裏の裏1
~勇者クラシア・ラーシア視点~
膠着状態になった。
何体かボウガンゴーレムを倒したが、すぐに補充されてしまう。
多分、かなりの量をストックしているのだろう。
それとポポル君が搭乗しているメインゴーレムは腕が8本あるのだが、ボウガンを2つ持って矢を放ってくる。残りの6本の腕でボウガンに矢を装填している。
現在は、向こうの矢とこちらの魔法で、遠距離戦を行っている。近接戦をしていたグリエラとガイエルも一端自陣に戻ってきている。
「ロイ。どうするの?」
ロイに尋ねた。
「とりあえず、今は我慢です。相手もそう思っています」
やはりそうか、私の見立てでも、こちらから動くことは得策とは思えない。
「おいおいどうした!!もっとガンガンやれよ!!」
「そうだ!!日和りやがって。やる気ないなら帰れ!!」
観客が騒ぎ出す。
すかさず、司会者は、ヘイトが魔族チームに向くようにアナウンスする。
「どうした魔族チーム!!ピアースとアッシュがやられてビビッているのか?」
「リリック!!約20年に渡って勝ち続けてきた魔族チームが負けてしまうかもしれないのよ。そりゃあ、足も竦むでしょうよ。日没までこの調子で守り切って、引き分けねらいが得策よね?」
「そんな卑怯な戦い方をした魔族チームなんて今までなかったぞ。正々堂々と真正面からぶつかって、結果的に引き分けになったことはあったけどな。こんな戦い方は魔族の恥さらしだ!!」
「リリック!!その辺で止めておかないと不敬罪になるわよ!!王族が二人も参加して負けることなんて許されないのよ。もう勝ち目がない以上は、冷静に引き分けを狙うべきよ」
「こんな魔族チームなんて、俺はみたくないぞ!!王族なんて関係ない」
アルテミス王女は、拳を握りしめて耐えている。
覆面の女剣士も怒りで体を震わせている。ローグが二人を説得している。
「これだけ煽られても、向かってきませんね。このままではこちらがジリ貧です。クラシア!!ルナ!!あれをやりましょう」
ロイが指示を出す。
遠距離での撃ち合いでは、向こうに軍配が上がる。こちらは私とルナが魔法攻撃をするが、向こうはボウガンゴーレム4体とポポル君のメインゴーレム、アルテミス王女、ローグがそれぞれ、矢と魔法で攻撃してくる。こういった撃ち合いだと、火力的にロイのスリングショットはかなり分が悪い。
数の上では向こうが上だ。これにピアース王子が健在なら圧倒的にやられていただろう。
私はルナに目配せをした。
ルナはまた魔法陣を描き、詠唱を始めた。
その横で私は大剣を抜き、舞いを舞った。
「今度こそ私の特大魔法で息の根を止めてやるわ!!」
ルナがセリフじみた口調で叫ぶ。
「今度は二人でやるわよ!!喰らえ特大魔法!!」
私もセリフじみた言葉を叫ぶ。
~アルテミス・デリライト視点~
序盤にアッシュとピアースを失ったことは痛い。
しかし、戦況は持ち直しつつあった。ポポル君にボウガンゴーレムを召喚させて、遠距離戦に持ち込んだ。ローグにも魔法攻撃で加わってもらった。
人数的にはこちらが優勢なので、現在こちらが押している。
観客や司会者からは挑発じみた言葉が投げかけられ、キレそうになったが、何とか耐えた。
このまま、我慢比べに勝てばこちらの勝ちが見えてくる。
そんなとき、勇者とルナリアが魔法陣を描いて、何やら不思議な儀式をしている。
特大魔法を撃ってくるというようなことを言っている。
ピアースがやられたときは、凄い魔法を撃ってくると思って、慌てて対処に向かったところを討ち取られた。今回も同じ作戦かもしれない。
観察してみると勇者のほうは舞いながらこちらの様子をチラチラと伺っているし、他のメンバーもこちらが、強襲するのを警戒するように視線を向けている。
ルナリアは相変わらず派手に杖を振り回して詠唱をしている。
「みんな!!このまま遠距離攻撃を続けなさい。あれも見掛け倒しだわ!!」
やはりそうだ。このままこちらが遠距離攻撃を続けていれば、時間が掛かるかもしれないが、相手は総崩れになるだろう。
それを打開するためにまた策を打ってきたのだ。
「闇より出でよ地獄の業火!!すべてを焼き尽くせ!!喰らえ!!」
「ファイヤーボール!!」
ほら、またこけおどしだ。飛んできたのは普通のファイヤーボールだった。
覆面の女剣士がいとも簡単にファイヤーボールを切り裂いた。
「警戒を解除して、こちらも攻撃よ!!」
私はローグとポポル君に指示し、自身も矢を番えて狙いをつけた。
これが間違いだった。
「と、見せかけてビッグエクスプロージョン!!」
特大の炎と無数のファイヤーボールが飛んできた。
つまり、私はまた罠に嵌ってしまった。
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