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【閑話】侯爵邸の私室にて
「なぁんか聞き覚えのある話があったんですが、奥様?」
揶揄うような夫の声に、侯爵夫人はフイッと顔を背けた。とはいえ、夫の膝に向かい合わせに乗せられている以上、逃げ場はないのだが。
「別に黙っててもいいけど」
首筋に口付けた夫がクスクスと笑い声を零す。赤くなった妻の耳が愛おしかった。
「俺のこと考えて、アレとかコレとかしてくれたって知れて嬉しかったし? 後でルイスに礼を贈らないとなぁ」
悪戯な指が背筋をなぞるのに、ちょっと、と妻が真っ赤になって抗議の声を上げる。普段は取り澄ました貴族夫人の顔が、自分の前でだけ素直に染まる様子に侯爵は眦を下げた。
「……そんなことしなくても、俺が君にべた惚れなのは知ってただろ?」
少し不満げに言う夫に、妻はツンと澄まして言った。
「どんな戦場でも全力で取り組むのが私の流儀ですわ」
へぇ、ではお手並み拝見といきましょうか、と夫に抱き上げられて寝室に連れて行かれた妻が勝負に勝つことができたかどうかは、彼ら二人の秘密だ。