龍神の使者
~勇者クラシア・ラーシア視点~
ワイバーン問題もようやく収まった。
南の草原での燃える泥の採掘作業もアルテミス王女の部隊が交代で護衛してくれていた。最初は何度か襲撃があったが、弓で威嚇射撃するだけですぐに逃げていくみたいだった。それと住民のゴブリン族に弓の指導もしてもらった。何人かは才能があるみたいで、エリートの魔道弓兵部隊は無理だが、一般弓兵なら十分通用するとのことだった。
威嚇射撃だけならこのゴブリン達だけでも何とかなるみたいで、アルテミス王女の魔道弓兵部隊も正式に任務解除の指令を受けた。昨日、お礼の宴会をしたが飲み過ぎてしまって少し眠い。
宴会の後で私とアルテミス王女、ルナ、グリエラ、レミナさんで女子会をしたが、思いのほか盛り上がってしまった。例のごとく恋バナになってしまった。
ターゲットはアルテミス王女とゴブル管理官についてだった。
なんかアイドルとファンみたいな関係だが実際どうなのかみんな興味があった。酔っていたこともあり、ゴブル管理官が作成した魔国デリライトへのお礼状をアルテミス王女にこっそりと見せた。
全体的にまとまっていてよく書けているが、アルテミス王女について「そのとき彼女は透き通るような美しい声で射撃を指示した」とか「凛とした佇まいで射った矢は美しく、ワイバーンを貫いた」とか誇張した表現が多かった。
これを見たアルテミス王女は顔を真っ赤にしていた。
「まるでファンレターだな・・・」
グリエラが言う。
「ところで王女様は管理官のことをどう思っているんですか?」
レミナさんが遠慮せずに尋ねた。
「優秀でいい人だけど・・・王族でゴブリン族と結婚した例はないし・・・王女なので勝手に結婚できないし・・・私は気が強くて我儘な性格だし・・・」
恥ずかしそうにしていたが満更でもない様子だった。
そして、今日アルテミス王女の部隊がニューポートを離れることになった。住民総出でお見送りをした。少し前までは敵だったが、今では本当に心強い友人になったと思う。
それから一息つく暇もなく、魔族側のピクシー商会のケケル会長と会談が始まった。
魔族チームのポポル君の伯父さんでゴブル管理官とも懇意にしているようだった。商業ギルドの活動も軌道に乗った絶妙のタイミングで現れたことを考えるとこの人もいい人そうに見えて、抜け目がないのかもしれない。
会談には私とゴブル管理官、レミナさん、ロイ、ギルマスのパトリシア婦人、ケケル会長で行われた。
ケケル会長は特に無理難題は言わないし、商品の販売価格や買取価格についても良心的だった。
こちらからの要望としては、スパイス関係を多めに卸して欲しいと伝えた。
スパイスについては、ロイのたっての希望で料理の味が大きく変わるとのことだった。
販売価格については若干高めだった。
「火山地帯がある国で多く生産されているのですが、陸路だとコストが多くかかるので申し訳ありません。海路が利用できればもっとお安くできますが」
やはり、海路か・・・
クラーケンもいずれは討伐しなければいけないと思った。
こちらからは各種素材と燃える泥の販売、ピクシー商会からは魔族領のスパイスと酒類を中心に交易をすることで会談は終了した。お互いが得をするいい商談になったと思う。
会談が終わり、雑談が始まった。
「ワイバーン討伐は、アルテミス王女が大活躍だったみたいで、おかげでアルテミス人形が飛ぶように売れて嬉しい限りです。ゴブル管理官には新作人形をお持ちしましたよ」
「ほ、ほ、本当ですか。是非買わせていただきます」
町を救った魔族の英雄で見目麗しい王女様、この時期なら多少高くても、飛ぶように売れるだろう。
この人も抜け目のない、油断ならない人だと思った。
これで今日の予定はすべてこなした。ゆっくりしようと思っていたところ、レミナさんから
「神殿のほうに龍神の使者と名乗るものが来ており、領主様との謁見を希望しています」
と報告があった。仕方がない、龍神様に失礼があってはいけないので、すぐに謁見の許可を出した。
しばらくして使者が現れた。
魔族のイケメン男性と「私仕事ができますよ」と言わんばかりの気の強そうな魔族の女性が入ってきた。
男のほうは何か見覚えがある。
「お久しぶりですクラシア王女。ヘンリー・グラシアスです。こちらは助手のナタリー・ヒューゲルです。現在はグリーンドラゴンのドライスタ様の秘書のような仕事をしております」
思い出した。
セントラルハイツ学園に在学中に魔族領から留学してきたヘンリーだ。短期留学で1年で魔族領に帰ってしまったが、勉強も魔法も剣術も完璧で「エリートヘンリー」と言われていた。ダンジョン研究サークルに入っていて、模擬戦で何度か戦ったが、かなりの腕前だったと記憶している。
「久しぶりですねヘンリーさん。お元気でしたか?学園以来ですね」
「1年という短期留学でしたが、覚えていただけて嬉しく思います」
当たり障りのない挨拶を交わした後に本題に入る。
「実はダンジョンをプレオープンすることになりまして、挨拶に参った次第です」
このタイミングでダンジョンがオープンするのか・・・・
とりあえず詳しく聞いてみよう。
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