エンジェルライフMirai⑤元のすい臓ガン治療、万策尽きたか・・あさこが元の最後の元気を呼び起こす!
最新技術とスースー宇宙線免疫療法で元のすい臓ガンを消滅させたエライザと直斗だったが、元のすい臓は、すでにガンに回復できないまでに蝕まれていた。静かに天命を待つ元に、あさこが送る最後の花道。それぞれの花が実を結ぶ。
⑤
元のすい臓がんが消えた。ただ、すい臓も壊れた。医学的にできる治療は、もう無い。痛みを取ってあげるだけか・・自分も脳腫瘍の治療を受ける余命半年の看護師、あさこが、元の元気を呼び戻す!
6月28日、いよいよ、藤井最年少名人が、豊橋にやってきた。豊橋駅のコンコースでインタビューの予定だったが、藤井名人目当ての人出が多く駅員通用口から直接貸し切りの豊橋鉄道に誘導された。。列車は2両編成1両目に対局の子供たち10名。2両目に保護者や報道陣50名ほどが乗っている。社内のモニターに対局が映し出され、同時にYoutube、NHKでLive中継される。藤井名人が列車に乗り込みインタビューが始まった。
藤井名人:電車の中で早指しはしたことが無かったですし、まあー今回は、多人数早指しということで、まあー非常に楽しみにしてました。負けないように、まー、したいと思います。
子供たちにも意気込みが聞かれ、一人ずつ対局者が紹介された。わざわざ、駅長さんが発射の笛を吹き列車が発射し、対局が始まった。藤井名人は6枚落ちで対局。つり革を持ちながら指していく。駅に止まっている時は藤井名人は長考しても良い。列車が走っている間は、1手3秒以内に指し続ける。南栄を過ぎるまで藤井名人は駅に止まっている間も3秒以内に指し続けてほとんど考えていない。盤面を見た瞬間に次の手が浮かぶのだろう。高師を出発する時に一人が早くも負けてしまった。その後、大清水では列車の行き違いを待つ間、藤井名人は指さずに次々と対局盤を回って状況を確認した。列車が発射すると次々と差し手を繰り出し20秒ほどで1周してきた。子供たちもあっけにとられ悪手の連発で老津までに6人が脱落。残っているのは高学年の小学生二人と、4年生の女の子一人。杉山、やぐま台と、その女の子の時に藤井名人は長考に入った。
神戸を出発する時に男の子二人が詰められた。女の子が残るのみ・・・・・・テレビ中継も大詰めだ!・・
列車が駅に滑り込むと藤井名人が3一角成で大手をした。後手の女の子は、列車が停車寸前に5二玉と逃げた。藤井名人が、1手間に合わず、引き分け。引き分けは小学生の勝となる。
見事引き分け勝利の女の子とご両親は、藤井名人と一緒に貸し切りバスでガーデンホテルまで行き一緒にランチを頂ける特典をゲットした。
女の子は、豊川市立代田小学校四年の山本岬ちゃん。お父さんが将棋好きで保育園から将棋を趣味で指している。藤井名人が好きで、藤井名人が有名になるにつれて岬ちゃんの将棋の腕も上達し今ではお父さんより強い。お母さんも藤井名人のファンであるが、お母さんはもっぱら藤井さんの食べるものやファッションに興味深々だ、今日のランチは家族にとって最高の思い出になるだろう。
藤井名人らを乗せたバスは、蔵王山展望台、めっくんハウス、サンテパルクを経由して、赤羽道の駅、恋路が浜へと進んだ。恋路が浜からガーデンホテルへは藤井名人と岬ちゃんが歩いてお散歩。
お父さんとお母さんは、バスで一足先にガーデンホテルへ、藤井名人と岬ちゃんはクリスタルポルトで、藤井名人にお土産を買ってもらい港に来ていた漁船から伊勢海老、真鯛をプレゼントしてもらって、ガーデンホテルに持ってきた。昼食会場に向かうと、ちょうど、お父さんとお母さんが伊良湖温泉を満喫して上がってきた。前菜を食べながら岬ちゃんが、藤井名人と歩いてきた場所の話をしていると先ほど漁船で貰った生きた真鯛や伊勢海老の船盛が出来上がってきた。
藤井最年少名人は、夢のような時間を見事勝利した山本岬ちゃん家族にプレゼントした。
何年か先、里見女流5冠を破るのは、岬ちゃんかもしれない。
ガーデンホテルに陣取るエンジェルクルー、元は、藤井名人と小学生の様子をテレビで見ていた。
ガーデンホテルに到着するとテレビクルーの後ろからスタッフを装い近くで見ている。
