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誰もが厨二を飼っていた

 学校に入学するにあたり引っ越したので今は1kの部屋で一人暮らし。エレナとはお隣さんだ。一人暮らしになったものの家族同然として今まで過ごして来たせいかエレナは僕の部屋でご飯を食べるし暇な時は漫画を読みにくる。僕としては一緒にいれて嬉しいが年頃の女の子が無頓着なのはちょっと心配。というか僕が全く対象じゃないってことか…。


 放課後、僕はエレナと一緒に帰って来た。エレナはバイトの後、今日も一緒にご飯を僕の部屋で食べるとのことなので、エレナがお気に入りの煮物を作り、空き時間はトレーニングを行なった。



「…」


 帰宅して部屋の明かりもつけず、夕飯に帰ってくるエレナを待っている。素数を数えて耐えてみたがすぐに限界が来た。


「なーにが"我はいつでも貴方の味方貴方の陰"だ!!キメ顔でキショイわ!!」


 先程の痛々しいセリフと言動。


「てか、なんだよあの格好!!もっとなんかあるだろ!?どんなセンスしてたらあのファッションに辿り着くんだよ」


 思い出される様々な恥辱に塗れた5分間。


「確かにさ、エレナがヤバい時に助けられたよ。でもあれはないだろ!?顎クイと腰に手回すのはセクハラだよー犯罪だよー。あー死にたい」


 地面に倒れて全身から力を抜く。自分は床、地面、土だと思い込む事でなんとか気を保つ。


 僕は魔力がなくて普段魔法が使えない。だけど特殊な条件下でのみ全てを覆せる力を使える様になる。僕はこれを黒歴史(くろ)魔法と読んでいる。その名の通り絶大な力を得る代わりに気分がぶっ飛びハイになり、あり得ない妄言を吐き続けるモンスターに成り下がるのだ。今日も色々なものを失った気がする。


 まあいい、色々思う所はあるがエレナを助けられたし彼女があの不審者と僕が同一人物で有るとは認識しないだろう。それにこんな事しょっちゅう有るわけないしこれが最後になるだろう。それにしてもあの化け物何だったんだろ。それっぽく成程といったが何もわかっていなかったのでとりあえず解析に投げたが。


「マスター、荒れてるっすねー」


床のラグと同化しかけていた僕に声がかかる。全く音も気配もなかった。しかし、そこに人がいる。


「うるさい。…まあ、ご苦労様、イリス」


「えー、それだけっすかー?もっと労いとかないんすか?女の子に対してそんなんだからモテないんすよ」


「うるさい、フィーと似たこと言うな」


「え、フィーちゃんにも言われたんすか?」


 窓から現れた仮面の黒服少女イリスティル・トートはペンダントを握ると仮面と幻影魔法が解け、プラチナ色の髪と少し尖った耳が現れる。エレナのかわいい系ではない美人系、見る人から見ればフィーにそっくりな女の子はきょとんとしてる。


「お陰で間に合ったよ。ありがとう」


「まあ、これが私たち()()()の仕事っすから」


 イリスはにっこりと笑った。


「それよりも久しぶりの混沌卿最高に痺れたっす!!いや〜かっこよかったな〜。圧倒的な力、芸術的な魔力とその操作!!人類が目指すべき完成系!!」


 イリスはキラッキラに目を輝かせて先程までの戦闘を思い出している様だ。辞めろ!僕にとっては最悪なんだ。


「もっと魔法使ってくださいよー。誰に仕えているのか分からなくなるんで」


「…衣装なんとかしてくんない?」


「何言ってんすか!思い出のぼくのかんがえたさいきょうの装備を変えるなんてあり得ないっすよ!!」


「確かにあの時はかっこいいと思ってたけど、今になると凄くキツイんだ!メンタルが削られていくんだよ」


「私たちの衣装ともデザイン合わせてるんで今更無理っすよ。これ、みんな結構気に入ってるんで。しかもこれ一つでいくらすると思ってるんすか。払えるならフィーちゃんに頼んでみたらいいんじゃないっすか?」


