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歓迎パーティー~総務大臣アンヌ・ロータスの戦い3~

~総務大臣アンヌ・ロータス視点~


若干酔いが回ってきた感じはするが、ここは気合でなんとか耐えきった。魔法使いルナリアを見付けた。ちょうど会話が途切れたところを見計らって声を掛ける。


「ルナリア様。楽しんでらっしゃいますか?」


ルナリアも

「はい。お気遣いありがとうございます」

と応じて、しばし雑談を交わす。話した感じは、少し気弱なところがあるが常識人で、あのバカエルフとバカドワーフに比べれば、会話が成り立つ。

しかし、先の二人と違って明確なゴールがない分、腹の探り合いになる可能性もある。


まずは、気に入っている杖を褒めてみるか。宮廷魔術師のリサーチ結果では、かなりの業物らしい。このクラスの杖を作成できる職人はほとんどいないそうだ。


「その杖は大変気に入ってらっしゃるようですね。素人の私から見てもいい杖だというのはなんとなく感覚で分かりますよ。どんな杖なのか詳しくお聞かせください」


と言ったところ、ルナリアは嬉しそうに


「やっぱり分かります?この杖の良さが。この杖は私の兄が私用にオーダーメイドで作ったものです。私って広範囲の攻撃魔法が得意なんですけど、今のパーティーの編成では補助魔法も結構使う機会が多いんですよ。だから、どちらも打ちやすく調整してくれているんです。材質はソラトコの木に魔力を加えて、これはちょっと言えないんですけど、特殊な鉱石を加えて・・・・・防御の際には・・・屋外の戦いでは・・・・」


それからしばらくというか延々と話が続く。止まらない。どうしよう。

そうしたところ、すこし説明が途切れた瞬間があった。私はここを見逃さず、


「そうなんですね!!さぞお兄様はさぞ高名な魔道具職人でいらっしゃるのですね」

と割り込んだ。


するとルナリアの表情が曇る。


「私は素晴らしい職人だと思うのですが、なかなか認められなくて、工房の経営も少し厳しくて。なので私が頑張ってこの杖や兄の魔道具の良さをアピールしようかなって。勇者パーティの一員がこんな考えじゃいけないかもしれないですけど」

(すごく兄思いのいい子じゃん!!応援したくなちゃう。)


つまり、兄の魔道具販売事業が上手くいくようにすれば、こちらも利益を取れるかもしれない。ここはひとつ兄の事業を応援して、寄り添う感じで話を進めればいいかも。


「いえいえそんなことはありません。お兄様のためなんて、素晴らしいと思います。できれば、お兄様の工房の援助や販売のお手伝いなどを全面的にさせていただきたいと思っております」


よし、ここまでの好条件を出せば食い付くはず。この路線で攻めれば合格点まで持っていけるとほくそ笑んでいたら、


「すいません。すでにいくらか商業都市ダッカのトルキオさんという商人さんに援助をいただいています。この事業に関して一任するという条件で。販路の開拓も手伝ってくれたり、今回私が功績を上げれば魔道協会の公認も取り付けてくださるそうなので、大変助かってます」

と言われてしまった。


(トルキオってあのトルキオ?強欲商人の?商業ギルドのギルドマスターで、ダッカのドンと呼ばれてる?)

「トルキオ様とは、ネリス商会会長のトルキオ様でしょうか?商業ギルドのギルドマスターでもある」

と若干、焦ったようすで声を出してしまった。


「そうです。兄の才能を見抜いてくれて、援助してくださいました。商業ギルドも全面的にバックアップしてくれるそうです。無名の兄に援助してくれて本当に感謝しています」


(かなりの技能を持った魔道具職人が作った杖で、妹は勇者パーティーのエース魔法使い。そんなのサルが売っても売り放題じゃない。魔道協会の公認なんて、二つ返事でしょうよ!!)


しかも相手が悪い。トルキオなんて大物が出てきたら私では対応できない。宰相クラスか下手したら国王陛下自ら交渉しなければならない案件だ。

でも、今回の件については、さすがトルキオといったところだろうか。才能のある魔道具職人を発掘し、妹が勇者パーティーのメンバーと分かるや、すぐに援助して、恩を着せる。


それを考えるともう生産も販売もPRもすべて完成されているんだろう。ミスリル製品の比ではないほど利益が上がることは確実だ。

今回のことで、私では手に負えないと分かっただけでもプラスなのだろう。


私は


「ますますルナリア様を応援したくなりました。しっかりとサポートさせてください」


と言ってルナリアとの会話を打ち切り、その場を後にした。

それから勇者クラシアと神官騎士レイモンドとも言葉を交わしたが、特に内容は覚えていない。いつもより笑っていたくらいだろうか?具体的な目的もない会話だったので仕方ない。


そんなこんなで、パーティはお開きとなった。会場の片づけなどは部下に任せ、私も会場を後にする。お城の中庭で少し酔いが回ってきたので、ベンチに腰掛けた。その瞬間、私は意識を失った。極度の緊張、大量のアルコール、上々の交渉の出来。緊張が一気に解けたことから不覚にも眠りに落ちてしまったみたいだ。


しばらくして私を起こす男性の声が聞こえた。目を開けたところ、宰相がそこにいた。どうして?

宰相が優しく声を掛けてくれた。

「なんかフラフラしてたから、心配になって後を付けてきたんだ。お前がすごく頑張ってることは分かってる。あんまり無理するなよ」


それから酔いが少し醒めるまで、宰相は寄り添ってくれた。そして自宅まで送ってくれた。

別れ際に

「明日も会議があるから頼むぞ。いつも通り、綺麗な君で来てくれよ」


あれ?綺麗って聞こえたかしら・・・







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