ゴブルの苦難
~一等書記官ゴブル視点~
なんて旨い料理だ。とろけるようなこの肉は何だ?
この独特の甘みが、柔らかくて味わいのある肉にマッチする。
僕は秘書のシクスが作った料理を食べて、感動している。
シクスが言う。
「これ何の肉か分かりますか?なんとグレートベアの肉なんですよ」
「そんな馬鹿な!!あんな固くて臭い肉がこんな上品な味になるなんて信じられない」
「俺も最初はそう思いましたよ。これを考案したロイ君は天才ですぜ」
「誰だ?ロイ君っていうのは」
「勇者パーティーのサポータのロイ君ですよ。言いませんでしたっけ?」
「き、き、聞いてないぞ。そんなこと・・・」
僕は驚愕した。
シクスに問いただしたところ、シクスが稽古を付けていたのは、何と勇者パーティーだった。
僕達の部署を考えろよ。直接戦闘には関わらないけど、僕は魔族チームの担当官だぞ。
もし、仮に魔族チームが敗北してしまったら、僕達が勇者パーティーに情報を流したことが原因と疑われ、場合によっては反逆罪で処罰されてしまう。
とりあえず状況を整理しよう。
僕はシクスにこれまでの経緯を報告書にまとめるように指示した。
しばらくして、シクスが報告書を持ってきた。
「今回も自信作ですぜ!!」
これは酷い・・・。さすがにアンヌ大臣でも短期間で書類作成能力を高めることはできなかったか。
報 告
僕達は、勇者パーティーと戦いました。
なんか、今回の魔族チームを真似て模擬戦をするようでした。
僕はアッシュ役をやって欲しいと言われました。
アッシュは多分、僕より弱いので4本の腕で戦うことにしました。
それから、アルテミス王女はダークエルフの妹さん、覆面の女剣士はダークエルフのお姉さんがやることになりました。ピアース王子はマーラさんという魔族の女の人、ローグはノビスさんと呼ばれている人、ポポル君はポポル君のお師匠さんがすることになりました。
(おいおい。今回の勇者チームは、仮想魔族チームを用意して訓練しているのか。これで魔族チームが負けたら大変なことになる。それにノビス王とマーラ王妃が何をやってるんですか・・・)
勇者パーティーは結構強かったです。僕達のチームは負けそうになりました。
僕は本気になって戦ったら勝てるのにと思ってました。他のメンバーも自分を抑えて戦っていたので仕方がないと思いました。
(普通にやれば、魔族チームに勝てるのか・・・ヤバいぞ)
そうしたら、マーラさんが怒り出して、「本気になって戦え」みたいなことを言いました。
するとノビスさんが指示を出し始めました。
僕は全力で突進してくれと言われました。よく分からないけど本気でやっていいと言われて、嬉しくなりました。
それから僕達は逆襲しました。マーラさんは槍を振り回し、ダークエルフの姉妹は二人でコンビネーション攻撃をしました。ポポル君の師匠はゴーレムをいっぱい出していました。
それで、僕達は勇者パーティーをボコボコにしました。
(どういうことですか?勇者パーティーより強いの?)
それからまた模擬戦をして、宴会になりました。ロイ君の料理は今日も美味しかったです。
まず最初に出てきた料理は、ロックバードの肉を・・・・
(料理のことはいいからもっと勇者パーティーのことを書けよ!!)
僕は戦闘の素人で、戦闘のことはよく分からないが、僕の立場が非常に危ういということは十分分かった。何とか状況を改善するいい案はないかと考えた。
結局、正直に報告することにした。
僕は緊急事態だと判断して、ディアス王子に謁見を求めた。今回の総責任者がディアス王子だった。
ディアス王子はすぐに応じてくれ、僕は状況を説明した。
そして謝罪した。
「今回の件は申し訳ありませんでした。部下の監督不行き届きです。如何なる処分も・・・」
と言いかけたところで、ディアス王子が
「気にするな。都合が悪いことを隠す馬鹿が多い中、君が正直に報告に来た点は評価できる」
「それに、有益な情報ももらえたし、決戦までまだ時間がある。何とか対処できる。礼を言いたいくらいだ。でも少し困ったことがあってな・・・」
ディアス王子は、僕の情報を早く伝えたいのだが、魔族チームのリーダーのアルテミス王女と親子喧嘩中だということで、そのまま伝えても正確な情報は伝えられないと言っていた。
何かいい方法はないかと聞かれたので、僕はある提案をした。
「そいつはいい。君は本当に優秀だな。決戦が終わったら結果に関わらず、より重要なポストに就けるように取り計らおう」
思ってもみないことを言ってくれた。ピンチがチャンスになった。
作戦の決行は明日の昼となった。それと、勇者パーティーの資料を渡された。シクスから更に聞き取りをして、足りない情報があれば伝達して欲しいと言われた。
僕はシクスに
「お手柄だぞ。それと君に協力して欲しいことがあるんだ」
そう言って、指示を出した。
その日は徹夜だった。資料とにらめっこして、分からなければシクスに尋ねる。シクスも作業をしながら一生懸命答えてくれた。
魔族チームに勝って欲しいという気持ちはある。でももっと大きくモチベーションを上げられたのは、憧れのアルテミス王女に会えるからだ。
なので、徹夜なんてへっちゃらだ。
次の日、ディアス王子に連れられて魔族チームが待つミーティングルームに入った。魔族チームが勢揃いしている。
入るなり、アルテミス王女が
「お父様から聞く話なんて何もありませんわ」
と言ってきた。まだまだ喧嘩中のようだった。
「今回は魔族チームの皆さんに激励品として料理を持って参りました」
そう言って割って入り、シクスに作らせたロックバードの肉を衣を着けて油で揚げた物とグレートベアの煮込みを振舞った。
あくまでも、魔族チームをただ激励に来た体というのが今回の作戦だ。
魔族チームの全員が料理を絶賛していた。僕と同じようにグレートベアの肉が、ここまでの料理に仕上っていることに驚愕していた。
「これは勇者パーティーのサポーターのロイが考案したものです」
そう言ったところ、食い付いてきた。
「やっぱりロイ君はすごいや!!」
ポポル君が言った。覆面の女剣士もなぜか、大きく頷いている。
ここで、シクスから得た情報を伝達した。
勇者パーティーは、仮想魔族チームを作って訓練に励んでいることなどを伝えた。
みんな驚いていた。
更にほとんど情報のなかったサポーターのロイについての情報を伝えた。
シクスはアンヌ大臣に書類作成能力向上のために毎日細かく勤務日誌を書くように指導されていた。
なので、ロイの情報もかなり把握することができた。
さすがアンヌ大臣だ。
説明を続ける。
「情報がほとんどなかったロイについてですが、スリングショットと呼ばれる子供のおもちゃのような飛び道具を使うようです。アルテミス王女が過激派の男を射抜いたカービングショットのような弾道も撃てるようです」
「それとこれは言いにくいのですが・・・完璧に対策されているようで・・・その・・このままいけば負けてしまう可能性が非常に高いと考えられます」
言いにくい言葉をなんとか言った。歯切れが悪い言い方になってしまった。
これはディアス王子から絶対に伝えるように言われていたことだ。
しばらく沈黙して重たい雰囲気になった。誰もしゃべらない。
そのとき、突然声がした。
「難しい話は料理を食べてからにしないか?せっかくの料理が冷めてしまう」
アッシュが言った。
こういうところはシクスにそっくりだ。今回は救われた気がした。
シクスの親戚なだけはある。
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