王としての決断
~サポーター ロイ・カーン視点~
レオナルド王、シクスさん、ヘラストさん、グリエラを強化した土壁の中に閉じ込めた。
後は、コアストーンを破壊するだけだ。
作戦通り、ナールさんがトルキオさんを足止めして、その間に僕とノンさんでコアストーンを破壊する。
コアストーンはかなりの強度で、通常の攻撃ではほとんど壊れない。
時間は掛かるけど、コツコツと通常攻撃で壊していくか、必殺技クラスの技で一気に壊していくか、選択を迫られる。
当然、僕達は後者を選ぶ。
ただ、誤算があった。トルキオさんが思いのほか強敵だった。
ナールさんの攻撃を防ぎながら、僕達のコアストーンへの攻撃も上手く防がれてしまった。
僕のスリングショットとノンさんの矢も何発かは、コアストーンにヒットしているが、ノンさんの必殺技クラスの攻撃はことごとく防がれている。
通常攻撃では、コアストーンを壊しきるまでにかなりの時間が掛かると知っているからだろう。
時間が経過すればするほど、こちらが不利になっていく。
「おいヘラスト!!早く壁を壊して、助けに来てくれよ。3対1じゃあ、しんどいぞ」
「分かってるって!!けっこう固いんだぞ。もうすぐ壊せるから、しっかり守っておけ!!」
トルキオさんがヘラストさんに声を掛けていた。
トルキオさんは、飄々としてまだまだ、余裕そうだった。
一方、強化の土壁を作っているニールさんとネネさんはかなりきつそうだった。
限界が近付いている。
壁を壊された時点で僕達の敗北は決定的だ。
僕は決断した。まだまだ練習中で、成功率が低いが、もうこれをに賭けるしかない。
ナールさんとノンさんに指示をした。
ナールさんは全力で切りかかり、ノンさんは魔力を全力で込めた矢をトルキオさんに向けて放った。
僕もスリングショットの弾を特殊弾に変更して魔力を最大限込めて、トルキオさんに向けて発射した。
「そういうことか。俺を倒してからコアストーンを破壊する作戦か。裏を返せばこれを防げば、もう手詰まりということだな」
トルキオさんがつぶやく。
ナールさんの矢がトルキオさんにヒットしたが、盾で防がれた。
僕の弾丸はトルキオさんの手前で急激に曲がって、コアストーンに向かっていった。
アルテミス王女が使っていたカービングショットをスリングショットに応用したものだ。
さすがのトルキオさんもこれには反応できなかった。僕の弾丸はコアストーンにヒットして、コアストーンは破壊された。
僕達は勝利を掴むことができた。
ベッツ・スパクラブのみんなと抱き合って喜んだ。
~勇者クラシア・ラーシア視点~
ロイは本当に凄い。
不利な戦力を指揮能力でカバーして、決戦のルールを上手く使って勝利を収めた。
ロイを見て、自分の至らなさを思い知らされた。
その日の訓練はそれで終了した。
今日訓練に参加してもらったメンバーは、みんな多忙なので、明日の午前中までしか訓練に参加できないみたいだ。
それでも、本当にありがたい。決戦のときにはみんな応援に来てくれるとのことだった。
その日の夜はみんなで宴会となった。せっかく集まったんだからということらしい。
みんなそれぞれで楽しんでいた。
ガイエル、グリエラ、シクスさん、アンヌ大臣でいつものように飲み比べをしていた。
「今日でシクスさんは最後になるの。何かお礼をしなくちゃね」
アンヌ大臣が言った。そうなんだ。知らなかった。
話を聞くとシクスさんは今回の魔族チームのお世話係のような部署で勤務していて、これから少し忙しくなるようなことを言っていた。
そんな人を訓練に参加させてよかったのだろうか?
