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【閑話】通信具事変


平民神官レオンが魔獣戦線に赴任して暫く経った頃だった。


前線の爆音と閃光を遠目に、彼は昼食代わりの穀物バーをモソモソと口にしていた。酷くパサついたそれを苦い薬草茶で流し込んでいく。現在交戦中の討伐部隊の交代時間になれば、ここ後方に溢れんばかりの死体と怪我人が移送されてくる。それまで、束の間の平穏が救護所に訪れていた。


『まだ』大人しく回復役に徹していたレオンに、指揮役神官のラウレンツが薬草茶を継ぎ足しつつ尋ねる。

「どうだ。戦場には慣れたか」


現役騎士と言っても納得の巨漢に見下ろされつつ、白皙の美少年が淡々と返す。

「はい」


そうか、とレオンの口数の少なさに既に慣れているラウレンツは、続いて尋ねる。この少年は真面目なので、寡黙とはいえ、聞かれたことにはきちんと答えるのだ。

「指導を任せた先輩のテオとはどうだ。上手くやれているか」


口下手なレオンを心配して指導役をまかせた平民神官は名をテオフェルという。本人は「テオでいいっすよ。そっちのが呼びやすいですし」とあっけらかんと笑う好人物だ。


テオは友人知人が多い。二人とも希少な聖魔法の使い手、しかもめったにない平民出身。患者とのコミュニケーションに難ありと実習時に特筆されたレオンには良い刺激になるかと思っての人選であった。


「はい。先日も戦闘で疑似魔力回路の部位を欠損した騎士への治療を見せてもらいました。聖魔法行使及び魔力回路の再施術です」


ほう、とラウレンツは頷いた。戦闘時の部分欠損は最も多い症例の一つだ。良い勉強になったことだろう。どうだったと尋ねた彼に、天使のような容貌の美少年は、次の穀物バーの油紙を剥がしつつ返す。


「騎士の欠損部位を聖魔法で回復後、患者と面談を行い、へそ部分に通信具を装着、疑似魔力回路を周辺に再施術していました」


んん? 途中まではよかったが、後半になんか変な単語があった気がする。ラウレンツは首を傾げたのちに聞き返した。

「レオン、私の聞き間違いかと思うが、なんだ、通信具をどこにつけたと言ったか?」


口を開こうとしたが穀物バーで一杯であったレオンは、薬草茶をぐいっと飲み干してから返答する。

「へそです」


どうしてそうなった、とこめかみを押さえるラウレンツに、患者の希望です、とレオンは続けた。空になった器に再び薬草茶を継ぎ足す少年は、成程確かに戦場暮らしに慣れ、少々のことでは動じないらしい。


「『通信具を耳に設置すると、命に関わらぬからと度々欠損させてしまう。いちいち再施術をするのも面倒だ。どうにかならないか』と患者の騎士が言うので、『じゃ、腹なら急所だからいいっしょ☆』とテオ先輩が処置しました。」


ただ、とレオンは首を傾げつつラウレンツを見上げた。澄んだ紫の瞳が無垢に指揮役神官を仰ぎ見る。

「戦闘中に上官の声が腹からする騎士がいて気が散る、と周囲から苦情が来ているそうです。あと、その騎士に接続すると自分の声が相手の腹から響くと思うと通信したくないという騎士もいます」


患者の意思と周囲への配慮どちらを優先させるべきだったのでしょうか、と真面目に問う新米神官に、指導役を間違ったなぁと頭を抱えたラウレンツであった。


ちなみになのだが、ピアスというのは人体の結構あちこちにつけられる。そして、愛しい恋人に入れてもらうのでもない疑似魔力回路の再施術を面倒くさがる騎士はまぁまぁいた。そんな彼らの前に、『耳以外』に通信具ピアスを入れられると目に見える形で示した馬鹿が現れたわけだ。


あとは推して知るべし。真似たり、新たな部位に施術を求める真の阿呆が現れたりした。


人生面白ければそれでヨシッ! なテオ神官に、筋肉ダルマの鉄拳制裁が執行されるまで秒読みであった。

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