記念式典
~勇者クラシア・ラーシア視点~
ゴブル管理官とレミナ書記官の奮闘もあり、無事ダンジョンプレオープン記念式典が開かれることとなった。ゴブル管理官に担当してもらったニューポート北の龍神山麓の開発も順調に進み、ギルド、宿泊所、治療院の最低限の施設を突貫工事でなんとか完成させていた。
嬉しい誤算だが、すでに商店や飲食店も何軒か建設されて営業している。
調査したところ、トルキオさんが商会長のネリス商会の系列とポポル君の伯父さんが商会長のピクシー商会の系列だった。この段階でもう動き出す辺りは、本当に抜け目がない。本格的に飲食店や商店で儲けようというよりは土地の確保が目的だろう。これらの商会の系列店は、どれも将来一等地になりそうな土地ばかりに建設されていた。後は冒険者がたくさん来てくれたら大きな利益が見込める。
今回、一番苦労したのは出席者の選定だった。悩んだ末にお父様とレミナ書記官を通じてアンヌ大臣に相談した。これが上手くいった。人族側は大陸会議で各国の要望を聞いて調整してくれるとのことだった。それを元にノーザニア王国が魔国デリライトと調整する流れになった。
結局、出席する要人は、ノーザニア王国国王夫妻、トルキオさんとヘラストさん、魔国デリライトの王太子夫妻ということになった。
これも絶妙なパワーバランスのもとに成り立っていた。魔国デリライトの王太子はディアス王子で先日、正式に就任が決まったのだが、国内向けには龍神様に王太子就任の挨拶という体裁が整うし、人族の出席者にも配意した形にもなる。魔国デリライトの王とノーザニア王国の王とどちらが上か?なんてことにならなくて済むようにである。
トルキオさんとヘラストさんは国や都市の代表ではなく、あくまでも商業ギルドと冒険者ギルドのギルドマスターという形とした。これには二人も十分納得していた。
また、厄介なオルマン帝国皇帝と神聖国ルキシアの聖女は欠席となった。両国とも無駄な争いに巻き込まれたくないというのが本音だろう。オルマン帝国は魔族領と隣接するノーザニア王国の外交官のトップが、神聖国ルキシアはすでに聖母教会の運営のためにニューポート入りしている聖女候補が出席することになった。因みにラーシア王国は私が王女なので、お父様は出席しないとのことだった。
様々な困難はあったが、本日無事に式典が始まった。
龍神山の麓の神殿には多くの住民が集合していた。それに交じって冒険者もチラホラ見える。来賓席も出席者が揃い、時間となった。
3匹のドラゴンが空中に姿を現した。1匹は龍神様と呼ばれるグリーンドラゴンのドライスタ様とその奥様のウォータードラゴンのリバイア様、お二人のご息女のドミティア様だ。
ドライスタ様はモスグリーンの鱗を持つ大きなドラゴンで、リバイア様は美しい青色の鱗を持っており、ドライスタ様よりも少し小さい。
そして、二人よりもかなり小さいドラゴンがドミティア様でエメラルドグリーンの鱗が特徴的だ。
3匹は神殿に設置されたステージに降り立った。会場から歓声が上がる。
打ち合わせ通りに私が領主として挨拶を述べる。
続いて龍神様が語り始める。
「我はグリーンドラゴンのドライスタである!!このたび我はダンジョンを作ることにした。今回はお前達の小手調べを兼ねて、難易度を下げたダンジョンにした。我が本気で作ったダンジョンだと誰も攻略出来んからな!!」
ここまでは打ち合わせどおりだったが、気分が乗ってきた龍神様は、予想外のことを言いだした。
「もし、1年経ってもダンジョン攻略パーティーが10組に満たない場合は、世界を滅ぼしてやろう!!ワハハハハ・・・」
会場はとんでもない雰囲気になった。さすがのヘンリーさんも頭を抱えている。冒険者を集めるために少し派手目な演出をすると言っていたがこれは予想外だったらしい。龍神様のアドリブが裏目に出た形だ。
しばらくして気を取り直したヘンリーさんが龍神様に耳打ちをする。龍神様も周囲の微妙な雰囲気に気付いたようだ。
「というのは冗談だ!!ここは笑うところだぞ。だが、なるべく多くのパーティが攻略できることを我は願っている」
「龍神様の提案をお受けいたします。もし、ダンジョン攻略パーティーが10組となった場合は、何かご褒美をいただきたく存じます」
