モフモフ天国
~勇者クラシア・ラーシア視点~
「えっ!!ナタリーさん?」
龍神様の秘書をしているヘンリーさんの助手のナタリーさんだ。間違いない。
何度も顔を合わせているが、ほとんど話すこともなく、クールで仕事ができて、近寄りにくいイメージだった。
しかし、お盆からお茶を落とし、更に拾おうとしたところをカップに蹴躓いて激しく転んでいた。どう見てもクールな女性には見えない。
「クラシア様!!大変失礼しました。楽しんでいただけて嬉しく思います。ここは私の実家なのです」
「そうなんですね。私も子供の頃からこちらの大ファンです。こっちのミミちゃんが私の「推しモフ」なんですよ。ところでどうしてこちらに?」
「実は・・・ちょっと困ったことがありまして・・・・」
ナタリーさんの話によると、テトラシティにモフモフ天国のようなダンジョンができたことから、カフェや宿泊施設をオープンできないかと思い、両親や主だったスタッフがテトラシティに向かったそうだ。因みにナタリーさんの実家はモフモフ天国のカフェや宿泊施設を経営しているらしい。
テトラシティでかなりの額を投資したみたいだが、テトラシティではモフモフダンジョンの人気はなく、このままでは大赤字になりそうとのことで、龍神様に急遽無理を言って、実家に戻り、落ち着くまで手伝うことになったらしい。
「私達が勤めているのはコンサルティング会社なのですが、社長の計らいで、ヘンリーさんはテトラシティで両親を手伝ってくれているんです。私は・・・その・・足手まといなんで・・・」
「それは大変ですね。何か私にできることがあれば遠慮なく言ってくださいね。それはそうと話してみて、ナタリーさんのイメージが変わりました。バリバリ仕事ができて、とっつきにくいイメージだったのですが・・・」
「そうなんですね。ヘンリーさんからは『馬鹿がバレるから人前であまり喋るな』って言われてまして・・・まあ、ヘンリーさんは仕事ができてクールで・・・・」
「本当にひどい!!エリートヘンリーって呼ばれてたくらいだから、人の気持ちが分からないんですよ!!」
ヘンリーさんのナタリーさんに対する態度に少し腹が立った。
「あっ・・でも、テトラシティで両親を手伝ってくれてますし、ヘンリーさんはすごいんで!!」
そんな会話からナタリーさんとは凄く仲良くなった。予定にはなかったが、モフモフ天国で宿泊することになった。推しモフと一緒に眠れるというのが売りだそうだ。
これにはみんなが喜んでいた。クラーラ婦人も
「そうね、せっかくだから私も泊まろうかしら」
と言って、私達と一緒に宿泊することになった。
夜は男性陣と女性陣に分かれて宿泊したのだが、ナタリーさんが今後の不安について漏らす。
「テトラシティの関係は大赤字になるかもしれません。そうなれば、ここも手放さなくてはいけないかもしれないですし・・・こっちにも、もっとお客さんが来てくれればその負債を埋めることができるのに・・・今は常連さん相手に細々とやっているだけなんで・・・」
何とかしてあげたい。ラーシア王国だけでは集客に限界がある。ダッカや他の都市から集客できればいいと思うし、富裕層をターゲットにしたプランを考えればいいのかもしれない。
ここで私は一つ提案をした。
「クラーラ婦人。モフモフ天国を救うと思って、港の開発や港からラドクリフ領までの街道整備に協力してもらえませんか?ダッカの富裕層や他の都市からの集客を上手くできれば、モフモフ天国も発展すると思うんです」
「そうね。モフモフを愛する者として、それを言われたら協力しないわけに行かないわね。そうなると・・・・まずはモフモフの素晴らしさを広めないとね」
そこから話はとんとん拍子に進んだ。
有力貴族のラドクリフ公爵が港建設に賛成し、街道整備も積極的に行うことになり、それまで様子見をしていた貴族や有力者も港建設に協力することになった。これにはトルキオさん達も大喜びだ。
話はついたことから、私達はダッカに戻ることになり、ナタリーさんとクラーラ婦人も同行することになった。二人が同行した理由はモフモフ天国のPRのためだ。効果的なPRについてはトルキオさんに一任している。
どんな方法を取るのかと思ったが、トルキオさんが紹介したのはあの大女優のアンジェリーナさんだった。嫌な予感がする。ルナは顔が引きつっていた。昔の記憶が蘇ったのかもしれない。
5日程ダッカに滞在した後、モフモフ天国の発展を心から祈りながら、私達はダッカを出発してニューポートに戻ることになった。
~ナタリー・ヒューゲル視点~
「違うわ!!もっと感情を込めて!!モフモフ達の可愛さに頼るだけじゃ駄目よ。演技力も身につけないと今後、女優としてやっていけないわよ!!」
「す、すいません・・・集まれ!!我に集いしモフモフよ!!」
私は一体何をやってるんだろうか?
