第二の矢
~ルナリア・リーブス視点~
クラシアったら本当に無茶するわね。
でも作戦は成功だ。アッシュを場外に飛ばして、戦闘不能にした。
シクスさんと模擬戦をして思ったけど、阿修羅族は本当に計算ができない。
信じられない力を発揮したかと思えば、気を抜いて凡ミスもする。
どちらに転ぶか分からない以上は、先に排除しようということになった。
クラシアはキチンと作戦を遂行した。さすが勇者だ。
クラシアの回収も上手くいったし、本当に作戦通りだ。ロイも凄いな。私も負けていられない。
私は、不本意ながら魔族チームに見掛け倒しのポンコツ魔法使いと思われている。
理由としては、兄の魔道具の販売促進のため、とにかく派手でインパクトのある演技を求められた。
ハイライト動画を町中で流されたときにPR効果を高めるために女優に演技指導まで受けている。
ただのファイヤーボールを撃つのに派手な詠唱をしているのをみたら、誰だってそう思う。
今回の作戦は演技が重要だ。
またいつもの大女優のアンジェリーナ師匠の演技指導を受けた。
今回は演技メインじゃないので、そこまでしなくても・・・甘かった。
「あなたは何を寝ぼけたことを言っているの!!たとえお客さんが1人しかいなくても、不幸なことがあって辛くても、手を抜くなんてありえない。常に全力で演技をする。それが女優よ!!」
また怒られた。
今日はアンジェリーナ師匠が司会者の席にいる。刺すような視線で私を見ている。
やりますよ。やればいいんでしょ。演じ切って見せますよ。
私はクラシアがアッシュと戦っている間に魔法陣を構築した。かなり大きな魔法陣だが、大した魔法は発動しない。見掛け倒しだ。
クラシアとの戦闘が終わると、私は杖を振り回したりして派手に詠唱を始めた。
師匠の視線が一際強くなったように思う。気が抜けない。
「古より伝わるこの魔法。闇より出でよその力。壊せ!!壊せ!!壊せ!!すべてを破壊しつくすのだ。そして蹂躙せよ!!」
杖を高く掲げて、被っていた帽子を宙に向かって投げる。
これも演出だ。仕上げに魔法で黒色の霧を少しだけ発生させた。
何か凄い魔法を撃ってくると思わせる演出だ。
するとアルテミス王女から矢がどんどんと飛んできた。ロイがスリングショットで迎撃してくれている。念のため透明の結界魔法を掛けているので、当たっても致命傷とはならない。
それを防ぐと、かなりの数の矢が一気に飛んできた。ロイが必死に小盾で守ってくれている。
それも防ぎきると今度は、ピアース王子とポポル君のサブゴーレムが4体向かってきた。
これも想定通りだ。
ミーティングでロイが言っていた言葉を思い出す。
「見掛け倒しのポンコツ魔法使いがなぜ勇者パーティーにいるのか?そう考えると思います。そこで、派手な演技と魔法陣でいかにも凄い魔法を撃ってくると思わせる。するとどうでしょう?こいつはこの特大魔法を撃つためにだけパーティーに加入しているんだと思うはずです」
「それと人から与えられた答えより、自分で導きだした答えのほうが誰しも信じたくなりますから」
その通りになった。ここまで来るとロイって怖いと思った。
「ゴーレムは何とか足止めします。だから予定通りにピアース王子を!!」
ゴーレムはロイのスリングショットで足止めしたされていた。
ピアース王子が突っ込んでくる。
何度も突いてくる。私は何とか躱し続けた。
「もうやめてください。美しいあなたに怪我をさせたくありません。降参してください」
「それはできませんわ王子様」
「分かりました。それでは、少し痛いかもしれませんが我慢してくださいね」
マーラ王妃の話を思い出す。
「ピアースはね、姉のアルテミスにいじめられていて、女性恐怖症気味なのよ。だから女性を傷付けることにはすごく抵抗があるのよ。普通の攻撃が効かないと判断したら多分使ってくるのはこの技よ」
