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大帝国の誇り6

~勇者クラシア・ラーシア視点~



いよいよダンジョン攻略作戦が始まった。ロイが考えた作戦を聞いたときは、正直びっくりした。本当に上手くいくのだろうか?

でも私は信じている。ロイは決戦で勇者パーティーを勝利に導いた優秀な指揮官だから。


初日はパーティー編成をガラッと変えていた。バランスを無視した尖った編成で、全員が剣士のパーティーや弓使いと魔術師だけのパーティーもあったし、斥候部隊員だけのパーティーもあった。当然攻略は失敗した。

2日目は、全員に覆面をさせて兵科を変えて臨んでいた。剣士は弓兵に魔術士は槍使いにといった具合だ。この日も攻略は失敗に終わった。

ここまでは布石だ。


そして3日目、いよいよダンジョン攻略を目指すダンカン将軍のパ―ティーが攻略に挑む。

少し変わった編成だ。ダンカン将軍とマルロ大臣に加えて弓兵を3名編成していた。


「1日目で帝国軍のセオリーを無視した特化型のパーティーで攻略に挑んでいたので、今回特殊なパーティー編成で挑んでも、ダンジョン側にマークされないと思います」


なるほど、これが1日目に尖ったパーティー編成で挑んだ理由か。


「2日目に覆面をさせ、兵科を変更してダンジョン攻略に挑んだ理由は、ダンジョン側の分析能力を見るためです。最終的には部隊員の個人特定をされましたが、かなりタイムラグがありました。なので今回は・・・・」


ロイの説明が続く。


まずは実力者を揃えたスペシャルチームに覆面をさせて投入する。ダンジョン側は個人特定される前に攻略してしまう作戦と思ってしまう。しかしそれも囮だ。メインはダンカン将軍のパーティーだからだ。


ダンカン将軍のパーティーに編成された弓兵はいずれも懲罰訓練を受けていた弓兵だった。この者達はニューポートに着いて早々に飲み過ぎて集合時間に遅刻してしまったらしい。部隊の規律を維持するため、ダンジョン攻略には参加させず、懲罰訓練を受けていたそうだ。真面目に取り組んでいたので、そろそろダンジョン攻略に参加させてもいいと許可が出ていたそうだ。なので、今回参加するメンバーは誰一人として、ダンジョンには入っていない。


因みに阿修羅&ゴブリンズのシクスさんを除く、ゴブル管理官、カリン、コリン姉妹も懲罰訓練に参加していたそうだ。

しばらくして、作戦本部で待機していた私達に作戦本部員が声を掛けてきた。ダンジョンボスエリアにダンカン将軍のパーティーが到達したみたいだ。ヘンリーさんが取り付けてくれた映像記録の魔道具でギルド支部でボス戦のみ、リアルタイムで見ることができるので、私達は専用の部屋に移動した。


映像を確認すると弓兵3人と聞いていたけど見た目は、全く違っていた。私が困惑しているのが分かったのか、ハインリッヒ副官が解説をしてくれた。


「まず剣士に見えるのがベンノ、斥候部隊員に見えるのがエッポです。帝国軍では平均的な弓兵で、ダンジョンボス戦までは申し訳程度の戦闘しかさせていません。そしてダンカン将軍ぐらい体が大きく全身鎧で大楯を持っているのがダンテです。彼は期待の弓兵で、実家は名門の弓使いの家系でして、彼の祖父は「帝国の剛弓」として名を轟かせました。しかし彼自身は、大人しく人見知りする性格なので、新入隊員のときに重装歩兵と間違われ、『自分は弓兵です』と言い出せず、半年間重装歩兵として過ごした経験があります。なので重装歩兵としてもそこそこの活躍ができます」


「ダンテさんは凄い経歴の持ち主ですね。マルロ大臣はどうなんですか?」


「ああ見えてマルロ大臣は実力者ですよ。ほぼすべての兵科で冒険者ランクでいうB~Cランクの仕事ができます。今回も罠の解除はマルロ大臣が行うことになっていました。それに今回はダンジョンボス戦まではダンカン将軍にはタンクとして行動してもらうことになってましたので、メインアタッカ―としても活躍してもらいました。回復魔法も使えますし、ボス戦ではサポートに回ります」


「実は凄かったんですね、マルロ大臣は。」


「はい。因みに二つ名は「器用貧乏、雑用係のマルロ」ですね。大臣になる前はダンカン将軍の副官でした。ダンカン将軍の奨めもあり、文官となりましたが、あのまま副官でいてくれたらダンカン将軍ももっと出世できたかもしれません」


「器用貧乏、雑用係のマルロ」か、ローグさんみたいな感じだろう。しかし、「安心安定、一家に一台のローグ」に比べて、扱いがひどい。多分苦労してきたのだろう。

今度はロイが説明を引き継ぐ。


「ダンジョン側から見れば、平均的なタンクが2人、未熟な剣士と斥候、そこそこの魔法剣士のパーティーという認識だと思います。近接戦に特化したパーティーでも、1日目で偏ったパーティーを多く攻略に当たらせているから、変な勘繰りもしないと思います。それでダンジョン側が出してくるボスは?」


