ダンジョンオープン
~勇者クラシア・ラーシア視点~
ニューポートに来て3年が経った。
色々な出来事があった。西の森、南の草原の開発に始まり、龍神ダンジョンと水龍ダンジョンという大陸有数のダンジョンもでき、更には海路による交易も活発になってきた。財政状況も順調だ。
懸案事項としては、人材の確保があげられる。文官、武官ともに足りているとは言い難い。これについては、ノーザニア王国、魔国デリライトだけでなく、私の母国のラーシア王国からも派遣や研修といった形で将来有望な若手を回してもらって、何とかやりくりしている。
全体的には概ね良好といった感じだ。
私も直接現場に行って、魔物を狩るようなことはほとんどなく、ある程度時間に余裕ができた。
そんなとき、龍神ダンジョンが正式にオープンすることになった。式典も済ませ、後はオープン待つばかりとなったが、龍神様の希望で是非とも最初は私達勇者パーティに挑戦してもらいたいとのことであった。一般に開放するよりも前に勇者パーティーとしてダンジョン攻略に挑むことになった。
この日のために、通常業務はセーブして、厳しい訓練を開始した。
特に力を入れたのはサポーターのロイの強化だ。指揮官、サポーターとしての能力は申し分ないが、火力に関しては、他の勇者パーティーと比べて見劣りする。そこが強化できれば、私達のパーティーはもっと強くなる。
今日は近接戦の模擬戦をロイと行った。私はロイをかなり激しく打ちのめした。
「ロイ!!もっと積極的に!!闘争心を持って!!」
倒れているロイに向かって怒鳴る。
「ちょっとクラシア!!やり過ぎよ」
ルナに止められた。
「そうね。レイ兄に回復してもらったら私が領主館まで送るわ。キリがいいので今日の訓練はここまでにしましょう」
厳しい訓練のおかげか、ロイは目に見えて実力を付けて行った。これなら、ダンジョン攻略も期待できると思う。訓練と併せて、準備にも余念がない。装備品も新調した。ベッツでダンジョンを破壊したときに使った大剣ダンジョンブレイカーはそのままだが、鎧を新しくニューポートの工房で作ってもらった。軽くて動きやすい。
他のメンバーも装備を新調しており、いずれもニューポートの工房で作られたものだ。ルナだけは兄の魔道具工房との契約があるらしく、杖は魔道具工房、その他の装備はニューポート産にすることで話がついている。
今回、ニューポート産の装備でほぼ揃えたのには訳がある。ゴブル管理官の発案で、魔勇者パーティーとして活動したときに色々と勉強した成果だ。
ノーザニア王国では勇者に装備品を下賜し、それが宣伝になるから類似品が売れるという話で、それを参考にしたらしい。
(どおりで、気前よく装備品を渡してくれたのか・・・)
そして、いよいよダンジョンに挑む。
ヘンリーさんの話では、プレオープンのときのエリアはそのままで、ファーストステージとして難易度が少し下がっているみたいだ。なので、私達勇者パーティはセカンドステージからの開始となる。転移スポットから転移したら、洞窟のようなエリアに来た。
「難易度も分からないし、初めてのステージだから慎重に行きましょう」
パーティーメンバーに指示を出す。私とロイが先頭になり、罠やトラップがないか探索しながら慎重に進んでいく。途中、スライム系やキノコ系の魔物を中心に襲ってきたが難なく撃退した。
ダンジョン攻略自体は順調だが、私の体調がよろしくなかった。体が重いし、吐き気もする。
「クラシア!!どうしたんですか?動きにキレがないですよ」
ロイに指摘される。
「訓練疲れじゃないのか?」
「おいおい!!体調管理くらいはしてくれよな。まあ、この程度なら俺達だけでも大丈夫だけど」
グリエラとガイエルが軽口を言ってくる。
(そうね。だぶんそうだ。張り切り過ぎて追い込み過ぎたかもしれない)
そんな感じで、攻略を進めていたが、体調は一向に回復しない。レイ兄に回復魔法をかけてもらったが、効果はなかった。スライムやキノコに毒のようなものがあるのか?と思っていたが、他のメンバーは平気なようだ。獣人にだけ、効果があるようなトラップなのかもしれないと疑う。
「提案があるんだが・・・・今日は安全策を取って、帰還しよう。クラシアがこれだと不測の事態に対応できない。残念だけど・・・」
レイ兄が苦しそうな顔で提案してきた。安全を考えれば、それが一番かもしれない。しかし、領主としての立場もあるし、勇者としてのプライドもある。簡単には撤退できない。私が悩んでいるとロイが声を上げた。
「すいません!!食料や回復ポーションを持ってくるのを忘れてしまいました。僕としてもクラシアの体調に関係なく、一端帰りたいです。久しぶり過ぎて、忘れ物が多くてすいません・・・」
みんな分かっている。ロイが忘れ物なんてするはずがない。収納魔法も使えるし、いついかなるときも、不測の事態に対処できるように必要最低限の物資はもっているし、最新兵器も準備してきている。私の体調不良が原因で撤退したとなれば、今後、外交関係でも厄介なことになり兼ねない。それを懸念して、ロイが泥を被ろうとしてくれているんだ。
「忘れ物したなら仕方ないわね。ダンジョンの傾向が分かったんだから、今度はしっかりと準備して挑みましょう。私も火魔法が強化する杖を用意してもらうから」
ルナが、ロイの話に乗っかる。
「ロイ。忘れ物したから罰金だな」
「今日はロイに「新風亭」でおごってもらおうぜ」
グリエラとガイエルもこれに同意した。みんなの優しに胸が熱くなる。
「ごめん。みんな・・・勇者パーティーは一端撤退します」
領主館に戻っても体調は回復しなかった。それにもっと悪化している。聖母教会から次期聖女候補のシスターフローレンスが来てくれた。彼女は若いけど優秀で、一流の回復魔法も使え、薬学の知識も豊富だ。女性なので、レイ兄よりもフローレンスのほうがいいだろうという計らいだ。
私はフローレンスの診察を受けた。フローレンスは険しい顔をしている。
「クラシア様。大変申し上げにくいのですが・・・ご家族をお呼びください」
(えっ!!そんなに悪いの・・・)
血の気が失せた。軽い体調不良か何かだと思っていたのに違ったようだ。もっとみんなといろんな思い出を作っていきたかった。涙がこぼれそうになる。
しかし、私は領主で責任もある。もし私の余命が少ないようなら、引継ぎをしなければいけない。私は涙をこらえて、声を絞り出した。
「家族は、ラーシア王国にいますが、すぐには来れません。勇者パーティーとゴブル管理官、レミナ書記官を呼んでください。結果次第では、後にギルマスにも話を伝えようと思います」
呼び出すとすぐにみんなが集まっていた。心配してくれたみたいで、グリエラとガイエルでさえ、飲みには行かずに結果がでるまで、待機していたようだった。
そして、私が合図をすると静寂を破るようにフローレンスが話始める。
「皆さん!!おめでとうございます!!ご懐妊です」
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