大帝国の誇り5
~勇者クラシア・ラーシア視点~
困ったことになった。ダンジョンの難易度が上がってから全く攻略できていない。それにここ1週間に限ればダンジョンボスにすらたどり着けていない。当初の予定では1ヶ月の滞在で4組の攻略パーティーを出し、栄えある第10組目の攻略パーティーを出して、華々しく帰還する予定だったようだが、無理そうだ。
なので、大幅に予定をオーバーして滞在している。問題は起こらないし、滞在すればするだけ、こちらの利益は上がるので嬉しいのだが、ダンカン将軍はお怒りの様子だ。
それとゴブル管理官の目つきが最近おかしい。疲れているのだと思い声を掛けた。
「自分は大丈夫であります!!力の限り、やり遂げて見せます!!」
相当訓練で追い込まれているのだろう。
「訓練で大変でしょうけど、こういう場では普通に話してね」
「了解であります!!」
(ダメだこりゃ・・・)
それにマルロ大臣も疲れているようだ。なぜかダンカン将軍の付き人にされ、訓練に付き合わされている。加えて滞在費がかさむことも心配の種らしい。
「このままでは滞在費が・・・ネリス商会に借りると利子が・・・龍の牙や鱗は売れないし・・・・」
この人も苦労人だ。滞在費のほうは、何とかなった。ギルマスであるパトリシア婦人が助けてくれて、冒険者ギルドの仕事を回してくれたり、ダンジョン攻略のパーティー数を減らし、素材採取班を編成して対応していた。
そして今日はダンカン将軍が作戦本部に喝を入れに行くそうだ。
私とゴブル管理官、マルロ大臣も同行する。作戦本部に入ると
「気を付け!!将軍に敬礼!!」
とゴブル管理官が号令を掛けた。
(どういうこと?訓練で何をされているの?)
「報告せよ!!」
ダンカン将軍の命令にハインリッヒ副官が答える。
「申し訳ありません。努力しておりますが結果に結びついておりません。実力者を集め、スペシャルチームを組んで任務に当たらせましたが、こちらも失敗しています」
「泣き言は聞かん!!活動記録を見せろ」
ダンカン将軍は、提出された活動記録を真剣に分析している。
しばらくして、ダンカン将軍は言った。
「この中にネズミがいる」
ネズミとはスパイのことだ。作戦本部員が研修中のロイを一斉に見た。ロイってスパイなの?
これにいち早く反応したのは、なぜかゴブル管理官だった。ロイの胸倉を掴み怒鳴る。
「貴様!!それでも誇り高き帝国軍人か?恥を知れ!!」
(というか、ゴブル管理官もロイも帝国軍人ではないし・・・)
「ロイ殿ではありません。考えられるとしたら龍神様の秘書と名乗る者達と思われます」
ハインリッヒ副官がロイを庇う。ヘンリーさん達と考えれば辻褄が合う。ナタリーさんは色々とハインリッヒ副官に聞いていたし、ヘンリーさんは活動記録や報告書を真剣に見ていた。
「ダンジョンの難易度が上がったといっても劇的に魔物の数が増えたり、エリアボスが格段に強くなったりしたわけではありません。なぜかこちらが編制したパーティーの弱点を的確に突いてくるのです。グレートボアやグレートコングごときに遅れをとるようなことはないはずなのに・・・それに斥候部隊員を1人は組み込まなければ対応できない罠が仕掛けられていたり・・・」
ハインリッヒ副官の説明の途中で大きな音がした。ハインリッヒ副官がダンカン将軍に殴られた。
「我が怒っているのはダンジョン攻略が進まないからではない。ハインリッヒ!!お前ならもっと前にこの異変に気付いていたはずだ!!なぜもっと早く報告しないのだ。異変があったら即報告。基本中の基本だろうが!!新入隊員からやり直せ!!」
「申し訳ありません」
「まあいい。今なら取り返せる。敵も舐めたことをしてくれる。ダンジョンボスにもたどり着けないポンコツ部隊なんかB級C級の魔物で十分だと言われているようなもんだ。売られた喧嘩は買ってやるぞ。これはもう戦争だ」
これには作戦本部員の目の色が変わった。
「指揮官はハインリッヒが引き続き務めろ。それとロイ殿を特別参謀に任命する」
「えっと僕がですか?」
「拒否権はないぞ!!戦時帝国軍法には戦時下においては、将軍以上の権限で成人男子の帝国民を自由に徴兵できることになっているからな」
「そんな!!戦争って無茶苦茶ですよ。それに責任ある役職なんて・・・」
