新たなる旅へ
~勇者クラシア・ラーシア視点~
私が求めた新しい領地についての説明がディアス王子からあった。
開発中の港湾都市で問題があり、計画が頓挫しているようで、勇者である私に是非開発の責任者になって欲しいとのことだった。種族間の融和の象徴にしたいとも言っていた。
ディアス王子はアルテミス王女とピアース王子の父親で、奥さんはハーフエルフだそうだ。だから、種族による偏見はないし、むしろ融和を望んでいる。
私の一存では決められなかったので、お父様に相談した。お父様は次期国王として学ぶことが多いので、是非受けるようにアドバイスされた。
「でも私は、町の開発や経営なんかやったことないし・・・心配だわ」
と不安を漏らしたら、お父様が優しくこう言った。
「それは心配しなくていい。こちらからも金銭面だけでなく、様々な援助をするから」
そんなやり取りがあり、私も腹を括って受けることにした。
まずは開発メンバーの選定だ。私は現在の勇者パーティーに一緒に来て欲しいとお願いいした。
みんなこれを受けてくれた。
グリエラとガイエルは
「どうせ行く当てもないし、魔族領で上手い酒でも探したいな」
「俺も同じく」
レイ兄は
「新しく教会も作るので、そこの責任者をしてほしいと言われていたので、ちょうどいい」
ルナは
「ラーシア王国に戻って宮廷魔術士になる道もあるんだけど、こっちのほうが気楽で楽しいから一緒に行くわ」
と言ってこの話を受けてくれた。ロイはについては、所属がノーザニア王国だからどうなるか分からなくて心配だったけど、杞憂だった。
「アンヌ大臣に希望を聞かれたので、開発に参加したいと答えたら、すぐに許可が下りました」
と言ってくれた。勇者パーティーはまだ解散しなくていいみたいだ。
その他にノーザニア王国や魔国デリライトから文官を出してもらえるみたいだった。
2日後、開発の初期メンバーが決定した。
ノーザニア王国からは温泉地ベッツでお世話してくれたレミナさんを筆頭に5名、魔国デリライトはシクスさんとその上司のゴブル管理官(書記官から昇格したみたい)を含めた5名が選出された。
簡単な顔合わせが終わった後にアンヌ大臣から今後の日程についての説明があった。
出発は3ケ月後で、エルドワ村のエルフとドワーフが数名合流するので待って欲しいとのことだった。
それまで、今いるメンバーは研修をすると言われた。
研修は過酷だった。
午前中は座学中心で、午後は主に戦闘訓練、夕食後も部門別に分かれて研修があった。
座学の講師陣は豪華なメンバーが来ることも多かった。
ノビスランドの開発を支えたノビス王やマーラ王妃、お父様の講義もあった。やっぱり開発の初期段階は苦労が多いようだ。
印象に残っている講義は二つある。
一つはノーザニア王国のベルク宰相の講義で、財務についての講義だった。
「この中で財務を担当されるのはどなたですか?」
ベルク宰相の問いにシクスさんの上司のゴブル管理官が手を挙げた。研修を通じて、ゴブル管理官に財務をやってもらうことに決まっていた。
「それはお気の毒に・・・。私も当時は、本当に胃に穴が空くかと思ったことが多くありました」
講義というか、愚痴が始まる。
「みんな後先考えずにお金を使うし、好き勝手に要求するし・・・・。ノビス王も勝手に難民の援助を決めてしまうし、マーラ王妃なんて勝手に武器を大量発注したりなんかして、よくやってこれたと思います。だからゴブル管理官!!頑張って下さい。他の皆さんもあまり無理は言わないように」
ゴブル管理官は青ざめていた。
もう一つの講義はベッツ・スパクラブからだった。
内容は防衛戦における心構えと対策だった。
受講してみて、なるほどと感心させられることが多くあった。彼らは命がけの防衛線を2回も経験しているからね。
文官のみんなも補給や備蓄の大切さを改めて思い知らされたみたいで、真剣に聞いていた。
「防衛戦で一番大切なことは希望を持ち続けることです」
ノンさんの言葉が強く印象に残った。都市を防衛する事態にならなければいいが、もしなったとき、私は代表者として、みんなが希望を持ち続けられるようにしようと思った。
午前中はそんな感じで、とにかく知識を詰め込む時間だった。非常にためになったが、ガイエルとグリエラとシクスさんは頭がパンクしていた。現地では、なるべく本人達に合った仕事を割り振ろう。
午後の戦闘訓練は文官の人も強制参加となった。戦闘に慣れてない者はフラフラになっていた。
まあこれは仕方がない。
私達も気が抜けなかった。アッシュさんが再戦を申し込んできたり、ノーザニア王国と魔国デリライトの特殊部隊が訓練にきたりしていた。他にもオルマン帝国の騎士団も訓練に参加したこともあった。
まあ楽しかったからよかったけど。
夕食後も各自が一日の復習をしたり、課題に取り組んだりしていた。
私はというと、ラーシア王国から派遣された家庭教師が帝王学をみっちりと教え込まれた。それだけ責任のある仕事なので、歯を食いしばって頑張った。
そうしているうちに瞬く間に3ケ月が経った。
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