ダンジョン攻略5
~勇者クラシア・ラーシア視点~
ゴブリン達に囲まれている。これはかなりまずい!!
私はスラッシュストライクの副作用でしばらく動けない。
前衛の3人もかなり疲弊している。ルナは体力も魔力も十分に残っているが、この状況を一人で打開するのは厳しい。
どうする?
ルナに広範囲の攻撃魔法を連続で撃ってもらい、ある程度数を減らして、手薄なところに一点突破して撤退する。
そこで、体力と魔力の回復を待って、本格的に戦闘に入る。
しかし、この状況ではかなり損害がでるだろう。一斉に攻撃されたら、場合によっては死亡するメンバーも出るかもしれない。
そうしたところ、リーダーぽい壮年のゴブリンが歩み出てきた。ロイに向けて
「少年よ。まずは魔道具での映像記録を止めてくれ」
と言ってきた。
ダンジョン攻略に際して、魔道具により映像記録を取っている。
ロイが管理してくれているのだけど、なんで知っているんだろう?
ていうか人語を話しているし。
私はロイに映像記録を止めるように指示し、その旨をリーダーゴブリンに伝えた。そうしたところ、
「敵意はない。我はこの付近のゴブリン族をまとめているゴブタンというものだ。我が娘ゴブミを助けてくれたことに礼を言おう。まずは我の話を聞いてほしい。それで今後敵対するか、交渉するか決めてもらいたい」
と言ってきた。助けたの少年じゃなくて少女だったんだ。まあ今はそれどころじゃないけど。
「私は勇者クラシア・ラーシア。聞くだけは聞きましょう」
するとゴブタンは語り出した。
「分かった。まず我がゴブリン族だが、魔物ではない。歴とした魔族だ。魔物と魔族との違いは分かるか?」
「そんなの簡単だぜ!!どっちもぶっ殺せばいいだけだ」
とガイエルが答えた。
「まあエルフの言いそうなことだ。ゴブリン族は繁殖能力が高く、そのため性欲も非常に強い、中には不届き者がいて、メスとみれば、種族関係なく襲うものもいる。それで我らと同じく森で暮らすエルフには本当に嫌われている」
私とルナは身震いした。
「心配しなくていい。この付近のゴブリン族はそういうことは厳しく禁じているので安心してくれ。まあ話が逸れてしまったが、魔族は人族と同じと考えてもらっていい。人族にも人間、ドワーフ、エルフといるように魔族にも様々な種族がいる。魔物は知能を持たず、そこら辺の獣と大差がない。ただ魔力が強い獣という認識でいいだろう」
「それでは本題に入る・・・・」
内容はこんな感じだった。
・ほぼ最弱の種族であるゴブリン族は魔族領での生存競争に勝てず、この地まで来た。
・そこでも、定住できずにこのダンジョンに逃げ込むようにやってきた。
・幸い森林フィールドもあり、外界と同じような生活ができたので住み着いた。
・ダンジョンから自然発生する魔物を討伐したり、ごくごくたまにやってくる冒険者を撃退したりして、平和に暮らしていた。
・しかし、突然ミスリルリザードが出現した。
・そこからは地獄のような日々で、魔物は活性化するし、ミスリルリザードは好き勝手に暴れるしで、困り果てていた。
・自分たちでミスリルリザードを討伐しようとしたが、火力が足りず断念した。
「そんな状況で、勇者パーティーがミスリルリザードの討伐に向かったとの情報を得た。自分たちではどうにもならないので、勇者にミスリルリザードを討伐してもらおうと考えたのだ。今思えばすぐに勇者殿に接触して、協力を頼めばよかったと思うのだが、ゴブリンと見れば見境なく襲ってくる輩もいるので、直接接触せずミスリルリザードまで誘導することとにしたのだ」
「止むに止まれぬ事情があったのは理解しました。戦闘のなかでミスリルリザードの特徴や弱点も教えて貰いましたし、お気になさらず」
「そう言ってくれたら助かる。ここでお願いだが、どうか我々を今のままこのダンジョンに住まわせて欲しい。5階層以上には特段の理由がない限り行くことはない。鉱山も5階層までなので、人族への影響もないはずだ。人族も6階層以下には立ち入らないようにしてくれたらありがたい」
ここがラーシア王国であれば、お父様や大臣に掛け合って話を進められる。
しかしここはノーザニア王国だ。いかに勇者といえどそんな権限は私にはない。もし私がノーザニア王国の国王だったらどうするか?
冷静に考えてみた。
6階層以下に大変な資源がある場合、大きな利益を生む。
無理をして6階層以下の制圧を考慮する場合もあるだろう。しかし、ここまで知能が高く、組織だった軍事行動が取れるゴブリンを相手に力技で制圧を考えるのは愚策だ。
大きな損害が出る。割に合わない。交渉の場を設けて、落としどころを探り、より有利な条件を引き出すほうが得策だろう。
聡明なノビスおじさんなら、きっと力技でゴブリン達を制圧するようなことはしないだろう。
「私は勇者であるとともにラーシア王国の第一王女でもありますが、他国のことについては干渉できません。しかしながら、今回のミスリルリザードの討伐に協力してもらったことなどについてはノーザニア国王にしっかりと伝えます。ノーザニア国王は聡明な方でいらっしゃるので、より良い解決策を出してくれると思います」
「とりあえず、すぐに敵対関係になることはない。今後の我々の交渉次第ということか」
なんとか戦闘は避けられた。