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新学期早々

 魔法時代の昨今、魔法学校に入り優秀な成績を収める事は将来を大きく左右する事になる。卒業後の進路に大きく関わってくるからだ。ただ学生という身分で遊びたい者や知識を深める者、力を求める者、良い就職先を求める者と目的は様々。


 その中でもミスティカルはトップ校。様々なところから注目され、将来は国を動かす事になる様な才能を持つ者達が集まっているが、特に魔物討伐に従事する人が多いことから魔物対策の人材教育機関として期待されている。


 魔物は動物の様な獣の姿をしているが根本的に別の生物。いるだけで周囲の魔力を吸収し、穢れを放つ。穢れは草木を枯らし、人体にも嘔吐や発熱、悪化すると死をもたらす。人はもちろん獣より圧倒的に強い。その為、対抗するには穢れと魔力吸収に抵抗できる魔力と素早い動きに対応できる力が必要だった。


 魔物に対抗出来るだけの強さと知識を育て、これからの時代を牽引する若者の為の教育機関、それが魔法学校ミスティカルだ。


 これらのことから血の気が多い志高い生徒ばかりが集まるミスティカルだが、僕がこの学校を選んだ理由はそんなんじゃない。


 好きな子が行くって言ったから


 思春期特有の可愛らしい理由だろう。だけど僕は至って本気だ。その子はバイトとか言っているが、昔から積極的に魔物に向かっていくきらいがある。理由も教えてくれず、『危ないからこっち来ないで家にいて』なんて言ってくる。その子は天才と呼ばれるくらいに強い。特訓と言う名のサンドバッグ要員として10年近く付き合わされているから分かる。ちょー強い。だけど好きな子が危ない所に突っ込んでいく所を黙って見てられるほどダサい男にはなりたくないのだ。


 僕たちは2年生になるにあたりクラス分け試験を受けている最中である。集められた生徒達は教師の指示で各々動き出す。


「これから進級クラス分け試験を行います。事前に渡された組み合わせに従って試合を始めてください!」


 桜が舞い散る中、普段は演習場として開放されているグラウンドでは魔法が飛び交い始めた。筆記試験は昨日で終了し、今日は実技試験。正直、既に疲れているがここは頑張りたい。


 一学年100名、各クラス20人のA〜Eクラスで振り分けられる。クラス分けは筆記と実技の得点が半々。 2つの試験の総合得点順で出席番号が割り振られていく事になるらしい。


 ここはトップ校ミスティカル。倍率50倍もの登竜門を突破したもの達の集いである。つまり、皆腕っぷしが強い。飛び抜けた一部の人以外は学力でクラス分けがされると言っても過言ではない。Eクラスなんかになった日には脳筋、バカのレッテルが貼られる事がお決まりとなっている。


 僕は無論、Aクラスを目指しているので勉強をガチって来た。実技に関しては実力が均衡しているので、いつも通りやれば問題ないだろう。僕には魔力は無いが負けるつもりはない。絶対にぶっ潰す。


 今回の実技試験はトーナメント形式である。つまりこれから学年で1番つえーやつを決める戦いが始まるのだ。オラ、ワクワクすっぞ!


 試合開始まで時間何してようかとフラフラしていると凄い人集りがあった。


「おい、あそこ。聖女様の試合だってよ!」


「わー、いつ見ても本当かわいいよな」


「でも、当たりたくねー」


 さらさらの肩くらいの長さの金髪とサイドのお団子ハーフアップを揺らしながら廊下を歩く美少女。有無を言わせない学年トップの成績とその見た目から学校中の男女どちらからも注目されている学校のスーパーアイドルエレナ・フォルン、僕の幼馴染で好きな人。


「これから試合を開始する。双方指定位置へ」


 審判の教師に促され、コート上のラインにエレナと知らない男子生徒が相対する。


 2人とも腰から杖を取り、構えた。どちらも魔法使いタイプの様だ。


「試合開始!」


審判によって試合が開始される。2人の動きは早かった。


「「身体強化(エンハンス)」」


 2人は同時に身体強化魔法を発動させる。エレナの対戦相手はB君としよう。B君はすぐさま加速アクセルを発動し距離を取った。ここまでは魔法使いの定石。自分の得意な間合いを作りながら攻撃魔法を発動させていく。しかし、B君は魔力を体に纏う防御魔法、アーマーを展開して準備を整えていた。エレナは有名人。戦い方などはある程度知られている。きっとB君は少しでも爪痕を残そうと必死なのだろう。全力で事前に考えていた戦略を実行中なのだろう。


