念を押されていた。
退屈な会議・・・早く終わればいいのにと思っていた。
すると傭兵国家ラクスの代表ヘラスト・ルートが怒鳴り出した。
「どいつもこいつも腰抜けばかりだな!!レオなんて会議にも来やしない。何が百獣の獅子王だ。猫族の嫁さんもらって借りてきた猫みたいになりやがって!!獣人国は生まれてきたらすぐに牙を抜く法律でもあんのか?王族揃ってペット産業でも始めるのか?」
私は気を抜いていたこともあり、カッとなってしまい、冷静さを失った。お父様やお母様だけでなく、獣人全体を蔑むような発言!!絶対に許せない
気が付いたら口に出ていた。
「それはあまりにもひどい侮辱ではありませんか!!取り消しなさい!!我が国も父も決して腰抜けなどではありません!!」
「小娘が生意気な!!だったら勇者を出すっていうのかよ」
「そこまで言われたら仕方ありません。我が国で勇者を派遣します」
言ってしまった。宰相や大臣が青ざめているのが分かる。会場がどよめいた。
すかさず商業都市ダッカの代表トルキオが
「クラシア王女殿下。今のお言葉は間違いありませんね」
と念を押してくる。ダッカはラクスの一都市だが、非常に資金力があり、大陸全土にある商業ギルドのギルドマスターも兼任しているトルキオが特例として会議に参加しているそうだ。
「我がラーシア王国が中心となり、必ずや魔族を打倒して見せます」
もう引き返せない・・・・