「まだ言うか。貴殿にはスパイ容疑が掛かっており、スパイ防止法によれば容疑が晴れるまで拘束できることになっている」
ダンカン将軍はただの脳筋野郎に見えて、実は凄い切れ者だ。
それにヘンリーさん達を連れて来た私にも責任がある。
「ロイ!!ニューポート領主として命じます。特別参謀として役目を果たしなさい。私も腸が煮えくり返っています。同級生のよしみで良くしてあげたのに・・・絶対に攻略しなさい。成功したらしっかりご褒美をあげるから!!」
「領主殿の承認もいただいたことだし、しっかり頑張れ!!1日待ってやるから作戦を立案し、ハインリッヒとともに報告に来い!!因みに敵前逃亡は死刑だからな」
ロイ、頑張るのよ。あなたなら大丈夫。終わったら好きなだけモフモフさせてあげるから・・・
「ロイ!!帝国軍人としての誇りを持って、必ず任務を完遂しろ!!」
ゴブル管理官がまた怒鳴る。ゴブル管理官って一体・・・
~サポーター ロイ・カーン視点~
大変なことになってしまった。こんなことなら真面目にダンカン将軍の訓練を受けておけばよかった。
必死で作戦を考える。研修期間で作戦本部の方やハインリッヒ副官とも仲良くなり、予想以上に協力してくれた。
活動記録を見ると本当に弱点を突いてきている。作戦本部は、どのパーティーにもメインアタッカ―となれる冒険者ランクでいうところのAランク、Bランクの部隊員を入れて、メインアタッカ―を生かす戦術を採用している。これにはメインアタッカーの攻撃を無効にするような方法が取られていた。
剣士がメインアタッカーのパーティーには飛行系の魔物を中心とした攻撃を仕掛けてくるといった具合だ。
実力者を揃えて攻略に臨んだときは、個人個人の弱点を嫌らしく突いてきていた。剣士を例に取ると連続攻撃の後に一瞬攻撃が止まる癖を突かれていた。
これで考えられるのは、一人一人の部隊員に対して、緻密にデータを取られているように思われる。
そのことをハインリッヒ副官に伝えると作戦本部員に指示して検証してくれた。結果は僕の予想が当たっていた。
ということは・・・僕は一つ作戦を思いついた。
後は、攻略パーティーの編成だが、これはハインリッヒ副官の仕事だ。
それからはハインリッヒ副官と協議を徹夜で行った。
「しかし本当にロイ殿は思い切った策を練りますな!!この策を採用する指揮官は勇気がいる」
そして、次の日ハインリッヒ副官とともにダンカン将軍に報告にいった。クラシアにも立ち会ってもらった。
「3日ください。その間に攻略パーティーを編成します。3日間でやることは・・・」
作戦の主旨を説明した。
「なかなかの策だな。ハインリッヒよ。貴様が決断したのだな?」
「はい。もうこれしかないと思います。それと将軍に攻略パーティーに入っていただくことを考えております。我々だけの戦力では無理です。不甲斐ないこととなり、申し訳ありません。この責任は・・・」
とハインリッヒ副官が言いかけたところで、ダンカン将軍はハインリッヒ副官の肩を優しく叩いた。
「それでこそ我の後継者だ。勇気を持って、「無理だ。できない」と進言することも指揮官として重要な資質だ。それができるようになった貴殿を遠征部隊の部隊長に正式に任命する。今から我はただの一部隊員だ。部隊長として命令せよ!!」
そしてハインリッヒ副官は吹っ切れたようにダンカン将軍に命令した。
「トーマス・ダンカン!!貴殿をダンジョン攻略パーティーに任ずる。必ずやダンジョン攻略を成し遂げてみせよ!!」
「了解である!!」
気合の入った声が響き渡った。それから具体的なパーティー編成の話になったときにダンカン将軍は
「我のパーティーにマルロを入れろ。今は戦時下だから将軍権限で徴兵できるしな」
と言った。マルロ大臣は青ざめていた。
「部隊長としては本当にありがたい。攻略成功間違いなしです」
僕がいうのも何だが、マルロ大臣はそんなに強そうには見えない。骸骨騎士様との闘いを見ても基本はできているが圧倒的な強さは感じなかった。
ダンカン将軍が推薦するくらいだからこの人も何かあるのだろう。
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