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003_奇跡


 少しばかり疲れたノイルは、背もたれに体重をかけて目を瞑る。


 しばらくの間、視覚を閉ざして思考を整理していると、奇跡という言葉が引っかかった。


 それは、ノイルの人生の中で幾度か聞いたことのある言葉。


 しかし、詳細については誰も知らず、結局はノイルもよくわかっていない。


「あの……」


「ん?」


「奇跡ってなんなんですか? その、知らなくて」


「ノイルなら知っているかと思って勝手に話を進めていたわ。ごめんね。一般兵として生活していたノイルは知らなくて当然よね」


 アリアはノイルに向けて手のひらを差し出す。


 すると、手のひらを中心に見覚えのある幾何学模様が浮かび上がり、小さな輝きを放ち始める。


「現象とか原理だとかを無視して結果だけを呼び起こす……まぁ、『ずる』みたいなものよ」


 次の瞬間、手のひら周辺の空間がぐにゃりと歪み、アリアは一輪の花を手にしていた。


「湖畔に咲いていたの。綺麗でしょ。ノイルにあげる」


「ありがとう、ございます」


 手渡された花をまじまじと見つめるノイル。


 目の前で瞬きせずに見ていたため、子供騙しといった類のものではないと確信できる。


 しかし、だからと言って素直には受け入れない出来事だった。


 花びらからは水滴が滴っている。


 連想したのは大広間を満たすほどの大量の水だ。


 凄い物を見てしまったという興奮が沸き起こるノイルとは対象的に、気怠そうなアリアは欠伸を一つ。


「ふわぁ……私の場合は異空間を自由に扱える奇跡ね。奇跡は人によって違うわ」


 ではこの世界にはどんな奇跡が存在するのかとノイルは気になるが、アリアの様子を目にして問いかけるのはやめた。


 背もたれにもたれ掛かったアリアはゆっくりと瞳を閉じる。


「詳しいことは……今度説明するわね。ちょっと眠いから……」


「あ、はい」


 恐らく、最後のノイルの言葉はアリアに届いていなかった。


 そう思えるほど早く、アリアは眠りに落ちてしまった。


 一人取り残されたノイルは車窓から外の風景を眺めてみる。


「そういえば、何処に向かっているのか聞いておけばよかった。いや、到着してみればわかるか」


 御者に聞くこともできるが、騒ぎ立ててアリアを起こしたくはない。


 陽は傾いており、もうすぐ夜が訪れるだろう。


 それまでは流れていく風景をぼんやりと眺めることにした。


 アリアがそうしていたように。


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