それに私も乗っかる。観客に演出と思わせることと、あわよくば、何かご褒美がもらえると思ったからだ。私の発言は後でマーラ王妃とギルマスに褒められた。そういう強かなところも領主には必要ということだった。
「それは面白い。何か考えておこう。それとダンジョン攻略パーティーにはそれ相応の褒美を用意しているぞ!!」
観客から歓声が上がる。特に冒険者は喜びを爆発させていた。
それで式典のほうは終了となった。龍神様御一家と来賓は晩餐会の会場に移動する。
ステージでは、ピクシー商会の出資で演劇が上演されていた。主演はあのアンジェリーナさんだったし、一緒に司会をしてくれたリリックさんもナレーターとして出演するそうだ。演目は「弓使いの王女」というワイバーンの群れから町を救った王女の話らしい。アルテミス王女の活躍をモチーフにしたものだった。
この劇の後にアルテミス人形を販売すれば飛ぶように売れるだろう。トルキオさんは少し悔しそうにしていた。
晩餐会が始まる。龍神様御一家は人型に変身していた。龍神様は壮年のイケオジ系で奥様はかなりの美人だった。お嬢様は10歳前後の美少女の姿で、いずれも角と尻尾があった。
料理が運ばれてくる。ロイの料理に龍神様御一家もご満悦のようだ。
「あのハエのように煩いワイバーンがこうも上手いとはな」
「本当ですねあなた。グレートベアが上品に仕上がってますわ」
「このケーキ、甘くて美味しい」
晩餐会の出席者はみんな緊張しているようだったが、さすがは海千山千の猛者である。それを全く感じさせないようににこやかに会食していた。晩餐会も終盤に差し掛かる。龍神様に感想を伺った。
「龍神様。今日の料理はいかがでしたか?」
「領主よ。ドライスタでよいぞ。料理はなかなかのものだ。特にワイバーン料理が気に入った。我がダンジョンにも大量にワイバーンを出現させよう。それとスパイスがこんなにも上手いとは思わなかった。スパイス採取ができるスポットを増設しよう」
「ドライスタ様。ワイバーンを大量に出現させると難易度が跳ね上がってしまいます。まあ、スパイス採取スポットの増設は可能だと思いますが」
ヘンリーさんがすかさず、たしなめる。
「ワイバーンについては、南の草原でたまに狩れますので、大丈夫ですよ」
私もヘンリーさんを援護する。ワイバーンが大量に出るダンジョンなんて、普通の冒険者はまず来ないだろう。
「そうか。じゃあそのように取り計らってくれ」
納得してくれて一安心だった。
晩餐会が終って、龍神様御一家が帰られることになった。来賓が総出で見送る。
そのとき、ドミティアお嬢様がリバイア様に声を掛けていた。
「お母様。何か牙がグラグラするの」
「ドミティアもそんな年になったのね。抜いてあげるわ」
そう言って、リバイア様がドミティアお嬢様の牙を引き抜いて、地面に捨てた。
「ドミティア。牙を生やすイメージをしてみなさい。魔力で生えてくるから」
「やってみる。あっ!!できた」
「1回で、できるなんてドミティアは天才だ。ハハハハ」
上位龍なだけあって凄い再生能力だ。そんなことを思っていたが、トルキオさんは別の意味で驚いていた。
「この牙はいただいてよろしいんでしょうか?龍の牙と言ったら白金貨30枚はくだらない代物です。龍の鱗10枚分以上の価値がありますし・・・」
「そんなものが欲しいのか?我も健康のために2~3年に一度、牙を新しく生え変わらせる。山に帰れば、その辺に鱗や牙が転がっておるぞ。そんなに欲しいなら・・・ヘンリー!!次にここに来た時に牙と鱗を集めて持ってきてやれ」
これには、さすがのトルキオさんもギルマスも驚いていた。
ドライスタ様はパフォーマンスで、鱗と牙を一遍に生え変わらせてくれた。古い鱗や牙はもらえるということだった。こうして私達は労せずに古龍の牙と鱗という高級素材を手にすることになった。
「ドライスタ様。人族の喜びようをみるにダンジョンを攻略したパーティーへの褒美は牙か鱗で十分だと思います」
ヘンリーさんが提案が提案した。
「そんなものでいいのか?まあ我は構わんが」
ダンジョン攻略報酬が古龍の牙か鱗ならば冒険者はこのダンジョンにやってくると思う。
忙しくなりそうだ。
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