龍の要望
~勇者クラシア・ラーシア視点~
ヘンリーさんの話によると正式にダンジョンをオープンする前にどのようなダンジョンが喜ばれるかを調査したいとのことだった。
挑戦する冒険者の実力やそれに見合った難易度の設定などのために必要なことだという。
龍神様が作るダンジョンだから世界で一番のダンジョンにしなければという話だった。
ダンジョンってどういう原理でできるのか分からないけど、作れる人が世の中にはいるんだと驚いた。
この際だから、興味本位で色々と聞いてみよう。
「ところで、龍神様は何の目的でダンジョンを作られるのですか?」
「趣味です。暇つぶしと伺っています。古龍は人知を超えた存在ですので、私達には理解できないことが多くありますので、お気になさらないほうがよろしいかと」
次は何を聞こうかと思っていたところで、話題を変えられた。
「ダンジョンのプレオープンに先立ちまして、記念式典を開いて欲しいのです。ドライスタ様は魔族領ではかなり厄介・・・ではなく、偉大な存在として周知されているのですが、人族の方はほとんどご存じないと思います。ですので、ドライスタ様の偉大さを知らしめていただきたいのです」
(今、厄介って言わなかった?)
「分かりました。記念式典については担当者を呼びますので、詳細は後で詰めましょう」
「ありがとうございます。これは要望なのですが、龍神山の麓にある神殿付近の開発を最優先でお願いいできませんでしょうか?」
「さすがにそれは、即答できませんし、こちらの開発計画に口を出されるのは少し無礼だと思います」
「それは十分承知しております。しかしこちらにも抜き差しならない事情がありまして・・・・」
ヘンリーさんが説明をする。まず、古龍については神に近い存在で、本当に強力な魔力を持っており、怒らせると国が亡ぶ事態になりかねない。魔国デリライトの国王ですら、何年かに一度ご機嫌伺いに神殿を訪れるようだ。
そのような状況で、ダンジョンをオープンしました。でも誰も来ませんでした。
なんて事態になったら大変お怒りになることは想像に難くない。だから、プレオープンと言ってもそれなりにダンジョンに挑戦する冒険者が欲しいとのことだった。
「事情は分かりました。しかしこちらは資金も人材も不足しているので、かなり厳しい状況にあります。その辺はご理解ください」
「それならこちらをご覧ください」
そこには開発計画が記されていた。なるほど、これなら採算が取れる。ただ、ここでは決められない。
悩んでいたところ、グーと私のお腹が鳴ってしまった。
かなり恥ずかしい。そう言えば今日は碌に食べてなかった。
「担当者を集めますので、まず一緒に食事でもしませんか?」
それから、ロイ、レミナさん、ゴブル管理官、ギルマス、レイ兄、ルナを集めて食事会を開くことにした。全員が揃ったところで、私が開始の合図を告げる。
「こちらが龍神様の使者であるヘンリーさんと助手のナタリーさんです。ヘンリーさんは私とルナの同級生でもあります」
その後、ヘンリーさんがここに来た理由などについて説明した。
料理が運ばれてくる。どれもロイが監修したものだ。ヘンリーさんとナタリーさんも満足していた。
「これはなかなかの味ですね。これならドライスタ様も喜ばれるでしょう。式典の後の晩餐会は是非これらの料理をお出しいただければと思います」
「でも、龍神様が食べられるほど大量には用意できないと思いますが・・・」
「それは大丈夫です。ドライスタ様は人型にも変身できますので、普通の量で大丈夫ですよ。それにあのクラスのドラゴンになりますと食事自体必要ありませんので、食事も趣味みたいなものです。帰りに何品か保存が効くものを持ち帰らせてください」
ヘンリーさんは絶賛していた。それよりも古龍となると人型にも変身できるのか・・・・理解が追い付かない。
食事会が終わり、今後の方針についての話になった。私としては、明日時間を作って対策を協議したいと提案したけど、みんな忙しくて明日も予定が詰まっているとのことで、徹夜覚悟で打ち合わせをすることになった。
まずは開発計画を確認した。
本当によくできている。さすがのギルマスも
「ヘンリーさん。アンタただ者じゃないね」
と言って称賛していた。
まず、龍神山の麓にニューポートに似つかわしくないくらい立派な神殿がある。龍神様が気まぐれで訪れることがあるので、神官が常駐している。そこを中心に開発を始める。
最初に作るのは冒険者ギルドの支部、宿泊所、治療院だ。
「ギルマス。冒険者ギルドの支部の設置は可能でしょうか?」
「必要最低限の機能だけを持った支部なら可能だね。素材の買い取りと酒場兼食堂、ダンジョン関係のみのクエストの受注だけなら人員を割ける。それと商店が営業を開始するまで、ポーションや携帯食料などの冒険者用の消耗品の販売を考えている。それができるのが冒険者ギルドと商業ギルドが合さった総合ギルドの強みだからね」
ギルドとしては、新たな収入源が得られることから乗り気なようだ。
「ゴブル管理官。宿泊所の建設は可能ですか?土地は余っているみたいですが」
「予算的には少し厳しいです。3ケ月位は収支がマイナスになるかもしれませんが、上手くいけば大きく利益が上げられます。建設する人員についても地元民を雇用すれば問題ありませんし、職が増えて、地元民は大喜びです。龍神山の開発について、やらなくても、失敗しても龍神様に滅ぼされるんですから・・・・私は如何にして成功させるかを考えるべきかと愚考致します」
なるほど、上手くいかなければ、ニューポートの未来はないか・・・。絶対に成功できるようにやるしかない。
「治療院についてですが、母体は聖母教会なのですが、その辺りは龍神様的には大丈夫なんでしょうか?」
レイ兄がヘンリーさんに尋ねる。
「大丈夫です。過激派のような極端な思想を持っている宗教でなければ問題ありません。ドライスタ様が神として振る舞っているわけではなく、地元民が勝手に崇め奉っているだけですから」
「分かりました。治療院の建設に問題はありません」
治療院の問題も解決した。続けてロイが質問する。
「すいません。龍神様にお出しする料理なんですが、ワイバーンとかは出さないほうがいいですよね」
「ワイバーンは龍種と言っても下等種族なので、大丈夫ですよ。知性の高い古龍種でなければ問題ありません。まあ、古龍種を討伐できるとは思えませんので気にしなくていいと思います」
これなら、ロイに存分に腕を振るってもらえる。
後は式典関係だな。アンヌ大臣にも頼まれているし、ここはレミナさんに任せてみよう。
ノーザニア王国から通達があり、レミナさんは書記官に昇格した。役職に相応しい仕事をしてもらいたい。
「レミナ書記官。あなたには式典を取り仕切ってもらいます。ヘンリーさんと連携して進めてください」
そう指示して打ち合わせが終了したときには、もう空は明るくなっていた。
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