久し振りの討伐任務
~勇者クラシア・ラーシア視点~
ギルドに血塗れで駆け込んできたのは新人冒険者パーティー「ミックスナッツ」のメンバーだった。
クロスポートの出身で、普段はクロスポートで活動しているDランクパーティーだった。
獣人の男性戦士、魔族の女性魔法使い、人間の女性剣士、ハーフエルフの男性回復術士の4人構成のパーティーだった。実力的にやや劣っているみたいで、ギルマスが心配して、シクスさんを臨時でパーティー加入させていた。それで草原での燃える泥発掘の護衛任務を受けていたそうだ。
「ちょっとどういうことだ!!魔物で強いのはグレートボアとグレートブルくらいだろうし、シクスさんがいれば一捻りじゃないのかい?」
「それが、ワイバーンの群れがいきなり襲ってきて、それで、逃げ遅れた作業員をシクスさんが庇って・・・それで、私達が救援を求めにきたんです」
なるほどそういうことか。記録を見てもワイバーンが出るとは聞いたことない。
「これは緊急クエストだ!!これを受注できるのは、アンタらしかいないけどね」
ギルマスが言う。
「勇者パーティーで、行くわよ」
私が言うとみんなが同意してくれた。
「午後の予定はキャンセルと領主館には言っておくよ。教会のほうも部下に行かせるよ」
ギルマスが言ってくれた。
「それでは教会には負傷者の救護の要請を出しておいてください」
レイ兄が言う。
久し振りの討伐任務でみんな興奮しているようだった。
治療を終えたミックスナッツの案内で現地に着くとシクスさんがワイバーン10数体と格闘していた。ワイバーンは下級の龍種でBランクの魔物だ。攻撃力はさほど高くないが、飛行が可能で遠距離攻撃ができないとまず討伐できない。
シクスさんは、1体を討伐していたが、作業員を守りながらの戦いで、遠距離攻撃を持っていないので苦戦していた。
「シクスさん!!救援に来ました」
「領主様自ら来てくれるなんてありがたいな」
作業員の救出は済んだ。幸い死者は出ておらず、ミックスナッツに作業員の搬送を依頼した。
後は討伐するだけだ。地上に降ろしさえすれば、私達が難なく討伐できる。
とりあえず、ルナと私で魔法攻撃をしてみた。
1体にヒットして、落下してきた。それをすかさず、地上にいたグリエラ、ガイエル、シクスさんがあっという間に仕留めた。
よし、これならすぐに討伐できるかもしれない。
しかし、そう上手くはいかなかった。ワイバーンの群れは魔法の届かないところまで上昇して、上空を旋回している。作業員を救出するという任務は達成した。ここで帰還してもいいのだけど、領主としては困ったことになった。
今後、燃える泥の採掘計画が頓挫してしまうからだ。
利益のために作業員や冒険者を危険に晒すことはできない。何かいい策はないだろうか。
「ロイ。何かいい作戦はある?」
「そうですね。魔法が届かない位置で待機されて、隙を見て急降下して攻撃して来たらかなり厄介です。僕のスリングショットなんて、全くの射程外ですし・・・・優秀な弓兵が10人以上いればなんとかなるとは思いますけど、無いものねだりですよね」
「さすがのロイでもそうよね。今日は一端帰還して、対策を練り直しましょうか。ノーザニア王国か魔国デリライトからの弓兵の派遣も検討してみるわ。ああ・・・また仕事が増えた」
そんなロイとの会話の後に撤退の指示を出そうとしたところ、無数の矢がワイバーンの群れに降り注いだ。不意打ちだったみたいで多くのワイバーンが落下してくる。
矢が放たれた方向を見るとなんとアルテミス王女とアルテミス王女に率いられた総勢30名の弓兵だった。アルテミス王女の傍らにはなぜかゴブル管理官がいる。
「撃ち方止め!!クラシア王女!!詳しい説明は後です。落下したワイバーンの討伐を」
「ありがとうございます。お礼は後程!!みんなワイバーン討伐するわよ」
そこからは一方的な展開だった。地上の落ちたワイバーンでも並みの冒険者ではかなり苦労するが、私達は勇者パーティーで元魔族チームのシクスさんもいる。ただとどめを刺すだけの作業だった。
特にシクスさんは張り切っていた。
「ちょこまかちょこまか逃げやがって!!借りは返してやる」
攻撃が届かなかったことが相当悔しかったらしい。
しばらくして、何体か討ち漏らしはあったが、戦闘は終了した。
私はアルテミス王女の元へ行き、お礼を述べた。どうしてここにアルテミス王女がいるかについてはゴブル管理官が説明してくれた。
