クラスメイトは突然に
試験の翌日、僕は今日も朝早く家をでて学校に来た。
ようやく慣れて来た通学路。校門をくぐると見慣れないものがでかでかと立っている。
「ん、Aクラス」
僕の隣でエレナが同じく臨時掲示板を眺めている。掲示板を見ると筆記47点の実技1位で計97点。出席番号1番。2位の89点と比べても圧倒的だ。
「レンは……」
去年は違うクラスになってしまったので今年こそはと意気込んでいたのだが、Aクラスの所を見ても一向に見つからない。どーしてだ!
「あった、レンはEクラス」
「ははは、エレナが冗談言うなんてめずらしいね」
無慈悲な宣告をされた。Eクラスそんなわけはないだろう。僕だって優等生って胸を張れるくらいには成績優秀だったんだぞ。エレナ程じゃないけど。
エレナはムッとして掲示板を指差した。
「筆記48点、実技0点。Eクラス。これ、どーゆう事」
渋々見ると本当に書いてある。あ、アレクはテスト25点でEクラス。ビリのアレクと呼んでやろう。まだ許す気にはならないけど少しだけ気が晴れた。
平均点を見てみると筆記が31点で実技が34点だった。一通り見ても実技で20点台以下がほぼ居ないのを見ると本当に学力順に並んでいると言っても過言ではなかった。アレクの邪魔が無ければ僕もエリート街道まっしぐらだっただろうに。興味ないけど。
「そんなにAクラスがやだったの…」
僕が強がってへらへらしてるとエレナがしゅんとしてしまった。何かと特訓とここ3ヶ月はよくサンドバックとして連れ回された。この学校に来る前も試験対策と言ってしばかれてたっけ。ミスティカル、それもAクラスに僕を入れたかったのだろうか?エレナとそういった話は特にしてなかったんだけど。
理由は分からないが落ち込むエレナをどうにかしなくては!
「違うよ!鬼姫のせいだ!!途中で試験切りやがって」
いい言葉が出なかったので鬼姫に押し付けることにした。間違ってはない。すると後ろから恐ろしい気配が急に現れる。
「あぁ?てめぇの日頃の行いのせいに決まってんだろ」
「鬼姫!?」
殴られた。僕は全く気付かなかったがエレナは気付いていた様で呑気に挨拶している。
「オルコット先生だろ!ったく、馬鹿が」
「僕は馬鹿じゃない!!見よ、この点数を!!」
掲示板の筆記を指差し、これでもかと見せつけてやる。筆記学年一位様だぞ!!頭が高い。あ、嘘ですごめんなさい。そんな怖い顔で睨まないで。
何かを感じ取ったのかめっちゃにらんでくる鬼姫。するとすぐに目を閉じ大きなため息を吐く。ため息をすると婚期逃しますよ。殴られた。
「はーーー。お前は勉強はできる愚か者タイプの馬鹿なのが本当にタチが悪い」
「ふふっ」
「エレナ笑わないでよ」
「レイン、勉学と剣の努力は認めるがお前は魔力無しだ。ただでさえ周りの目が厳しいってのに問題ばかり起こしやがって。これからは今まで以上に指導していくからな」
「は?」
意味がわからず、つい聞き返したらまた殴られた。
「オルコット先生はAクラスじゃないんですか?」
エレナが鬼姫に質問してくれた。元が着くが世界魔物対策組織、当時最強と呼ばれていた第3部隊軍隊長ラファリア・オルコットの名は知らないものの方が少ない位の生きる英雄。魔物に占領されていた北の国の領土奪還作戦で多大な功績を残したことは物語として書籍化されているし、歴史の教科書にも名前が載っている。そんな英雄様が理由は知らんが去年突然赴任して来て担当の1年生だけでなく、そのカリスマ性を遺憾無く発揮して今では学校を支配していると言っても過言ではない。優等生の憧れ、問題児の敵の様な人だ。
ぼ、僕は優等生だけど苦手なのはしょうがないだろ!僕の周りには変わったやつが多かったせいで僕まで同族扱いしやがって。被害者なのに!鬼姫は僕までまとめて指導してくるのだ。
「確かに当初はその予定だった。が、試験結果を受けてEクラス配属になった。正直フォルン、お前に教えられる事はない。それより今年のEクラスは問題児が多すぎて他の先生じゃ手に余るって判断が下された。そこで私が呼び出された。覚悟しておけ」
容姿に似合わない笑顔。しかし、様になっているその獰猛な笑みに苦笑いしか出来なかった。
ーーーーーーー
日課のトレーニングをこなし、着替えてから教室に向かう。授業が始まる10分前という事もあり廊下は既に賑わっていた。特にAクラスの盛り上がりが凄いことになっている。エレナだろうか。