「真空突き!!」
ピアース王子は槍の先端に風魔法を宿らせて三叉槍で突いてきた。
風魔法と槍を突いた時の風圧で相手を吹き飛ばす技で、多分私を場外まで吹き飛ばすことが目的だ。
少しでも私に怪我をさせないために。
紳士的で人間的には尊敬できるかもしれない。でもそれが命取りだ。
出してくる技が分かっているということは当然対策もしている。
それは何度も何度も、マーラ王妃に痣ができる程突かれて、対処法を習得した。
私の杖は秘密兵器で、剣を仕込んでいた。この剣は特別なもので、普通の剣としても使えるが、魔力を込めると剣の長さや形状、強度を自由に変えられる。ただ魔力の消費量は多いので多用はできない。
その辺が今後の課題だろう。改良に期待したい。
商品の説明は置いておいて、
私はピアース王子が突いてきた槍に合わせて、抜剣すると同時に穂先と柄のつなぎ目を下から切り結んだ。きれいに切断して、穂先は宙に舞った。
マーラ王妃から三叉槍は強力だが、穂先と柄の接合部が弱点だと教えられていた。
「なに!!」
ピアース王子が驚愕の表情を浮かべる。
それはそうだろう。仕込み杖もそうだろうが、私が接近戦ができるとは思ってもみなかっただろう。
私も剣の訓練はそれなりに受けている。クラシアのご学友ということで、クラシアとも剣の稽古をしていた。当然クラシアには及ばないが、剣士としてもそれなりに戦えると思う。
実際に魔法剣士としてやっていこうかと思った時期もあった。
しかしそうはならなかった。クラシアがいたからだ。間近にあんな才能の塊がいれば、自信を無くしてしまう。なので、魔法に特化した魔法使いを選んだ。
それと一番の理由はレイに守ってもらうポジションを得るためだ。
誰にも言ってないけど、接近戦が苦手ということにしておいたのでレイは必死で私を守ってくれた。
ノーザニア王国の宮廷魔術士が書いたレポートの
「弱点は非力なことだろうか。そう見せてるだけではないのか?優しい彼の気を引くために。あざとい女め」
という一文は必ずしも間違いではない。
「女は誰でも皆女優。特に好きな男の前ではね」
師匠の言葉が思い出される。
「アップドラフト!!」
予め魔法陣に仕込んでおいた風魔法を起動させる。無詠唱でもできるが、女優なので最後まで演じ切らないと・・・
唖然としているピアース王子の足元から上昇気流が巻き起こった。
今度はピアース王子が宙に舞う。とどめだ。
「ウォーターストリーム!!」
水流を発生させて、宙に舞ったピアース王子にぶつけた。
ピアース王子はセフティゾーンまで吹っ飛んだ。
私はすぐに反転してロイが足止めしているゴーレムに急接近して3体のゴーレムを切り伏せた。
私もやるものね。切り伏せた後、ポーズを決めていた。
あれ?でもゴーレムは4対だったはずじゃあ・・・
「ルナ!!上です!!」
ロイが叫んだことで我に返り、上を見た。ゴーレム1体がジャンプして私に向かってきた。
このままでは避けきれない。結界魔法で防御しても、かなりのダメージを喰らうだろう。
ポポル君も1体のゴーレムを気付かれないように上空に飛ばすために、ゴーレム3体を囮に使っていたのだ。私って本当に馬鹿だ。
そう思ったが、実際にそうはならなかった。
ゴーレムが上空で真っ二つになっていた。
クラシアが切り伏せたのだ。
「お待たせ。完全復活よ!!」
クラシアが言う。
「気付いていたわ。あなたが本調子かどうか見極めるために譲ったのよ」
と私は答えた。
内心では、「クラシア本当にありがとう。私の失敗をフォローしてくれて」と思っていたが、そうは言わなかった。
だって私は女優。
失敗しても観客に失敗と気付かせてはいけないのだから・・・
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