実家のモフモフ天国の発展のためにトルキオさんという大商人にプロデュースを頼んだら、おかしなことになった。大女優さんに演技指導されている。何でも、演劇でモフモフ天国を広めようということで、詳しくは教えてくれなかったが、過去にもこの作戦で成功しているようだった。
私の他に演劇に出演するのは、クラーラ婦人と一角兎のミミ一家、黒羊のブラック、フワフワ熊のベル夫妻だ。家系的に魔物使いの才があるみたいで、モフモフした魔獣限定だが、意思疎通ができる。
クラーラ様も魔獣たちも乗り気だ。特に魔獣は、演劇の後のふれあいイベントで、美味しい餌をいっぱいくれるし、チヤホヤされるので、スター気取りだ。
黒羊のブラックなんて、本番前に念入りにブラッシングを要求してくる。すぐにモフモフされて、毛並みもなにもないのに・・・・
主演兼魔獣たちのマネージャーみたいなことをしているので、本当に疲れる。
ただ、その甲斐もあり、モフモフ天国の客足は伸びているみたいだった。
しかも、今日からはテトラシティに入って、両親とヘンリーさんとともに活動することになった。
ヘンリーさんに事情を説明すると、大女優さんと打ち合わせを始め、演目が変更された。
せっかくセリフを覚えたのに・・・
しかし、この演目変更が功を奏して大ヒットとなった。
「ヘンリー君はいいわ!!うちのプロデュ―サーに雇いたいくらいだわ」
大女優さんも絶賛していた。本当にヘンリーさんは何でもできるのね・・・・
ストーリー的には、高難易度ダンジョンで全滅しかかったパーティーが、モフモフ達にセフティースポットへ誘導されて、生還するといった内容だ。
因みに私は演技力の無さと、ヘンリーさんと大女優さんの駄目出しで、主役を降板させられた。主役はクラーラ婦人がノリノリで演じている。冒険者をしていたこともあり、傷付いた冒険者のリーダー役が板についている。
私は、専ら魔獣たちのマネージャーで、遂に一角兎のミミの子供にまで馬鹿にされる有様だ。
テトラシティでは、モフモフダンジョンは消えて、セフティスポットにモフモフ達が登場するようになり、セフティスポットに出店することで、経営のほうも持ち直した。
それから、魔獣たちは今回の公演で味を占めたのか、またやりたいと言ってきた。ヘンリーさんに相談したら、モフモフ天国でショー的なものをしてはどうかとアドバイスされた。
これには両親も大喜びで、細かいノウハウをヘンリーさんと大女優さんに聞いていた。
と、ここまで話してきたが、私は女優でも、ましてや魔獣たちのお世話係でもない、れっきとした敏腕コンサルタント(見習い)だ。
「何が敏腕コンサルタントだ!!実家が経営不振のコンサルタントなんて聞いたことがないぞ!!」
「えっ!!ヘンリーさん、心の声も聞こえるんですか?」
「お前・・・独り言が漏れてたぞ」
恥ずかしい。
女優の稽古のせいで、自然と独り言が漏れていたようだ。
「ほら!!馬鹿なこと言ってないで、龍神様のところに帰るぞ。仕事が途中だろ?」
女優をクビになり、魔獣たちには馬鹿にされ・・・しかし、敏腕コンサルタントの戦いは始まったばかりだ。
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