エライザの提案で取材、撮影関係者は、同じデザインの帽子をかぶることになっている。防止のデザインは、エンジェルクルーの今年の看護ドレスと同じ色合い、柄で出来ていて、エンジェルクルーが取材陣に混ざると、そっちが本物に見える。ゴシップ大好きのういかは、将棋ファンでも無いのに恋路が浜から藤井名人に密着していた。
ういか:あれか・藤井名人・岬ちゃんのお兄ちゃんぐらいにしか見えへんな・・
あのおぼこい子が何十億も稼ぐ名人とは・・・すごいな・・・
ただでさえ目立つういかが、エンジェルクルーの看護ドレスでうろちょろしてあわよくば映り込もうとするのでクリスタルポルトに入るころには、ういか専用のADが、ういかの行く手を阻んでいた。
ういか:この兄ちゃんめっちゃうざいは、
AD:ホント、、ういかさん映り込むと藤井さんがかすんじゃうんでホント離れてください。
こうなるとういかの野次馬根性に火がついてしまう。
ういか:離れればいいんやろ!
藤井名人から逆に離れて藤井名人とカメラの間に客を装ってエスカレーターで上がってきたり。藤井名人の後ろの景色に漁船から手を振って映り込んだり。番組のツイッターには、ういかを発見した人のコメントばかりが連発した。
番組終了と同時に、あさかのところにNHKのプロデューサーから直接抗議の電話がかかってきた。
あさこはひたすら謝っているが、ういかを叱ることはあきらめている。
今晩は、ウェイティングルームで、元、あさか、直斗と藤井名人だけで夕食会がある。
エンジェルライフのクライアント用のシェフが料理を担当する。あらかじめ藤井名人の好みは聞いているがメニューは無くシェフにお任せのフルコースとなっている。エンジェルライフの撮影は有るが、すべてモニタルームから操作する。撮影クルーも、照明もいないので、撮影されている感じは無い。
藤井名人は、昼食後しばらく休憩した後、伊良湖温泉の入れてある展望風呂へ入って夕食までのんびりしていた。
メイク:藤井様メイク担当です。お食事中撮影しておりますので少しメイクさせて頂きます。
風呂上がりでくつろいでいたが、撮影もしているのでメイクが用意されていた。シンプルにまとめたメイクでより一層さわやかな感じになった。メイク担当がそのまま食事に案内する。普段から豪華に仕上げてあるウェイティングルームだが、今日はより一層花や飾り付けが凝っている。壁の絵も故、大山康晴15世名人の書画に掛替られ窓際に畳の小上りが設けられ明日の対局に使われる。
藤井:こんばんは、お招き頂いてありがとうございます。
あさこ:こんばんは、お忙しい中、スケジュールを合わせて頂いてありがとうございます。
元:エンジェルライフの小林元旦です。
健康診断の主治医を務めさせて頂く森嶋直斗です。
あさこ:藤井さん少しは飲まれますでしょ。
藤井:少しだけ、すぐ酔ってしまいます。
お飲み物は、皆さんビールでよろしいですか。
エンジェルクルーからFendy鈴がサポートに入っている。Fendy鈴は、料理も得意でテーブルサイドでシェフの料理を更にアレンジしてクッキングコンパニオンと言う新しい接待カテゴリーをクライアントに提供している。
例えば、新鮮な魚の船盛が出てくる。刺身が好きな人は、そのままFendyが客の好みに合わせて取り分る。
ある者は、生が苦手となれば、その場で炙りにしたり、湯引きや、オイルフォンデュにしたりテーブルサイドで料理が変幻自在に変化する。
Fendy鈴は、本田レオンと女性用ファッション誌の人気を2分するほどの美貌で、大人の美しさの中に、少女の微笑みを持ち、妖精のような不思議な気品を振りまく。その彼女が、クライアントのテーブルサイドで料理をアレンジするクッキング・コンパニオンは、クライアントの人気が高く現在は予約停止中である。
今日は、予約の入っていた藤井名人のファンだと言う加山雄三さんが、予備日に変更してくださったのでFendy鈴がサポートに入ることが出来た。直斗はもちろん、元もあさかも本番のFendy鈴のパフォーマンスを生で見るのは初めてだ。
Fendy鈴:サービスを担当いたしますFendy鈴です。よろしくお願いいたします。
Fendyがビールをみんなに手渡す。
あさこ:それでは、藤井様の最年少名人位獲得を祝しまして・・乾杯!
