幕間 5代目勇者の物語3
~5代目勇者アグエラ視点~
三姉妹とミランダと旅が始まった。
ミランダは戦闘だけでなく、様々な面で優秀だった。宿の手配や色々な交渉など、ミランダに任せておけば安心だった。
なので、活動資金の管理や旅の行程などもすべて任せていた。
これが後々トラブルの元になった。
ミランダは、ダンジョンのことになると人が変わったように冷静さを失う。多分生粋のダンジョンマニアなんだろう。
ダンジョンの話を夜通し聞かされたこともある。
悪い人ではないのだが・・・・
今になって分かったのだが、ミランダは大分遠回りをしていた。当時は大陸の地理をあまり把握していなくて、分からなかったが、ノーザニア王国とは逆方向のオルマン帝国にも滞在した。
それに私達が訪れた町や村の近くで新規のダンジョンが発見されることが多々あった。
ミランダに聞いたら
「私はダンジョンを愛し、そしてダンジョンに愛された女だからね」
と言っていた。その他にも学園都市で学生向けのダンジョンにも潜らされた。
これはさすがに意味が分からなかった。
そんなことはあったが、旅自体は本当に楽しくて充実していた。
三姉妹は私とほとんど年齢は変わらなかった。ミランダに年齢を聞いたが教えてくれなかった。
ただ「あなた達より、かなり年上よ」と言っていた。
年頃の娘が揃えば絶対にやることがある。恋バナだ。
パーティーメンバーの中で私以外は男性経験がなく、三姉妹からは師匠と呼ばれていた。
夜は決まって恋バナが始まり、質問攻めにされる。
「師匠の初めてはどんな感じだったの?」
「デートはどこに行くの?」
「浮気とかしないの?」
答えにくい質問はあったが、優越感に浸りながら、できるだけ丁寧に答えてあげた。
三姉妹の勇者パーティーへの加入の目的は婿探しだったからだ。
魔族チームに勝利すれば、婿を要求すると言っていた。
ミランダは
「私はそういうことからとっくに卒業しているからね。あまり興味はないわ」
と言って、恋バナには入ってこなかった。
でも、いつも顔を真っ赤にして聞き耳を立てていた。
多分、卒業はおろか、入学もまだなんだろう。
逆に私が三姉妹に慰められることもあった。気持ちが高ぶって、泣いてしまったこともあった。
「ディアスはずっと一緒にいようって言ったのに、私は捨てられたの!!」
「師匠をこんな目に遭わせた男は許せない。私達もぶっ殺すの手伝うよ」
そう言って、抱きしめてくれた。
普段は会話に入ってこないミランダも
「辛かったね。私も協力するからさ」
そう言って頭を撫でてくれた。結果的にはパーティーとして、結束が強まった。
そんな感じで、ミランダの案内で、オルマン帝国の「試練の塔」というダンジョンに向かっていた。
途中、商隊が盗賊に襲われていた。
商隊にも護衛がいたが、盗賊は50人位はいたと思う。
待ち伏せされていたようだった。
私はみんなに助けてあげたいと伝えた。みんなもこれには同意してくれた。
こちらに被害があってもいけないので、遠距離攻撃に徹することにした。
私とミランダの魔法で攻撃していく。
盗賊は大した戦力はおらず、どんどん討ち取っていった。
こちらに向かってきた盗賊も三姉妹が壁となって立ちはだかり、三姉妹に潰されていた。
程なくして盗賊は撃退した。生き残った盗賊は商隊の護衛達に拘束されていく。
私達がその場を立ち去ろうとしたところ、貴婦人が一人追いかけて来た。
「私はニール商会の代表のパトリシア・ニールと申します。この度は危ないところを助けていただきまして、本当にありがとうございました」
それに対して、私はどのように答えようか迷っていたが、ミランダが交渉を引き受けてくれた。
正直に勇者パーティーであると名乗り、「試練の塔」に修行に向かうと言った。
