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一角天女

~一流シェフのベック視点~


俺は一流シェフのベックだ。

魔国デリライトの首都デリーでは新進気鋭の若手シェフとして少しは知られた存在だった。

5年前に一念発起して故郷のクロスポートに戻り、小さいながらも自分の店を持つことになった。今のところ経営は順調で、クロスポートでは知る人ぞ知る名店として認知されるようになった。


仕事一筋で、浮いた話の一つもなかった俺だったが、運命の女性に巡り会った。まるで天使のような可憐な美少女だった。俺と同じ魔族で、立派な一本角があった。

彼女と出会ったのは、勇者パーティーとの決戦の魔族チームのメンバー発表会だった。会場で周囲をきょろきょろと見回して困っているように見えたので、一緒に来ていた仲間達と声を掛けた。

会話も弾みいい感じだったと思ったが、食事の誘いは断られた。


「お礼にいいことを教えて差し上げます。今回魔族チームは敗北します」


そう言って去って行った。

それから会場に入ってイベントがスタートしたが、過激派が襲撃してきた。

そのとき、彼女はみんなに必死で窮状を訴え、そのお陰で観客の被害はほぼなかった。もしかしたらあの子は天使なのかもしれない。

もう一度、会いたい。そのときはキチンと思いを伝えよう。


そんなもやもやした日々が続き、決戦当日となった。会場を探したが彼女は見付からなかった。


少し残念だが、俺は仲間達と一緒にチケット販売所に向かった。俺は決戦のたびに賭けをしている。自慢じゃないが今まで外したことはない。賭けの払戻金だけで、金貨30枚は儲けている。

俺の分析では魔族チームの圧勝だ。しかし、彼女の「魔族チームは敗北します」という言葉が思い出される。

俺は彼女のことを信じることにした。金貨30枚を勇者パーティーの勝利に賭けた。


「おいベック!!何を血迷ってるんだ。勇者パーティーの勝利に賭けたりして!!」

「天使が言ってた?頭おかしいんじゃねえのか?」

「ナンパされた腹いせだぜ!!あんなのは!!」


仲間にからかわれた。それでも俺は彼女を信じる。

結果は大方の予想に反して勇者パーティーが勝利した。仲間達は頭を抱えている。信じる者は救われるんだ!!


それから、払戻金を受け取ると地元の新聞記者に囲まれた。高額の払戻金を受け取ったからだ。取材で、俺は彼女のことや彼女のお告げについて話した。

翌朝、新聞には彼女のことと俺の店のことが書かれていた。彼女は「一角天女いっかくてんにょ

と命名されていた。記事自体は彼女メインだったが、俺の店も紹介してくれて、いい宣伝になった。

お陰でここ最近は大忙しだ。


決戦から2ケ月以上経ったある日、行商人をしている獣人の友人が閉店後に訪ねてきた。


「おい!!なんか食わせろよ」


「お前看板見えなかったのか?営業終了だ」


「営業時間は客がいっぱいだろうが!!友達じゃないか。いいだろ?」


「仕方ない。残り物で何か作ってやるよ。今回だけだぞ!!」


「ありがとよ!!お前の料理は上手いからな」


行商人をしているだけあって、調子のいい奴だ。

それから昔話に花が咲いた。「一角天女いっかくてんにょ」の話にもなった。俺が彼女のおかげでかなり儲けたことも伝えた。


「獣人にも似たような話が伝わっていてな。こっちは「ケモ耳天使」て言うんだけどな」


友人の説明が続く。おもむろに人形を出してきた。獣人の美少女の人形だ。彼女にそっくりだった。

獣人の商人の間では、お守りとして持つことが流行っているらしい。


「それと、反対側の通りでよく似た人形を売ってたので買ったんだ」


そう言って、もう一体の人形を出した。間違いない、彼女だった。


「その人形俺に売ってくれ!!頼む!!売値の3倍出すぞ!!」


「お前には世話になっているから、やるよ。今日の飯代で勘弁してやるよ」


「ありがとう。店に飾るよ」



友人が帰った後、朝までその人形を眺めていた。

幸せだった。できれば、一緒に料理なんかしたいな。そして


「ベックさんは天才ですね。こんな料理法を思いつくなんて」


なんて言われたら、どんなに幸せだろうか。

もう一度彼女に会いたい。

神様なんて信じていない俺だが、今回だけは神様に祈ることにした。






~勇者クラシア・ラーシア視点~


研修の合間にやっと休みが取れた。勇者パーティーのみんなと私達がクロスポートに着いてすぐに行こうとした路地裏の小洒落た店に来ていた。

決戦後に行こうとしたが、なかなか予約が取れなかった。


料理は最高に美味しかった。お酒にもよく合うし、私達の食べたことのない素材を使っていて、新鮮で美味しかった。

しばらくして、この店のオーナーシェフが挨拶にきた。

私達が勇者パーティーだと話すと、「今日のお題はいらない」と言われた。

事情を聞いたところ、一角天女いっかくてんにょの人形を持ってきて、熱く語りだした。

そういう事情か・・・・お題を払わないわけにはいかないし。

私はいい案を思いついた。


「お題は払わせていただきます。代わりと言っては何ですが、こちらのロイに簡単にできる料理を何品か教えてください」


「いいぜ!!あんたらには儲けさせてもらったからな。おい!!着いてきな」


ロイを連れて出て行った。

しばらくして厨房から、ロイの声が聞こえて来た。


「ベックさんは天才ですね。こんな料理法を思いつくなんて」



一角天女いっかくてんにょがロイであると言うことは黙っておこう。

言わぬが花だ。




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