最強の練習相手
~勇者クラシア・ラーシア視点~
決戦まで残り1週間を切った。
今日もギルドの闘技場に向かう。
「今日は、練習相手を用意したよ」
パトリシア監督が言った。そして登場したのは、驚きのメンバーだった。
初代勇者パーティーが勢揃いしていた。
「ノビスおじさん、マーラ王女、それにお父様まで」
他にもヘラストさん、トルキオさんとダークエルフの女性が2名いた。
「まあ、詳しい話は後だ。こいつらも忙しいご身分だから、ちゃっちゃと訓練しよう」
(王族や都市の代表にこの扱いとは、やっぱりすごい監督だ)
まずは、私達の今の実力が見たいということで、初代勇者パーティーと模擬戦をすることになった。
こちらはマーラ王女のアドバイスで、初代勇者パーティーの戦闘記録をしっかりと読んでいるので作戦は立てやすかった。
ダークエルフの女性二人は記録にあるミリス、ネリスの姉妹だろうと判断した。
前衛はお父様とヘラストさん、後衛がダークエルフの姉妹で、それをガードするようにトルキオさんを配置している。ノビスおじさんは中央でバランスを取る役目だ。
配置も私達と似ている。
模擬戦が始まる。
前衛のグリエラ、ガイエルと初代勇者パーティーのヘラストさんとお父様(ラーシア王国国王)がぶつかる。互角の戦いをしている。
(お父様もヘラストさんも現役から離れているのにさすがね)
前衛での優勢は取れなさそうだった。
私は後衛に下がって、魔法攻撃で対抗することにした。ルナの魔法とロイのスリングショットで打ち合いを始めた。
相手もミリス、ネリスを中心に魔法と弓で応戦してきた。
こちらは私達が若干優勢だ。
しかし、決定打に欠ける。お互い手の内が分かっているので、膠着状態となった。
「はい!!じゃあ今回はそれまで!!」
パトリシア監督が訓練終了を告げる。
やはり、高レベル同士の戦いになるとこうした展開になる。
いかに情報を先に仕入れて、対策できることが有利かがあらためて分かった。
しばらく休憩した後に監督が指示を出す。
「それじゃあ、今度は仮想魔族チーム相手に模擬戦をするよ」
「シクスさんは、アッシュ役をやっておくれ」
「もちろんだ。早く戦いたくて、うずうずしてたんだ。目の前であんな凄い戦い見せられたら血が騒ぐぜ!!アッシュの真似か・・・まあ、普通に戦えばいいんだよな?」
シクスさんはそう言った。まあ、細かい指示をしても仕方ないだろう。
「ピアースは私がやるわ。まだまだ甥っ子には負けないわよ」
マーラ王妃が名乗り出た。
「マーラ王妃も参加されるのですか?王妃様が・・・」
「何言ってるの。デリライト王家に伝わる三叉槍で戦えるのはこの中じゃ私だけよ。これでも黒蛇のマーラと呼ばれてたんだから」
「ピアースは真面目な子だから、基本に忠実に型通りの戦い方をしてくるわ。私はどちらかというとトリッキーで攻撃的なスタイルだけど、ピアースのように基本に忠実に戦うから心配しないで」
(そういう心配はしてないんですが・・・)
「それとノビスはローグ役ね」
「そうだな。私は今回は指揮をせずにローグのようにサポートに徹しよう。マーラも私と同じようにサポートに徹するんだぞ!!」
「言われなくても分かってるわよ!!」
(国王夫妻にサポートされるチームって一体?)
「私はもちろん仮想ポポルでいくよ」
マティアスコーチが言った。ゴーレム使いなんてそうそういませんから。
「ネリス。あなたはアルテミス王女をやりなさい。まあ、魔弓術の技術的には互角ってとこね」
「分かったわ。姉さん」
アルテミス王女が使っているのはエルフに伝わる魔弓術で間違いないそうだ。弓という武器の特性上、トップクラスの実力者同士の決戦では差がつきにくいらしい。
差がつくとしたら、弓の技術以外のところだそうだ。この二人は双子特有のコンビネーションと魔法の合わせ技で勝負してきたみたいだった。
「私は自信はないけど覆面の女剣士をやるわ。サポートスタッフの方は悪いですが、私にスピード強化の身体魔法を掛け続けてください。それで何とかそれっぽくは戦えると思います。」
これで、仮想魔族チームは完成した。
(ていうか、本物の魔族チームより強いのでは?)
「儂らは見学としよう。終わった後にアドバイスできるようにヘラストとトルキオもしっかり見ておいてくれ」
とお父様が言ったのに対して、
「言われなくてもそうするよ。日頃の不摂生でもう今日は無理そうだし」
「俺はまだまだやれるけどな」
トルキオさんとヘラストさんが答えた。
そして、模擬戦が始まった。
この1週間、魔族チームを想定してしっかり訓練してきた。
その成果が出ていた。
私達が相手を押し込んでいる。
まず、アルテミス王女役のネリスさんの攻撃を完璧に凌いでいる。これもベッツ・スパクラブのノンさんのおかげで、技の予想ができていたためだ。
それと、シクスさん以外は、自分のスタイル以外で戦ってくれていることが大きい。
ノビスおじさんもマーラ王妃も少し自分のスタイルではない戦い方でやりにくそうだ。
マティアスさんもポポル君を想定して、召喚するゴーレムの数を制限している。得意の数的有利を作り出して圧倒する戦い方を封印してもらっていた。
まあ、これなら大丈夫だろう。
そう思っていたが、状況が一変した。
マーラ王妃が叫んだ。
「もうやってられないわ!!ノビス指揮をして!!ミリスは剣を捨てて弓に持ち替えて、後方に下がりなさい!!」
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