ロートル軍団の本気
~マーラ・ノーザニア視点~
なかなかやるわね。
私は自分のスタイルを封印して、マジックランサーとして、基本に忠実な戦いをしていた。
しかし、完璧に読み切られて、対策されている。ネリスの弓も無効果されている。
シクスさんは普段通りに大暴れしているが、決定打を与えられていない。
マティアスさんも得意の形ではないみたいだし・・・・
ノビスも上手くサポートしているけどジリ貧状態だ。
このままでは負けてしまうわね。
この子たちの訓練なんだから、勝敗は関係ない。頭では分かっている。しかし、戦士としての熱い気持ちは押さえられなかった。
気が付いたら、大声で叫んでいた。
「もうやってられないわ!!ノビスは全体の指揮をして!!ミリスは剣を捨てて弓に持ち替えて、後方に下がりなさい!!」
「おいマーラ!!あくまで訓練だぞ。想定どおりの戦い方をしないと」
「うるさいわね!!やれっていったらやって。そうしないと夜にしてあげないわよ」
「恥ずかしいこというな!!ちゃんとやるから」
もう私達のスタイルに戻すしか、勝ち目はないと判断した。
特にミリスは慣れない剣での戦いで、いつ戦闘不能になってもおかしくない状態だった。
全体的な指示もふわっとしたものでしかなく、きっちりと組織だって攻撃してくる相手には通用しなかった。
「ミリス!!回復が済んだら、ネリスと後方から連携攻撃だ」
「マティアスさんは、気にせずにゴーレムを大量に召喚してくれ!!」
ノビスが指示を出す。
「シクスさん!!マーラ!!流れを変えるために全力で突撃してくれ!!」
「マティアスさんは、召喚したゴーレムの半分をシクスさんとマーラのサポートに回してくれ!!」
「ミリスとネリスのガードは俺がするから、気にせずに思いっきりやってくれ」
やっぱり、ノビスの指示は的確だ。
私達の突撃で驚いた勇者パーティーが後退を始めた。
私も一心不乱に突撃する。さっきまでは、教科書通りの上品な戦い方だったけど、トリッキーなフェイントを織り交ぜて攻撃を加えた。
「シャイニングラッシュ!!」
大きな声でそう叫んで、大きい動作で強めに突いた。
でも、ただのこけおどしだ。目の前のグリエラは、安全策を取って大斧でしっかりと防いだ。
(ほら引っ掛かったわ)
それと同時に槍の先端を光魔法で眩しく光らせた。
目くらましに遭ったグリエラに隙ができたところ、すかさず三叉槍の穂先に大斧の柄を引っ掛けて、大斧を絡め取った。
そして、三叉槍の石突でグリエラの顎を下から思いっきり、アッパーカットのように打ち抜いた。
この技は基本中の基本の石突返しという技だ。使い方によれば強力な必殺技になる。
グリエラは吹っ飛んで、ダウンした。しばらくは起き上がれないでしょうね。
隣では、シクスさんとゴーレムでガイエルを取り囲んでいる。
ガイエルの素早さを完全に打ち消した良い作戦だ。
ガイエルもかなりの怪力の持ち主だが、純粋な力勝負になれば、シクスさんがやや有利だし、ましてやゴーレムのサポートもあるので、時間を掛ければこちらが負けることはないだろう。
ちょっと大人げなかったけど、私達を本気にさせたあなた達のせいね。
~勇者クラシア・ラーシア視点~
明らかに仮想魔族チームの戦術が変わった。
いきなり突進してくるし、覆面の女剣士役のミリスさんが弓に持ち替えて後方に下がるなんて・・・
予想していない戦術に戸惑い、それまで押し込んでいたのが嘘のように逆襲に遭った。
前衛が崩壊しかかっている。
私はすぐに前衛のサポートに向かおうとするが、弓と魔法の攻撃で近づけない。
先程まではネリスさんの攻撃だけだったので、完璧に防いでいたが、ネリスさんの弓での攻撃を躱した瞬間にミリスさんが攻撃をしてくる。
それも予め、躱す方向が分かっているかのように。
このコンビネーションが姉妹の真骨頂かということか。
しばらくして、グリエラがダウンして、戦闘不能になった。
前衛はガイエル一人だけになって、何とか耐えている状態だ。
何とかしないと一気に負けてしまう。
ここで、私は賭けに出ることにした。
