表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

拠点にて

イリスティル視点

「ただいま戻ったっすー」


 シンプルにもかかわらず煌びやかなその部屋に入ると一人の女性が山済みの報告書や資料を超高速で処理をしていた。これでもここにある書類は選別されたもので彼女でしか処理できないものしかないのが心苦しい。そんな彼女は手を止めずちらりとこちらを一瞬見ると再び書類へと目線を戻した。


「お帰り、マスターはどうでした?」


「あ、リーダー。相変わらずでしたよー。混沌卿になるのは嫌みたいっす」


 ここは私たちの拠点エリアガーデン。地上より約百数十メートル上空にあるこの拠点は術式付与の天才フィーちゃんと私たちの魔道具作成技術によって作り出された移動浮遊城塞都市だ。マスターの部屋から離れた後転移術式によって拠点へと帰ってきていた。


「それで報告は」


「特にいつもと変わんないっすよ。衣装をどうにかしろってことだけっす。あ、あと今度顔見せに来るって」


「そう、…!?マスターが来るのですか!!いつ!」


「ちょっと落ち着いてください!」


 これだからリーダーへの報告は面倒なのだ。さっきまで仕事をこなしつつ、すまし顔できりっとした表情で淡々と話を聞いてくるが一瞬で距離を詰めマスターのにおいをかごうとずっと私をすんすんしてくる。マスターの話になったとたんもっと詳しくと頬を赤らめて迫ってくる。いつもはかっこよくみんなの憧れのお姉さんなのに、見慣れたとはいえ正直こんな姿見たくない。今なんて涎たらしながらあーあーってゾンビみたいになってるし。リーダー曰くレンのニウムも切れかかっていることでいつも以上に酷い。こんな顔部下たちに見せたら士気がダダ下がりだ。


「もしかしたら既に帰ってきてたりして」


「!?」


 すっと背筋をただしきりっといつものリーダへと戻った。そのタイミングで報告に来た別のエルフが現れる。


「あ~イリスだ~。マスターどうだった~?」


 間延びした語り口調とおっとりした雰囲気の垂れ目が特徴のナナーリル・トートは見た目に反して調査や収集、尋問などを得意としている所謂スパイ。エリアガーデン所属のものの中でも純粋な戦闘力はトップだ。つまり怒らせると一番やばいやつってこと。


「おっとナーちゃん久しぶりっすね。マスターは元気でしたよ。それと今度来てくれるって」


「あは~、まじ~」


「それでナナー。報告を」


 報告になったとたんナーちゃんの雰囲気はガラリと変わる。雰囲気もだが一番わかりやすいのは目つきだけど。ほんとオンとオフの切り替えが極端なのが多くて疲れる。


「あの悪魔についてね。事前に調査していたこととすり合わせを行ったけど間違いなさそう。着実に光の勇者は準備を整えている。光の勇者は女で確定よ。そしてマスターを欲している理由…種馬として欲しているわ」


その言葉を聞いて怒りを覚えたが私よりも先に殺気をあふれ出したリーダーにあてられてすっと平常を取り戻した。エリアガーデンのみんながびっくりするのでやめてほしいっす。まあ、メンバーの中でも一番マスター愛の強いリーダーがそんな単語を聞いて怒るのは当たり前だが。


「…今すぐ消してやりたい」


「あなたならわかってるでしょ?奴は光の加護を受けている。そして奴らの背後にはドワーフがいる。下手したらここを()()で逆探知されて終わるわ。だから私たちは影から奴らを仕留めるの。そっちの方が彼らしいわ」


「ええ、そうですね」


 冷静さを取り戻したリーダーは殺気を抑えまた書類へと目と手を戻す。相変わらずのマルチタスク力。これで報告を聞きつつ次の作戦や裏の裏まで読むその頭はほかの誰にもまねできない。圧倒的人手不足の中、教会や光の勇者、ひいては国とも渡り合えているのはリーダーの能力のおかげといっても過言ではない。


「あと、悪魔とは少し違うけどエレナ嬢がゴスペルの魔物討伐部隊に配属された。本格的に悪魔と関わっていくことになるわ。嫌だ嫌だといっている彼だけど力を使わずにはいられないでしょうね。そして私たちの仕事、彼のサポートも本格的になっていく。ふふっ、楽しみだわ」


妖艶に笑う彼女を見れば男ならだれでも虜になるだろう。しかし、ナナーをよく知る私からすればその笑みはどの顔よりも畏怖を覚えるものだった。


「そう、それじゃあ幹部会を至急開くわ。スケジュールは私が調整するからナナーはいつも通りで、イリスはフィーを連れてきてください。数刻とはいえフィーの代わりをそうね…ナナーのセカンドを連れて行ってください。あの子たちもそろそろマスターに知ってもらってもよさそうですしね」


「あは~、御意~」


「承知っす」


 お仕事モードが終わった。


「そういえはフィーとは会いましたか?あの子ったら全く帰ってこないんですから。成果と報告は上げてくるので文句はないのですがフィーが帰ってこないと私たちがマスターのところに行く機会が減ってしまうじゃないですか」


「いえ、フィーちゃんはお嬢の方に付いていたそうなので。本気で隠れているフィーちゃんを見つけるのは私には無理っす」


 実は少しだけ話したが報告するような内容じゃないし黙っておく。フィーちゃんはぐちぐち言われたくないから帰ってこないんすよ…とは言えなかった。みんなマスターのそばにいたいがそれぞれ適材適所をきちんと把握し守っているからこそエリアガーデンは実力を発揮できている。だから文句は多いが約束を破る者はいない。マスターとお嬢を守るのに適しているのは圧倒的にフィーちゃんなのは満場一致だしね。羨ましいけど私はまだ幹部の中でも会う機会が多い方。一番かわいそうなのは基本拠点から出れないリーダーなんだし仕方ないかもしれないけど。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