大帝国の誇り3
~勇者クラシア・ラーシア視点~
ダンカン将軍の要望で向かったのは冒険者ギルドで、要件はダンジョン攻略を達成したパーティーの活動記録を見たいとのことだった。
何も急いで見なくてもと思ってしまった。お付きの騎士達の一人が「俺達も早く休みたい」みたいなことをつぶやいたのだが、これがダンカン将軍の逆鱗に触れてしまった。その騎士は頭に拳骨を落とされた。
「何を馬鹿なことを言っておる!!指揮官を志す者がそんな心構えでどうするんだ!!部隊員が休んでいるときこそが指揮官や作戦本部員の仕事だろうが!!どんな状況にも対応できるように予め準備しておくように何度も言っているだろう・・・・」
ダンカン将軍のお説教が続く。私まで叱られているように感じてしまった。
それからしばらく、ダンカン将軍は真剣に活動記録を分析していた。
「このベッツ・スパクラブの立ち回りは好感が持てるな。個人能力がずば抜けて高いわけではないが、自分の役割を理解して戦っている。それに思い切って撤退するところや無理をしないところなどは、お前達も見習うべきだ」
友人のパーティーが褒められると素直に嬉しい。
「それに引き換えチームピアースはふざけておる!!何人も女を侍らせて舐めているのか!!ハーレム気取りだ。だいたい魔族はチャラチャラした奴が多いんだ。お前達もこんなチャラチャラした指揮官になってはいかんぞ!!」
(ピアース王子。あなたのせいで魔族の評判が下がってますよ・・・・すごくいい人なんだけどね)
「ハインリッヒ!!今回の部隊編成はお前に任せる。我は引退する身だ。失敗を恐れず存分にやるがよい」
「はっ!!必ずや任務を完遂してみせます」
そんなやり取りが続く。まだまだかかりそうだったので、歓迎の宴は明日に延期すると伝えて、私は領主館に戻ることにした。真面目で優秀な将軍だと思うけど部下は大変だと思ってしまった。
次の日歓迎の宴が始まった。
自警団の報告では、帝国の部隊員はみんな礼儀正しく、トラブルの心配はないとのことだった。また、第10軍団からの情報ではニューポートまでの道中も目立ったトラブルはなく、盗賊を退治したり、魔物を討伐したりして、感謝されていたようだ。
「帝国部隊は統率が取れ、礼儀正しくて素晴らしいですね」
私が口にするとダンカン将軍も嬉しそうだった。それにロイの料理も絶賛していた。
「こちらはワイバーンの肉をマティアスさんのご実家であるブルーローズ家秘伝のソースで味付けしたものです」
「なんと!!こんなところで帝国料理を食べられるとは・・・」
「そしてこちらはあの骸骨騎士様にも認めていただいたロックバードの揚げ物です。魔族領のスパイスでお召し上がりください」
「これも上手い。貴殿も骸骨騎士様の弟子か?」
「そうです。一応合格とは認められました」
「なら我も兄弟子として貴殿に稽古をつけてやろう」
ロイが青ざめる。
「領主様の許可がありましたら・・・」
ロイがこちらを見て、目で断ってほしいと合図を送ってくる。さすがにこの雰囲気で断れない。
ごめんねロイ。ご褒美にモフモフさせてあげるから・・・
「是非お願いします」
ロイは絶望に打ちひしがれていた。
「こんな旨い物を食わせていただいて、何か礼をしなければなりませんな」
「オルマン帝国には十分な資金援助をいただいておりますので、お気遣いなく。どうしてもと言われるのなら・・・」
私は阿修羅&ゴブリンズの指導を頼んだ。そしてゴブル管理官の事情は伏せて、地元からもダンジョン攻略パーティーを何とか輩出したいと伝えた。
「なるほど、領主様のお気持ちは痛いほど分かりますぞ。この老体ではありますが、全力で指導いたしましょう!!」
快く引き受けてくれた。
次の日から、ダンカン将軍の訓練とダンジョン攻略任務が動き出した。
驚いたことにダンカン将軍と帝国部隊は別行動だった。ダンカン将軍曰く、今回の遠征の目的は後進の育成であり、ダンカン将軍自身は直接指揮はせず、基本的な心構えや礼儀を指導するに留めるそうだ。
なので、ダンカン将軍はギルドに併設している訓練所に入り浸っている。
私が視察に訪れたときは模擬戦をしていた。
最初はロイがダンカン将軍の相手になった。
ロイは遠距離からスリングショットで攻撃したり、罠を駆使して立ち回ったが、圧倒的なパワーの前に為す術なく敗北してしまった。
「ダンカン将軍。稽古をつけていただきありがとうございます。自分は領主の勇者クラシア様や他のメンバーに比べると武力が劣っています。なので、できれば作戦本部での研修を希望します!!」
(ロイ!!これ以上訓練するとヤバいと思ったので逃げる気ね)
「貴殿の立ち回りをみると指揮官としての才がありそうだ。分かった、特別に許可しよう」
「ありがとうございます。しっかりと勉強します!!」
ロイは嬉しそうに訓練所を後にした。ロイも強かになったものだ。
次はシクスさんが相手をしていた。
なせかダンカン将軍も素手で戦っていた。決着はつかなかったが、力と力がぶつかり合ういい勝負だった。
「でっかい爺さんすげえな!!またやろうぜ」
「貴殿もなかなかであったぞ。阿修羅族には注意するように部下には伝えよう」
お互い友情が芽生えたようだ。よし、次は私だ!!と思ったが一緒に来ていたレミナさんに止められた。領主と部隊長が戦っていたら変に勘繰られてしまう。
泣く泣く領主としての立場を優先した。
肝心の阿修羅&ゴブリンズだが、シクスさんはダンカン将軍だけでなくダンジョン攻略に参加しない部隊員に稽古をつけていた。シクスさんに指導できる人なんていないしね。
カリン、コリン姉妹は帝国式部隊の訓練を受けていた。体力的にきつそうだったが、何とかついていっているようだ。
ゴブル管理官はというと・・・可哀そうだった。
ダンカン将軍が付きっきりで指導している。
頑張れ・・・・
きっといつか、いいことがあるよ。
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