「…無理だな」


 何の素材で作られてるのかはよく知らないが物理、魔法どちらにも耐性を持ち、伸縮性、温度管理、荷物収納などなど聞いたこともない仕様満載のスペシャル衣装。当時10歳の僕とみんなでやりたい放題考えたものをフィーがある日突然作って持って来たのだ。どこにそんなお金が有るのか知らんがら昔興味でフィーに尋ねたら後悔するしたぐらいにやばい。それ以降は深く考えずに渡されたものはありがたく貰うようにしている。


「そういえば、いきなりオカマ転送してくんなってリーダーから苦情入ったんすけど。事前情報くらい入れてくださいい。怒られるの私なんで」


「ごめんて。次から気を付ける」


「録音できたんでオーケーっす。あ、出来ればリーダーになんか一言もお願いします。マスターに合わな過ぎて時々狂いそうになってるんで」


「えー」


 彼女たちのリーダー、ソフィーリア・トートは優秀だ。優秀すぎるが故に替えが聞かないため彼女しかできない仕事に追われている。さらに僕が言うのもなんだが、ソフィーは自他ともに認める僕のファンで会うとリーダーとしての威厳も何もなくなり現場の士気が下がると色々重なって会う機会が少ない。が、定期的にレンのニウムという謎成分を摂取しないと発狂するようになってしまったらしい(本人談)。実際に会ってハグをするかジェネリックとして愛をささやくと回復できるらしい。つまり、イリスの言う録音はソフィーに愛をささやけということになる。


「馬鹿言うな。僕はエレナ一筋だ。…明日行くから」


「了解っす!とりま、今日の報告はこの辺で。みんな会いたがってたので丁度よかったっすよ。今日来るのリーダー以外からもめっちゃ恨まれたんすから。たまには自主的に来てくださいね。みんな喜びますから。それでは〜」


 ペンダントを起動し、仮面とフード付きコートを身にまとう。次の瞬間ばっと背を向けたまま窓へ倒れるようにして消えていった。この演出は今の僕でもかっこいいと思っている。


「ただいま…」


 ベルも鳴らさず鍵を開けてエレナが部屋に入って来る。合鍵渡してたっけ?まあいいや。罪を償うべく行動しよう。とりあえず電気を付けて出迎える。


 僕を見たエレナは急に飛びつき抱きついて来た。


「えっ!?どうしたの???」


「ちょっとだけこのままにして」


 無論、僕には得しかないので無抵抗にする。さっきあんな化け物と変質者に襲われたのだ。天才魔法使いの聖女様と言えど怖かったのだろう。エレナが右腕をふにふにして来てくすぐったいが、好きなようにさせておく。


 少しするとすっと離れた。


「煮物…」


「うん、今日も美味しく出来たよ。すぐ準備するから着替えておいで」


 エレナは頷くと部屋に戻るものだと思ってたが、当たり前の様にロッカーの1番下の鍵を開け、何かを取り出すと風呂場へ向かった。最近無くして開かなくなっていたと思っていたらエレナが持ってたのか。まぁ使ってなかったから構わないのだけど一言くらい欲しかった。夕飯を温め直して食卓に並べていく。エレナはまだ来ないのでデザートの用意もしておこう。お詫びも兼ねて。


 ごく自然にシャワー浴びて部屋着で髪を乾かしたエレナはご飯を美味しそうに食べている。髪を下すといつもよりも大人っぽく見える。エレナの実家に居た時はいつもこんな感じだったなーと思いながらご飯を食べる。


 彼女は何も言わない。僕も自分から墓穴を掘るつもりはないので何も言わないでおく。ご飯の後も特に喋らず、エレナの髪を梳かしてあげるとそのまま漫画を読み始め、寝る時間になったら帰って行った。


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