勇者になった理由1
~勇者クラシア・ラーシア視点~
いきなりの緊急依頼(ミスリルリザードの討伐)を達成したが、ダンジョンに住み着くゴブリンの問題が浮上し、その対応に追われていた。普通の勇者であれば、すぐにノーザニア王国に引き継ぐのだが、私ははラーシア王国の第一王女でもあるので、ある程度事態が落ち着くまでは対応しなければならなかった。
宰相やアンヌ大臣の頑張りもあり、ゴブリンとノーザニア王国双方にいい形で話がまとまった。詳細は今後協議していくそうだ。それとゴブタンにもらった貴重な鉱石のアダマンタイトだが、エルドワのドワーフに加工してもらえることになった。時間は掛かるが最終決戦には間に合うとのことだった。
そんなこんなで、予定より少し遅れたが、当初の予定どおりにエルフとドワーフが済む集落エルドワ村に出発した。途中いくつかの村と街に立ち寄って欲しいとのことだったので、最短距離では行かず、少し回り道をすることになった。
立ち寄った街や村では一様に大歓迎してくれた。簡単な討伐依頼を無償で引き受けたこともその要因の一つかもしれない。
これまでの旅で、サポーターのロイは本当に優秀で、性格のいい青年ということが分かった。直接の戦闘には加わらないが、様々な面でサポートしてくれる。細々とした交渉や活動資金の管理、宿の手配等以前はレイ兄が主にやってくれたことをすべて代わりにやってもらっていた。
特に料理はすごく美味しくて、本当に一緒に来てくれてよかったと思う。
現在は野営中、討伐したワイルドホーン(ウシ型の魔物)を解体して、即席でフルコースを作ってくれた。単純なステーキから始まり、内臓の煮込み、余った肉をミンチにして香草と混ぜて焼いた料理など、王都でもここまでの味を出せるレストランはほとんどないだろうと思う味だった。
そんなこともあり、メンバ―達とはすっかりと打ち解けている。
食事も一段落した後、焚火を囲んで談笑していたら、ロイから
「クラシア様はどういう経緯で勇者になられたのですか?昔から勇者になるために努力されてきたとかですか?」
「そういえば、ロイに言ってなかったわね。せっかくだし話してあげるわ。少し長くなるけど・・」
そう前置きして私は語り出した。
あれは1年前に遡る。
大陸会議での出来事だ。ユリシア大陸では平和維持のため各国のトップが集まり、年に一度、定期的に会議を行う。
場所は学園都市セントラルハイツだ。私達が通っていたセントラルハイツ学園がある都市だ。大昔、各国が戦争に明け暮れていた時代、平和への願いを込めて、各国要人の子女のための学校を作ったそうだ。どんなに戦争が激しくなってもここだけは、不可侵となっていたらしい。その願いが通じたのか、ここ500年以上は人族どおしの戦争は起きていない。
会議より少し遡ったころ、私の双子の弟と妹が高熱に侵されていた。医師の診断では流行りの風邪で、2~3日安静にすれば特段問題ないとのことだった。しかし、国王でお父様はあろうことか
「心配で心配で仕方がない。大陸会議どころではない。儂は会議には出ず、看病する」
と言い出した。
お父様は、威厳があり、聡明な国王だが、幼い弟妹のことになると知能が半分以下に低下してしまう。
大臣たちが説得するも頑として聞き入れず、私が代理として出席することとなった。お父様が急病ということにして・・・
(各国に本当のことなんて言えるはずないよね)
会議は儀礼的なことなどを中心に順調に進行していたのだが、勇者の派遣について会議が紛糾した。
そのときはあんなことになるなんて想像もしてなかった。