「飛行系?」


「そうです。飛行系の魔物には弓兵が非常に有効ですよね。ボスがワイバーンクラスなら余裕ですよ」


なるほど、こちらの弱点を突いてくる戦法の裏をかいたいい作戦だ。それに今回のパーティーはダンジョン側に分析されていない。後は飛行系の魔物のランクだけだろう。

しばらくしてダンジョンボスが現れた。

ミスリルワイバーンだった。私達も苦戦した魔物だ。


「ミスリルワイバーンか。少し心配ね」


私がつぶやくとハインリッヒ副官が言った。


「ミスリルワイバーンは想定していました。ダンカン将軍なら大丈夫です。本気のダンカン将軍は凄まじいですよ」


戦闘が始まった。ベンノさん、エッポさん、ダンテさんの三人は弓を装備した。マルロ大臣は収納魔法も使え、三人に弓矢を手渡した。空中のミスリルワイバーンに一斉射撃を行う。

この三人は連携が取れていた。ベンノさん、エッポさんが速射で注意を逸らし、ダンテさんはパワーショットで一気にダメージを与えていた。ベンノさん、エッポさんは威力はそれ程でもないが、息の合った連携攻撃で何よりも連射速度が凄い。ハインリッヒ副官は


「地獄の速射訓練が生きているようですね。詳しくは実際に訓練に参加していたカリン殿に聞いてもらえれば、その過酷さが分かりますよ」


と言っていた。二人の速射の合間にダンテさんの強力なパワーショットが飛んでくる。まさに剛弓といった感じだ。しばらくしてミスリルワイバーンは地上に降り立った。


「もう勝負は決まりました。いいものが見られますよ」


ハインリッヒ副官は自信満々に言った。

地上に降り立ったミスリルワイバーンにダンカン将軍とマルロ大臣が接近する。作戦を知らない者が見たらメインアタッカ―のマルロ大臣をタンクのダンカン将軍がサポートしているように見える。ミスリルワイバーンは二人が弓兵隊の射線に入るようにうまく誘導していたので、弓兵隊は上手く援護できなくなっている。

こういう戦い方をされたら並みのパーティーでは攻略できない。


しばらくして、ミスリルワイバーンはミスリルの弾丸を撃ってきた。ダンカン将軍が大楯でしっかりと受け止め、その後ろにマルロ大臣が退避する。弓兵部隊もダンテさんが大楯を構えて、残りの二人がその後ろに退避してやり過ごす。

いつものパターンだとここで、ミスリルワイバーンは上空に逃げるのだが、今回は地上戦を継続した。弓兵部隊の存在があるからだ。ミスリルワイバーンもかなり戦略的に戦っている。

地上戦はマルロ大臣が積極的に攻撃していたが、火力が足りず、なかなかダメージを与えられない。

クールタイムが終ったら、またミスリルの弾丸を撃ち出してきた。


そんな攻防が数回繰り広げられた後にハインリッヒ副官がつぶやいた。


「そろそろですね」


マルロ大臣がミスリルリザードの背後に回り込む動きを見せた。ミスリルワイバーンはマルロ大臣の動きに合わせて、誘導される。隙ができた。

するとダンカン将軍は背中に背負っていた大剣を抜き、ミスリルワイバーンに一気に振り下ろした。


「金剛斬!!」


気合を込めた一撃は何とミスリルワイバーンを真っ二つにしたのだ。そして、ミスリルワイバーンは消滅した。ミスリルワイバーンを一撃で仕留めるなんて凄すぎる。ハインリッヒ副官の説明では、ダンカン将軍の必殺技の「金剛斬」は発動までにかなりの時間が必要だが、威力だけなら帝国一だという。


「ダンカン将軍は本当に凄いですね。武力だけでなく、統率力もあって。以前呼んだ雑誌の記事には「頭のおかしな脳筋将軍」みたいなことを書かれてましたけど」


ロイが言う。


「そのことですか。ダンカン将軍は多くの者に慕われている反面、敵も多い。ゴマすりや世渡りだけで成り上がった者からは疎まれています。そいつらがダンカン将軍の悪評を流しているのです」


そんな話をしていたところにゴブル管理官がやってきて、ロイに抱き着いた。


「ロイ!!これで貴様も誇り高き帝国軍人だ!!」


だから、貴方は一体何なの?


周囲を見回すと部隊員達が、あちらこちらで抱き合ったり、「帝国バンザイ!!」と叫んだりして盛り上がっている。

喧騒に包まれる中、私はロイに近付いて、耳打ちをした。


「後片付けが終ったら執務室に来て。ご褒美のモフモフをさせてあげるから・・・」


私はハインリッヒ副官に「食事と酒をこちら持ちで用意しているから、今日は楽しんで欲しい」と伝えて領主館に戻ることにした。


モフモフまでに少しでも仕事を片付けておこう。

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