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【閑話】軍神と狐神
飲めや歌えのドンチャン騒ぎをする異界の神々を眺めながら、軍神はくわぁっと大きく欠伸をした。それにしても、日ノ本の神々というのは酒宴が好きなものだ。知人の神に誘われてきたのだが、いつ終わるとも知れぬ宴に、さすがに疲れてきた。そろそろ暇をするかと腰を上げたところだった。
「のぅ、異界の軍神殿」
ピルピルと白い狐耳を揺らして、異界の女神に声をかけられた。落ち着かなそうに揺れ動く9本の尻尾の持ち主は、こちらの世界を見てみたいのだとオズオズと告げた。澄んだ輝きを持つ黄金色の瞳が軍神を見上げる。
自身が住まう世界の麦畑を思わせる色の美しさに思わず魅入った彼は、しばし言葉に詰まった後に「構わぬぞ」と頷いて見せた。
後方でさり気なくそれを見守っていた神々は、そっと目を合わせて再び宴に戻った。古今東西、人の恋路を邪魔すれば、馬に蹴られるというものだ。それはそれとして―――あな、喜ばしや。
両柱にバレない程度に小さく密やかな祝福が、あちらこちらの神々から贈られたのだが、お互いを見つめ合ったままの彼らはそれに気付いていないようであった。