【閑話】バルリング辺境伯と側近
笑い過ぎて執務机に崩れ落ちたバルリング辺境伯に、乳兄弟でもある側近から、あきれたような声がかけられた。
「笑い過ぎだろう」
いや、笑うなという方が無理だろう、と普段の冷厳な強面を投げ捨てた辺境伯が肩を震わせて抗議する。
「当主代理としてレオンの母君のもとへ赴き、二人の婚約をまとめて来いと言ったときのあやつの言葉を知っておるか。『義弟の母君は私と同年代だと聞いております。言い寄られた場合は、私の側仕えに代わって話をさせることになりますが宜しいでしょうか』だぞ」
均整の取れた美丈夫に育った長男は、穏やかで人好きのする人柄もあり、身分容姿資産の三拍子が揃った優良物件で、それはよくもてている。一目惚れされることも日常茶飯事らしい。
先程までこの執務室にいた、その息子がなんとも微妙な表情で、「婚約をとりまとめて今後の話も同意を得ましたが」から始めた、最終的に話をまとめるまでの両者の擦れ違いが酷かった。
「あ、あやつ、レオン殿と恋仲だと勘違いされて、その上、祝福までされおった」
なまじ出発前に、相手方の母親に惚れられると面倒だと遠回しに言っていたので、ますます笑える。いっそ滑稽な程に的外れな心配だったわけだ。
「が、眼中にも、入れてもらえて、おらぬではないか」
馴れ初めまで尋ねられたそうだぞ、と息も絶え絶えな当主に、これは執務を再開するまでに時間がかかりそうだと側近は嘆息した。