大帝国の誇り2
~勇者クラシア・ラーシア視点~
ロイとマティアスさんが入手した情報を基に検討する。
マルロ・マルク大臣が話した、帝国の威信と退役する英雄の実績づくりか・・・本当にそれだけだろうか?
「大規模な卒業旅行だって?本当に迷惑な奴らだね」
アドバイザーとして会議に参加していたギルマスのパトリシア婦人が声を上げた。本当に迷惑だ。
まずは今回の部隊の主要人物の分析をしよう。
「大臣やダンカン将軍についての情報はありますか?どういった人物か分かる人がいれば教えてください」
そう言うとギルマスが答えてくれた。
「その大臣だけど、若い頃は国軍の補給部隊にいてね。取引で何度か話したことがある。誠実で真面目な奴だったよ。タイプでいえば・・・・アンヌ大臣みたいな感じかな。人がいいから色々と面倒事を押し付けられてたなあ。まあ、変わってなければだけど」
なるほど、何となく想像できる。ロイの情報の「来たくないけど部隊に組み込まれてしまった」というのは正しいのかもしれない。
「よろしいでしょうか?ダンカン将軍については、こちらのブラックゲイルが情報を持っています。情報元は明かせませんが」
と言ってローグ隊長が話し始めた。
その横でブラックゲイル(ティアナさん)がこそこそと耳打ちをしている。
普通に話してくれないかな?面倒なんだけど・・・
ロイが「設定上、仕方ないので」と耳打ちしてきた。まあ我慢するか。
「ダンカン将軍は非常に実直で真面目な方です・・・・」
そう言うと、ブラックゲイルに耳打ちされたローグ隊長が話し始めた。
曲がったことが嫌いで謀略の類は一切しないそうだ。例え名家の子女であっても命令違反やふざけた態度を取れば問答無用でぶん殴るらしい。そのせいで、実力的にはもっと出世してもよかったが、将軍止まりだったとのことだ。
「これはある貴族令嬢の話ですが、その貴族令嬢は剣の腕に覚えがあったのですが、男性恐怖症だったのです。その貴族令嬢を国軍にスカウトに来たときに事情を聞いたダンカン将軍は『気合が足りん!!素振りと走り込みを吐くまでやれ!!』と言って延々と素振りと走り込みをさせたようです。なので、こう呼ばれていたそうです・・・」
ここでまたブラックゲイルがローグさんに耳打ちをする。
「脳筋クソジジイと・・・」
場が静まり返る。ティアナさんもいい印象は持ってないみたいだ。
話を聞く限り、かなり駄目な人だ。
「タイプでいうと魔族チームにいたアッシュを少し賢くした感じでしょうか」
主要人物から考えると本当にただの卒業旅行かもしれない。
「とりあえず、監視を強化して情報収集を続けましょうか」
そのように指示して会議を終了しようとしたところ、マティアスさんが発言した。
「畑違いですが、兵士の宿泊施設などは大丈夫でしょうか?ストレスを抱えた兵士がトラブルを起こし、それがきっかけで大きな戦闘になったりしませんか?」
マティアスさんは母国が原因で紛争が起きることを恐れていたようだ。
「マティアスさんの懸念も分かります。ただ、宿泊所については問題ありません。大人数が収容できる宿泊所が先日オープンしたばかりですし・・・・」
と言いかけてハッとした。すぐにレミナ書記官に指示を出して調査をさせた。
調査の結果、大規模な宿泊所をオープンさせたのはネリス商会だった。更に気を利かせたレミナ書記官が調査したところ、オルマン帝国の部隊に帯同している酒保商人もネリス商会だった。
この事実をギルマスに伝えたところ、すぐに動いてくれた。
しばらくして報告が届く。
「商業ギルドを通じて情報収集したところ、やっぱりただの卒業旅行で間違いない。ああ見えてトルキオは慎重だからね。戦争を起こそうっていう部隊にはまず帯同はしない。今回は卒業旅行で大盤振る舞いしてくれそうだから酒保商人に滑り込んだんだろうよ。それでその流れで大型の宿泊所に誘導するつもりだろう。本当に抜け目がないねえ。誰に似たんだろう?師匠の顔が見てみたいよ」
「それはあなたでしょ」という言葉は飲み込んだ。
それはさておき、戦争に発展する心配はなさそうだ。
そして当日、オルマン帝国の総勢100名の部隊がやってきた。
だらけたところとなど一つもない。整然と行進している。その先頭に馬に乗り、ひときわ大きな初老の男性が見えた。立派な顎髭をたくわえている。あれが件のダンカン将軍だろう。離れていてもオーラで分かる。いかにも武人といった感じだ。
出迎えは私と、深紅の軽鎧を纏ったロイとこちらも深紅のローブを纏ったマティアスさんで行うことになった。第10軍団とスペシャルブラックスの監視は続けるが、どうせなら滞在期間中は気分よく過ごしてもらい、魔族や獣人に対する良いイメージを持って帰ってもらおうというのが狙いだ。
帝国人のもてなしの基本「特別感、名誉、権威」を軸にダンカン将軍の好みの「基本と礼儀」を前面に出した応対を意識する。
(本当に面倒くさい人達だ。でも領主として笑顔での応対を心掛けよう)
それで検討した結果、私から名乗ることにした。
「ようこそお越しくださいましたダンカン将軍。ニューポートの領主のクラシア・ラーシアです」
「これは領主殿自ら出迎えいただくとは光栄です。我はオルマン帝国将軍トーマス・ダンカンであります」
良く通る気迫のこもった声だった。ロイとマティアスさんもダンカン将軍と挨拶を交わす。
「ロイ殿の活躍は聞いておるぞ!!父上のカーン子爵も誇りに思っているだろう。名誉上級宮廷魔術士のマティアス殿も息災で何よりだ」
「二人には本当に力になってもらっています」
「領主殿にそう言っていただけるとは大変名誉なことだ。帝国も惜しい人材を手放したものだ」
そう言って笑っていた。初対面では好印象を持ってもらったみたいだ。
続いては龍神殿に案内した。特別ゲストを呼んでいる。龍神様だ。
「遠路遥々よく来たな!!存分にそなたらの力を試すがよい!!」
龍神様の迫力にお付きの騎士達は圧倒されていたが、ダンカン将軍は臆することなく堂々と返答した。
「出迎え感謝いたします。正々堂々、全力で挑戦させていただきます」
龍神様との対面が終わった後、すかさずマルロ大臣が
「わざわざ龍神様が挑戦者のために出向いてくれることなんてないらしいですよ。我々は特別扱いされているみたいです」
とダンカン将軍やお付きの騎士達に説明する。
マルロ大臣は話が分かる人物で、こちらの意図を汲んだ対応をしてくれる。直接依頼はしていないが、なんとなく雰囲気で分かる。
それと龍神様だが、最近よく理由を付けて料理を食べにやってくる。この前なんか「新しいキノコをドロップアイテムにしたからその調査だ」と言ってやってきた。なので、今回のお願いも快く引き受けてくれた。この後別室で料理が振舞われる。私やロイはお相手できないので、ルナとレイ兄に接待を頼んでいた。ヘンリーさんもいるし、大丈夫だろう。
「長旅でお疲れでしょうから、宿にご案内しますので、ゆっくり休んでください」
とゴブル管理官が説明したところ、
「我儘を言って申し訳ないが、案内してほしいところがあります」
とダンカン将軍が言った。
一体どこに行くつもりだろう。
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