元:今回はおめでとうございます。また、急な変更にも関わらずお越し下さりありがとうございます。明日は、わたしとお手合わせ頂けるとのことで感激しております。
藤井:あさこさんから興味深いお誘いを頂いて、今日の電車の中での早指しは面白かったです。子供たちのレベルが上がっていて、まー、そういったレベルアップに貢献できているとしたら嬉しいです。
鈴:前菜ですが、パクチー苦手な方は居ませんか?
直斗:僕は少し苦手です。元さんもね。
元:そうですね苦手です。
鈴:藤井さんはお好きと聞いてますので、はいどうぞ。
みんなに取り分けた。
藤井:おいしいですね。こんな触感のパクチーは、初めてです。
鈴:嬉しいです。苦手な皆さんは、三つ葉の湯引きに変えています。
元:三つ葉も良い触感になっています。
鈴が直斗に新しいジョッキでビールを渡す。
シャンパンを用意してあさこに、にこやかに目線を送る。あさこも目礼して微笑み返す。
鈴は少し小さめのシャンパングラスにシャンパンを注ぐとあさこの右肩からワイングラスのボウルに持ち替えステムを開けて手渡した。藤井の目がワイングラスに向くのを感じるとすかさず鈴が藤井に微笑みかけ
”飲みやすいシャンパンです。試されますか。”
と、聞いた。もう、誰も断れない。藤井には、細長いワイングラスにシャンパンを注ぐとフットからテールを包むように持って、藤井にステムの上部を持たせた。
食事が始まって10分程しかたっていないが、元は、Fendy鈴の人気の高さを痛感していた。
”ビデオでは分からなかった本当のコンパニオンの技術がこれか”元は、もっと早く体験すべきであったと悔やんだ。
直斗に2杯目のビールを進めたこと、あさかへのシャンパン、グラスの持ち方、相手が持つ位置まで考えた手渡し、藤井名人への渡し方、注ぐシャンパンの量、すべてが斬新で既存のマナーに縛られずさらにスマートで食事しやすい。当然、私の病気など知らない鈴は私の飲み方からすべてを察し聞くこともなく私の心を読み取っている。すでに彼女は、私が彼女が繰りだす。クッキング・コンパニオンのコンセプトを理解したことも悟っている。ここにいる4人は、Fendy鈴の思い通りに会話し、思い通りに酔いFendy鈴の世界から抜けられなくなる。
クッキング・コンパニオンを経験したクライアントの8割が次回の予約を入れて帰る。残りの2割もほとんどがリピーターになる。
シェフが、魚料理、肉料理を運んできた。
シェフ:本日料理を担当しております。島袋です。
鈴に耳打ちしをして何やら打ち合わせると後を任せる。
鈴:お肉と、お魚です。どちらも少しづつ取り分けますのでお好きなものから言って下さい。
レディーファーストで、あさこさんには、熱いうちにお魚を取り分けますね。
藤井さんは、どうされますか
藤井:私もお魚を先に頂いてみます。
鈴は取り分けながら元に微笑みかける。
元:私は、肉を先に頂くかな。
鈴が大げさに笑って喜ぶ。
直斗:僕も肉の方をお願いします。
料理を取り分けて食べ始めた客が、味を確かめたタイミングで、
鈴:ホウボウのムニエルです。お肉はカモのローストに丘ワサビのソースです。
料理を食べている客の間に座りのいいグラスで赤と白のワインを少しづつテーブルに置いた。
客の食べる量、食べ方で追加の皿の取り分け方を変える。バーナーを取り出し鉄板に木くずを盛った。スモークチップだ
元がすかさず聞いた。
元:それは、桜のスモークチップですか。
鈴:よくご存じですね。桜が入ってますが、Fendy鈴特性のブレンドで、リンゴ、くるみ、ナラが、入っています。
小悪魔的に笑いかけると、バーナーでチップに火をつけた。燃えるチップに小さな金網の台を置き、
残っている鴨のローストを乗せてクロッシュをかぶせた。手品で見たことがあるシーンだ。
鈴:冷めてもおいしいです。ウイスキーには、これですね。おみあげにも最適です。
鈴から珍しく話しかける。
鈴:藤井さん! 今一番強い藤井さんでも弱い人、苦手な人っていますか?