2学年フロアの隅っこ、Eクラスへと足を踏み入れた。クラスに入ると机と椅子がきちんと並べられており主席番号順にネームが置かれている。授業前なのである程度固まって談笑していたが、急に静かになり舌打ちが聞こえて来た。
「よお〜レン。何事もなかったかの様に教室に入って来たな。俺たちに言わなきゃ行けないことがあるだろ!」
昨日と同様、目の血走ったアレクが飛び出し机をバンと叩いて向かい合った。そしてぞろぞろとアレクの後ろにみんなが腕を組んで顎を上げてくる。
「あれえ?ビリのアレク君じゃん!てめえこそ地にでこ付けて僕に謝罪しろ!!」
「んだとごらあ!テメェこそ神聖な学舎で女の子とイチャコラしてんじゃねえぞ!!」
僕とアレクで取っ組み合いが始まった。僕とアレクは互角の戦いをしたが謎の黒服達に囲まれて動きを封じられた。
「な、なんなん!?」
「「「聖女様、ノータッチ!!!」」」
こいつら、ファンクラブか!そのまま僕はファンクラブと非モテたち(Eクラス)にリンチにされた。少しして床のゴミになっていた僕に1人の女の子が話しかけて来た。
「相変わらず何やってんのレン」
「女子だああああああ!?!!!」
クラスの野郎がツチノコを見つけたかのように叫び出す。
「え、なんでいんの?」
「酷いなー心配して声をかけた女の子にかける言葉かい?だからモテないんだよ」
非モテ達からまた殴られそうだと思ったが今回は見逃してくれるらしい。調子に乗ってだからモテないんだぞー!とかざまあwwとかそーだそーだ!とか言ってるがブーメラン。
差し伸べられた手を取り立ち上がると目の前の女の子を見る。
「フィー…、Aクラスと言ってただろ」
「ははっ、僕の実力じゃEクラスだったよ〜。レンの方はアレクと揉めてだっけ。よっアレク」
「トートもEクラスなのか?意外だな。筆記よかっただろ?お前の実力ならAクラス余裕だろ」
「実技でとちっちゃってね…」
フィース・トートは僕の方をチラッと見るとアレクと話を始めた。
「遅刻遅刻!間に合った?あっ!レンだー」
「「「うおおおおお!!!ゴンザレスうううう!!!!」」」
授業開始2分前に1人教室に入って来て僕の腕を抱きしめにっこり笑う。ひとしきり叫ぶとクラスの野郎どもは泣きながらスタンディングオベーション。
ゴンザレス・アザスター。ゴンザレスと言う厳つい名前の通り、彼は手盾とメイスを武器に戦う魔法戦士。身長155センチ(ゴンザレス調べ)に中性的で、可愛らしい顔付きが男女共に隠しきれてないファンが多い男の子。今期ミスティカルでエレナと並ぶ美少女として有名だ。容姿に似合わない名前だが、本人は気に入っているらしい。最近の悩みは身長がこの2、3年止まっている事。
「今年のEクラスは女子が2人も!!」
「万年、男しか居ないと言われてたEクラスについに美少女が2人」
「この年に産んでくれた両親に感謝!!」
クラスメイト達の興奮はおさまらない。
「なんか僕の時よりゴンの方が盛り上がってない?」
フィーは不満そうな声をあげているがにこにことゴンを撫で回している。
「ちょっとフィースさん!お、俺は男らしさを求めてこの学校に来たんだ!今年こそは可愛いなんて言わせないからね」
キリッとしながらポーズを決めるゴンは美少女にしか見えない。彼はきっとかっこいいと思ってやっているのだろうが。
くっ、僕としたことが。エレナ一筋約10年の僕の心が掻き乱される。なんてやつだ、ゴン。そんな事を思ってるとアレンの血走った目とジトーっとしたフィーの目が向けられ気まずい…。
「お前ら席につけ。時間だ」
「は!?なんで鬼姫!」
「Aクラスじゃないのかよ!」
「ティスちゃんじゃないのかよおおお」
「「「ぐべっ」」」
鬼姫の拳で生徒達が一瞬にして黙る。
「オルコット先生と呼べと何度言ったらわかる。ティス先生はDクラスだ。私はお前達、ばかの面倒を見ることになった。覚悟しておけ」
立ち上がりふざけるなと言いかけた生徒達は鬼姫がすっと構えた拳を見て静かに席に着く。鬼姫は開始3分でEクラスを支配しつつある。
鬼姫から新学期の動き方の説明が始まった。改めて教室を見渡す。アレク、フィー、ゴンは去年も同じクラスで仲が良かったグループメンバーだ。正直他は知らない人達だった。朝から知らんやつに殴られたり蹴られたりしたのか…