商会の代表は、どうしてもお礼がしたいと言っていたが、今のところ特に困ったことはないし、活動資金も十分にあるので、必要ないと答えた。
「分かりました。今の案件が片付きましたら、私達も「試練の塔」に向かいますので、そのときにお礼をさせていただきます。「試練の塔」に着きましたら、必ず商業ギルドを訪ねてください」
と言ってきた。
私達は、これを了承してその商会と別れた。
それから「試練の塔」に着いて、早速ダンジョン攻略に取り掛かることにした。
このダンジョンは私達が今まで攻略してきたダンジョンとは違って、洗練された感じがした。
5階層には骸骨騎士様と呼ばれるスケルトンのアンデットがいた。
このスケルトンを倒すか、強さを認められるかすれば次の階層に進めるとのことだった。
私が勝負しようとしたところ、ミランダが「私にやらせて欲しい」と言ってきた。
普段は絶対にそんなことは言わないのに・・・
ミランダとスケルトンの戦いが始まった。
お互い剣で戦っていたが、スケルトンのほうが力も技術も上のようだった。
しばらくして、ミランダの剣が弾き飛ばされた。
ただ、ミランダは負けはしたが、実力は認められたみたいで、次の階層に進むことができた。
そんな感じで、ダンジョン攻略は続いた。
13階層まで踏破した。歴代最高記録で、今でも破られてないらしい。
情報では15階層にボスがいるとのことで、かなり強いのではないかと言われていた。
私は念のため、装備や消耗品を買い揃えようと思ってミランダに購入資金をもらいに行った。
するとミランダは、
「ご、ごめんなさい。もう活動資金がないの・・・」
そう言って泣き崩れた。
「ちょっと待ってよ。落ち着いて!!あれだけダンジョンに潜ればかなり稼げたんじゃいの?」
そう問いただした。
ミランダが言うには、普通のダンジョンであれば、深い階層に行けば行くほど、いい素材が取れて、それを売って資金が増えていくものらしい。
しかし、このダンジョンは違っていた。
まず滞在費が馬鹿のように高い。帝都の高級ホテル並みの宿泊料金だし、転移スポットを使用するたびに使用料を取られる。
ダンジョンでも大した素材は取れない。ポーションや食料などを買う代金も回収できないとのことだった。
じゃあなんで、ここに来たんだということだが、どうしても「試練の塔」を探索したかったらしい。
最初は、5階層を攻略したら終了にしようと思っていたが、思いのほか、攻略が上手くいき、歴代最高記録も更新した。
そうしたところ、15階層にボスがいるという情報を入手したので、なんとかその階層までは行きたいとズルズルと滞在期間が延びてしまった。
当然、滞在すればするだけ赤字なのだから、活動資金も減っていく。
そして、活動資金が底をついたところで、私に声を掛けられたみたいだった。
パーティー存続の危機だ。
私は酒場に三姉妹も呼び出して事情を説明した。
ミランダに任せっきりにしていた私達にも責任がある。
(以後は定期的に活動資金の監査を三姉妹とすることになった)
とりあえず、当面の活動資金をどうしようかと悩んでいたところ、
「お困りのようですね」
と声を掛けられた。
私達が助けた商会の代表の女性だった。
「えっとあなたは確かパトリシアさん?」
「パティでいいよ。商業ギルドで待っててもなかなか来ないから、宿を聞いてここまで来たんだ」
そういえば、商業ギルドに来てくれと言われていた。すっかり忘れていた。
私は事情を正直にパティさんに話した。
「ハハハ。それはそれは大変だったね。私に考えがあるが聞くかい?」
と言って提案された。
パティさんもノーザニア王国の王都に用事があるらしく、その道中の護衛を私達に頼みたいとのことだたった。
道中の食費はパティさん持ちで、給金も護衛としては破格の内容だったので、二つ返事で了承した。
私達は何とか、活動を継続することができた。