厄介な移住者
~勇者クラシア・ラーシア視点~
「お久しぶりでございます、クラシア王女。こちらがレオナルド王より預かった書状になります」
「こちらこそ。リザド将軍もお元気でしたか?それにリザラも」
「もう将軍ではございませんので・・・・」
今、私が面談しているのはラーシア王国海軍のリザド将軍とその娘のリザラだ。二人はリザードマンで娘のリザラは一緒にセントラルハイツ学園に通った仲だ。リザド将軍の後ろには、リザードマン20名が控えている。
父からの書状を確認する。
龍神様が現れたと聞き、居ても立っても居られなくなり、娘と部下を引き連れてニューポートのにやってきたそうだ。リザードマンにとって古龍は神に近い存在で信仰の対象でもあるらしい。
(いきなり将軍クラスが抜けて、ラーシア王国の海軍は大丈夫なの?)
書状には、リザド将軍は3年後に退官予定だったが、退官の時期を早めたそうだ。後任はリザラの兄が務めると書いてある。ニューポートで好きなように使って欲しいとも書かれていた。
「我らリザードマンは水中や湿地帯での活動が得意なことはお分かりだと思います。いきなりこの町で海軍を作って欲しいとは申しません。まあ漁師の真似事でもして凌ぎますので、王女様に迷惑を掛けるようなことはありませぬよ」
「それは有難いのですが・・・・」
私は東の海がクラーケンという魔物のせいで、碌に漁もできない状態であることを伝えた。
「なんとそんなことが・・・・」
「当面の間は東の海の調査とクラーケンの情報収集を行ってください。あまり多くは出せませんが給料を払います。詳しくはレミナ書記官と協議してください。近々会議を開きますのでそのときはお知らせします」
「ありがとうございます。精一杯頑張らさせていただきます」
出費が増えたと思うが、それでも東の海の開発に最適な人員を送ってくれた父に感謝した。
この日の移住者はまだ続いた。
次に謁見したのは何とオルマン帝国のトーマス・ダンカン将軍だった。
「家督も息子に譲り、妻にも先立たれた独り身です。残りの人生をニューポートに捧げさせていただきます」
理由を聞くと先日の大陸会議で、例のごとくオルマン帝国の皇帝がニューポートのダンジョン攻略について自慢し始め、各国の代表はうんざりして聞いていた。それに対して神聖国ルキシアの聖女カタリナ・クレメンスが「帝国は各国に比べて人的な支援をしていない。ロイ殿とマティアス殿は帝国出身というだけで、実際の国籍はノーザニア王国でしょう」と嫌味を言ったらしい。
これにオルマン帝国の皇帝は怒り、「帝国は人的資源も豊富だから、一級品の人材を派遣してやる」と
売り言葉に買い言葉で喧嘩になったらしい。
なので、帝国軍を除隊したダンカン将軍に白羽の矢が立ったようだ。
「事情はよく分かりました。ただダンカン将軍に相応しい役職と待遇を用意できるか・・・」
「それならトーマスはギルドで面倒を見るよ。訓練所の所長ということで常駐してもらえればこっちも助かるし・・・体裁を気にするなら特別軍事顧問みたいな、形式的な役職を与えておけばいいじゃないか。有事の時は嫌でも招集がかかるからそれでいいだろ?」
いつの間にギルマスはダンカン将軍と仲良くなったのだろうか?それはさておき、ダンカン将軍の給料をギルドで払ってくれるのは有難い。この案を採用することにした。
「それではダンカン将軍を特別軍事顧問に任命します。普段はギルドで仕事をして、定期的にゴブリン族の自警団の訓練を行ってください」
「分かりました。ご期待に沿えるように頑張ります」
やっと終わったと思ったらもう1組移住希望者が来た。阿修羅族が20名程やってきた。代表はアースラという女性で何でも5代目勇者パーティの三姉妹の三女ヨックさんの娘さんらしい。シクスさんとアッシュとは従妹になるみたいだ。
「まあ阿修羅族は最強だから、好待遇を望む。なんならアンタと戦ってやってもいいけど」
無礼な口ぶりにシクスさんがキレた。
「おまえ!!領主様になんて無礼な態度なんだ!!俺やアッシュには歯が立たないくせに」
「あの頃の私じゃないしな!!」
まだ若いし、強さをアピールしたい年頃なんだろうか?
「とりあえず、住居は提供します。今後の方針についてはまた連絡しますので、今日はお下がりください」
そう言ってその場を収めた。
数日後、ゴブル管理官とシクスさんを連れて、ギルドの訓練所に視察に来ている。
何やら部隊が行進する音と号令のような声が聞こえて来た。アースラさんの声だ。
「前へ進め!!右向け右・・・・」
信じられない光景を見た。阿修羅族が整然と行進している。
「アースラ達は調子に乗っていたので、自分とトーマスさん、それにガイエルさんとグリエラさんが順繰りでボコってやりました。その後にゴブリン達10人とアースラ達5人で模擬戦をしたのですが、ゴブリン達に負かされてしまいました。それで気持ちが折れてしまったみたいで、トーマスさんの訓練を受けることになったんです。今は集団行動と行進からシゴかれてますね」
すると、ダンカン将軍が私達に近付いてきた。
「領主殿自ら視察とはご苦労様です。まだまだですが、阿修羅族も統率の取れた動きができるようになりました。これからどんどんと強化していきますよ」
(阿修羅族は集団行動ができないと評判なのに・・・・どうやったらこんなことができるの?)
帝国を代表する猛将にラーシア王国の元海軍の精鋭達、統率されたゴブリン族と阿修羅族の部隊。
一体私達は何を目指しているんだろうか?
それにこの人達は本当に戦争でもするつもりなのだろうか?
戦力が増えて嬉しい反面、複雑な気分にもなる。
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