決戦の後、負けはしたが、ポポル君のボウガンゴーレムを巧みに指揮して戦う姿が国軍関係者の目に止まり、魔道弓兵隊の中隊長に就任したそうだ。そして軍事演習の帰りにゴブル管理官への激励と私への挨拶のために立ち寄ったところ、ワイバーン襲来の報を聞いた。
ゴブル管理官が泣きながら、「シクスを助けてください」と懇願してきたそうだ。個人的な理由で軍を動かすのは軍規違反だが、非常事態だと判断してすぐに駆け付けてくれたのだ。
「軍規違反ですが、これでも王族なのでなんとかなるでしょう。ゴブル管理官やシクスにはお世話になってますからね」
本当にありがたい。
それからすぐにギルマスとギルド職員、招集した冒険者がやってきて、討伐したワイバーンを回収した。
「アルテミス王女。本日は大変お世話になりました。これから歓迎の宴を開きますので、どうぞご参加ください。それとロイ!!ワイバーン料理をお願いね」
「分かりました。すぐに準備します。新作メニューをご期待ください」
(色々あったけど、1日2回もロイの新作が食べられるなんて、今日はいい日かもしれない)
その後、宴が始まるまでも忙しかった。残っている仕事を片付け、ゴブル管理官に指示をした。
「魔国デリライトに領主である私の名でお礼状を書いてください。なるべく詳しくお願いします。アルテミス王女のお立場もあるでしょうし」
「クラシア王女。お気遣い感謝します」
(お礼状だけでなく、きちんとお礼をしなくては)
日が傾きかけた頃、宴が始まった。
アルテミス王女は地元民からは大人気だった。ゴブル管理官はアルテミス王女の側で「無礼な口を利くな」とか「勝手に触るな」などと口うるさく注意していた。
落ち着いた頃にアルテミス王女と歓談した。
「今回の件で何かお礼をしないといけませんね」
「そんなにお気になさらず」
そんな会話をしていたら、ギルマスのパトリシア婦人が話に入ってきた。
「今回の件だけど、私らギルドが領主様とアルテミス王女の魔道弓兵隊に泣きついたことにしたらどうだ?そうすれば丸く収まる。領主のクラシアがゴブル管理官を通じてアルテミス王女に直接依頼をしたことにすると政治的な理由で、魔国デリライト側もいい顔しないだろうし」
「それは有難いんですが、ギルドとしてはどうなんですか?」
「うちは別に大したことないよ。傭兵国家ラクスのヘラストはあまりいい顔しないだろうけど、設立間もないギルドで、人員不足ということを考慮すれば、仕方ないことだと言ってくれるよ。それにギルドから依頼で魔族の保護という大義名分があれば、軍としても動かないわけにはいかないからね」
なるほど、それなら上手く収まる。後はアルテミス王女が同意してくれればいいんだけど。
「私もその案に賛成です。軍規違反を前面に出さなくて済みます。ただでさえ弓兵の肩身が狭いので」
アルテミス王女も同意してくれてよかった。
「アンタらはまだ若いからこういうことに気が回らないだろうけど。領主や軍の要職に就くと必ず、こういったことが必要になってくるからね」
私とアルテミス王女はお礼を述べ、深々とギルマスに頭を下げた。
「アンタらも素直だね。でも、これを見て誰が一番得するかよく考えてごらん。それでも私にお礼が言えるかな?」
ギルマスは私とアルテミス王女にそれぞれメモ紙を手渡して去って行った。
私に渡されたメモ紙を確認する。
〇契約について
依頼内容が著しく実態と異なる場合は違約金が発生する場合がある。例として討伐対象が著しく異なる場合がこれに当たる。
つまり、私はワイバーンのことを伝えずに依頼したことになる。場合によっては違約金を払わされるかもしれないし、そうでなくても依頼料は今後アップさせられる。
アルテミス王女のメモ紙も確認する。
〇軍規則第79条
冒険者ギルドから急遽援助の要請があった場合は現場指揮官の判断において、軍事活動等を行うことができる。その場合、速やかに軍司令部に報告をしなければならない。またその活動を終了する場合は軍司令部の指揮を受けなければならない。
つまり、当面の間アルテミス王女の部隊はワイバーン対策にあたらないといけないみたいだ。
まとめるとギルマスの一人勝ちのようだ。
「あんな人が勇者パーティーの監督だったなんて、私達が勝てなかったのも納得ですわ」
アルテミス王女がつぶやいた。
その通りだ。全く高い授業料になった。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!