「レイ兄!!私と一緒に相手の後衛に突撃するわよ。一気に後衛を叩いて、流れを変えるわ!!」
「ルナとロイは、私達の援護はいいから、何とかガイエルをサポートして持ちこたえさせて」
そういって、レイ兄を壁役にして後衛に突撃した。
レイ兄はマティアスさんのゴーレムを引き付けてくれた。
私はノビスおじさんと一騎打ちとなった。
「なかなか強くなったね。ひょっとしたらレオより強いんじゃなのか?」
「褒めていただいてありがとうございます」
「俺でも1対1で君に勝ち切れるかどうか分からないな。でも、その必要はないんだよ。ここに君が来た時点で勝負はついているんだからね」
そういえば、ノビスおじさんは明らかにのらりくらりと私の攻撃を躱すことに専念している。
どういうことだろう。
すぐに謎は解けた。ミリスさんとネリスさんが弓から短剣に持ち替えて、私達の後衛であるルナとロイに襲い掛かっていた。それにマーラ王妃も加わる。
「ミリスもネリスも接近戦が苦手ということはない。トップレベルの前衛の専門職に比べるとやや落ちるという程度だ。それに元々マーラと3人でパーティーを組んでいたから、コンビネーションも完璧だ。さすがにロイとルナでは厳しいと思うよ」
私はすぐに後衛のサポートに戻ろうとする。
「でもさせないよ。マティアスさん!!例のやつを」
「了解しました」
複数のゴーレムが腕と腕を連結させ、壁となって、私達の前に立ちはだかった。
「攻撃力はほぼゼロだけど。足止めにはもってこいだ。後はここで、勝負が決まるのを待ってもらう」
ガイエルも片膝をついている。もう限界のようだ。
ルナとロイは思いのほか耐えているが、こちらもまずい。
後は、ルナの奥の手で一発逆転を狙うしかないが・・・・
そう思っていたら、見学していたメンバーが乱入してきた。
「訓練は中止だ!!」
パトリシア監督が叫んだ。
「ノビスもマーラも何やってんだ!!訓練だろうが、決められたことをちゃんとやれよ。何を好き勝手にやっているだ」
「私達は忙しい身で来てやってんだ。少しくらい自由にやらせてもらっても構わないだろ」
「少しってもんじゃないだろうが。やり過ぎだろ」
「それならもっと早く止めろよ。おまえもこの戦いを見て、楽しんでたんだろ?」
パトリシア監督とマーラ王妃が喧嘩を始めてしまった。
「二人ともみっともないぞ。その辺で止めておけ」
とお父様が仲裁に入った。そして、私に質問してきた。
「クラシア。この模擬戦の結果はどう見る?」
「はい。私達の完敗です」
「敗因は?自分なりに分析してみろ」
私は説明を始めた。
まず、前半はこちらの作戦通りに上手く機能していた。相手が戦術を変えてこなければ、あのまま押し切れたと思う。
突然の予想外の攻撃に戸惑い、キチンと指示ができなかった。
それが原因で、前衛が崩壊した。
一発逆転を狙って突進するも、それも罠で一方的な展開になってしまった。
一番の敗因を上げるとすれば、私だ。私の指揮能力がなかったからだ。
「そのとおり、敗因はお前だ。それに予想できなかったと、お前は言うが本当にそうか?」
「過去の戦闘記録や最初の模擬戦で初代勇者パーティーと戦ったときの分析がしっかりできていれば、全く予想できないとは思わない。模擬戦とはいえ、臨機応変に対応できなかった指揮官の責任だ」
本当に返す言葉もない。
少し落ち込んでしまう。
「レオもその辺にしときなさい。メルちゃんと子供達が見に来てるからってカッコつけてんじゃないわよ。まるで王様みたいな物言いね」
マーラ王妃が割って入てくれた。
「というか王様なんだけどな。ちょっと厳しく言い過ぎたかもしれんな」
「ところでクラシア。これまでの模擬戦で経験したことを次に生かせるようにしろよ」
結果はどうあれ、この模擬戦で私達は大きな経験ができた。
次にやらなければならないことも見えてきた。
まずは、分析から始めていこうと考えていたところ、ベッツ・スパクラブのノンさんが声を上げた。
「私達も模擬戦に参加させてください」
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