藤井:まぁーっ、実際の勝率はどうか分かりませんが、豊島将之九段には、一時期まったく勝てませんでした。
直斗:藤井さんでもまったく勝てない相手がいたんですか。
直斗が話に入って来るタイミングで、鈴は料理やワインのサーブを進める。
藤井:プロ入りして29連勝してテレビにも取り上げられたんですが、まー、その後は、少し研究されたと思います。
結構負けた時期がありました。負けてるとあんまりテレビに出なくなりました。深浦康市九段にもよく負けてました。
負けた棋譜を研究して、また、少しづつ勝てることが多くなったと思います。
成果を残した人と酒を飲む時にうまくいった話は場がしらける。話す方も自慢話にならないように気を遣う。
優秀な人ほど失敗談がよく似合うし、一緒にいる人も和む。
鈴のさりげない質問だがタイミングも内容も完璧だ。元は、もう少し長生きしたいなあとちょっと思った。
元:それでは、私はこれで、明日の作戦を練って寝ます。お若い皆さんは、もう少し藤井さんを酔わせて明日の調子を
乱してくれるとありがたい。
元は、腰の痛みも酷くなってきたので早めに寝ることにした。
あさこ:藤井さんはお酒はあまり強くないとおっしゃっていましたね。
藤井:まだ、成人したばかりであんまり飲んでないですけど、まー、弱い方だとおもいます。
直斗:元さんの要望もありましたから少し挑戦してみますか!鈴ちゃんなんか用意して!
鈴:そうですね。これは、ある人が好きだったブランデーなんですが、東アフリカにしかない安価なブランデーです。
アルコール度数が30%ぐらいで、少し低めで、甘みが強いので若い方が飲むのにはちょうど良い感じだと思いますよ。水割りかロックがお勧めですが、藤井さんには最初は口当たりの良いソーダ割でおつくりしましょう。
Fendy鈴が氷を運び、お酒を作って微笑ながら給仕する。軽妙なトークに潜む考え抜かれたおもてなしの心。彼女の動きは、踊っているバレリーナようでもあり、しなやかにしなる首筋から足首へ流れるシルエットが絹のむこうにかすかに透ける。
多くのクライアントは酒ではなくFendy鈴に酔っていくのであろう。藤井名人もしっかり酔わされて大人の酒を覚える日も近そうである。
朝食は、それぞれの部屋に用意された。藤井名人はどちらも旬の平貝の西京焼きとイサキの干物。メロン漬も添えた
元は五穀米のコンソメおかゆとアサリの味噌汁。二人とも体調は良く食が進んでいる。
直斗:元さん体調はどうですか。
元:気合が入っているのか痛みが飛んでしまった。ここ数日で一番、体が軽いよ。
直斗:昨日も飲んでもらいましたが、眠くならない痛み止めです。あと、すい臓、肝臓の働きを補助する点滴を入れます。
対局は9時からですね。2時間ほどありますからここでゆっくりするといいです。
貴賓室のメインベッドルームに広がるバルコニー。伊良湖には珍しく緩やかな南風でガーデンホテルのバルコニーは、ほぼ無風。リクライニングソファーにくつろぐ元の顔をときおりトンビの舞い降りる影が横切る。
風が無い日は、波も穏やか。小さな漁船でも海面を滑るようにかなりのスピードで進む。青い海と青い空の間に、漁船がまっすぐ引いた白い波が二つに分かれ、一つは遠ざかり、もう一つはこちらへ、ゆっくりと波打ち際へ寄せた。
元は、自分の人生は、すべてうまくいったように思えた。そんなわけは無い、ここの景色がそうわせるのだろう。
天国とは、
伊良湖岬のことなのかもしれない。