「アンヌ大臣にはお世話になったし、特にいりませんよ。どうしてもというなら、ロイ君が作ったグレートベアの煮込みが食べたいですね」
私は、ロイを連れてシクスさんの元を訪れてお礼を述べた。
ロイはシクスさんにグレートベアの煮込みのレシピを紙に書いて渡していた。
「本当にありがたい。こんなどこでもある材料でできるなんて凄いな。グレートべアの肉なんてただ同然の値段で買えるからな」
「少し時間が掛かるのが難点ですけど。改良を加えれば、まだまだ美味しくなりますよ」
「そうか。それが出来たら教えてくれ。まあ、今回はこれをボスに食べてもらうよ」
そう言って大喜びをしてくれた。
その頃、パトリシア監督とベッツ・スパクラブのメンバーは勇者について熱く語っていた。
この子達は本当に勉強熱心ですごく成長している。
ロイの指揮能力もあったけど、防衛戦に特化した能力は本当に素晴らしい。
「監督に見せてもらった決戦の戦闘記録を見て思ったのですが、勇者レインと一緒に戦った覆面の弓使いなんですけど、第10軍団のスナイパーさんだと思うんですよ」
「何だって!!それは本当か?」
「はい。これでも私は、弓使いの端くれですからよく分かります。矢の軌道や撃ち方に特徴があって、それを本気の戦いのときにいきなり変えることは、できないんですよね」
(ノンさん言っちゃった。多分、今日は眠らせてくれないわ・・・・)
「でもスナイパーさんカッコいいわ。謎の軍団に所属する謎の任務をこなす謎の男だなんて!!」
「謎が謎を呼んで痺れるぜ!!」
(この人達もちょっと・・・・)
ノンさんに続いてナールさんも話に入ってくる。
「今回も覆面の女剣士が魔族チームにいるわよね。私は思うんだけど、覆面してる人って絶対に秘密があるのよ。記録を見る限り、どちらのチームにも覆面の人が何人かいるのよね。両方のチームに参加している人も、もしかしたらいるのかも?そうなったら謎過ぎて、ヤバいわ!!」
「それはいいけど、みんなで覆面を付けるのは無しだぞ。前にみんなで着けたときは、お前とノンがピンクの覆面をどちらが着けるかで、喧嘩になったじゃないか!!」
(この人達、覆面着けてたんだ・・・)
ネネさんとニールさんも会話に加わる。
それから、ベッツ・スパクラブのメンバーで覆面トークが続く。
パトリシア監督は真剣に戦闘記録を見ていた。
そして、パトリシア監督は
「覆面のメンバーに注目するか・・・。なるほど、謎が解けそうだ。お前達、ちょっと頼みたいことがある。私とこれから一緒に来てくれ」
と言って、ベッツ・スパクラブのメンバーを連れて出て行ってしまった。
私達に被害が出なくて良かったと思っておこう。
最後に私は、ノビスランドの開拓期を支えたメンバーが飲んでいるところに顔を出した。
ロイも一緒に来てもらった。
みんなから労いと応援の言葉をもらった。
この席に来たときに自分なりに考えて決めたことがある。
「皆さん。これまで多大な支援をしてくださり、ありがとうございます」
「今回の決戦では、私は指揮官を降りて、代わりにロイにやってもらおうと思います」
と言って、理由を話し始めた。
私はそれなりに指揮はできるけど、今回のように相手に読まれている状態では、私がするよりもロイが指揮官をしたほうがいいと思った。
ロイと一緒に活動してきて、薄々は気付いていた。私よりもロイのほうが指揮官として優秀だと。
でも中々認められなかった。
私はどちらかというとグリエラやガイエルと同じファイタータイプだ。
このパーティーのことを考えるとロイに指揮されて、目の前の戦闘に全力を注ぐことが最善だと判断した。
説明が終わるとすぐにお父様とお母様が抱き着いてきた。
二人は私をモフモフしながら、優しく語り掛けた。
「それでこそ我が娘だ。王となれば自分よりも能力が高い人物を使わなくてはならない。そのためにはまず、自分の至らなさを自覚して謙虚になることが大事なんだ。模擬戦のときに厳しく言ったのはそのためだ」
「知らないうちに子供は大きくなるものなのね。ママも嬉しいわ」
「クラシアもその気持ちをいつまでも持ち続けて欲しい。私の後継者はお前だ」
二人とも酔っているのかしら。
いつの間にか、次期国王に決まってしまった・・・・
翌日の訓練で監督と他のパーティーメンバーに指揮官をロイにしたことを伝えた。
みんな納得してくれた。
監督は、ロイの指揮官としての能力を評価していたので、模擬戦をさせたみたいだった。
多分これが最適の布陣だ。
決戦まで後少し、できることは全部やろう。
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