 B君が防御に殆どの魔力を使っている中、対するエレナは杖を向けてポツリと呟いた。


爆破(バースト)


 瞬間、B君渾身の(アーマー)が破壊される音がした。そのままB君は腹を抑えながら膝をつく。エレナは構えをそのままに(チェイン)を発動し地面から複数の鎖が飛び出し、B君を拘束。更には杖を奪う。


「そこまで!勝者、エレナ・フォルン!!」


 エレナはぺこりとお辞儀をするとコートから去る。


「強いのは知ってたけどあそこまで圧倒的なのか…」


「しかも頭もいいんだろ?」


「定期テストでいつも一位だったろ!Aクラス主席は既に決まってる様なもんだよな」


 魔法、取り分け戦闘において確固たる自信と実力を持つ若者が集まるミスティカルの中でも突出した強さ。流石としか言いようがない。


 エレナは聖女様と呼ばれているのはその容姿からだけじゃない。彼女は実家の影響で教会に所属しているのだ。日々人々の生活に寄り添い、治療院、相談所そして魔物討伐を行っている。


 魔物に対抗する組織は幾つかある。その中の一つが教会だ。人を襲い、神が与えた恵みや魔力を穢す神敵として教会は積極的に魔物狩りをしている。


 エレナはバイトとか言って魔物討伐の隊長を務め、その鮮やかな強さと敵を倒し人々の平和に大きく貢献する事からこの1年でそう呼ばれる様になっていった。


「次、レイン・ブレイズ!アレク・サンドロール!」


教師に呼ばれ、ようやくかとコートに移動する。そして同じタイミングで相手もやって来た。赤毛のツンツン頭に目付きが悪く、人相の悪い笑顔を浮かべている青年。


「よー、アレク。ここでお前を倒して僕は上に行かせてもらうよ。大人しくビリ決定戦で頑張れよ」


「ちょっと、レン試合の前に確認したい事がある」


 僕とアレクは入学して早々から悪友として1年間付き合って来た。だが勝ちを譲るつもりはない。僕は挑発してみるがいつもの様に乗ってこない。わざわざこの場で確認したい事とはなんだろうか?こいつとは色々やって来たがいつになく表情が真剣だ。血が出るのではと思うくらい拳を強く握っている。心当たりは…アレクが楽しみにしてたプリンを食べた事か?


 いつも通りくだらない事だろうと様子を見ていると次第に震え出し、クワッと目を見開いて僕を見た。


「お前、朝、女の子と登校してただろ!!」


「は?」


「俺は見たんだ。レンが女の子と並んで歩いているのを!そしてよりによってあのフォルンさんとだ!!」


「「「!?」」」


ギョロッと剥き出しにされた目が一斉に向けられた。先ほど隣でやっていたエレナの試合を見てたやつらだ。いわゆるファンクラブ的な奴ら。他にも僕達の組み合わせを見て面白がって来た元クラスメイト達だけじゃなく、アレクの声が聞こえたであろう範囲の人達みんなが振り向く。隣の試合なんて止まっちゃってるよ…


「嘘だぁあああ!!」


「聖女様がぁあああ!!」


「信じたく無ぃいいい!!」


「成績優秀!才色兼備!金髪巨乳ぅうう!!」


「嘘よ!お姉様を汚すなぁああ!!」


 アレクの言葉によって周りが次々に苦しみだし叫び出し始める。先生もオロオロしながらも生徒達に落ち着きなさいと声をかけるが収まらない。アレクの精神魔法そんなものはないによって試合が滅茶苦茶だ。遂には僕の方へ飛び掛からんとする生徒を急いで集まって来た先生達が取り押さえている始末。


「みんな、落ち着け!!!俺は確認したいんだ。俺が寝ぼけてただけの可能性があるからだ。今日は試験で、張り切ってかなり早く家をでたからな。もう一度聞くぞ、レン。お前は今日フォルンさんと登校して来たか?」


 アレクの声にシンと場が静かになった。そして再び、ギョロッと剥き出しにされた目が一斉に向けられる。


「…」


 目を逸らしてしまった。今日はたまたまだったんだ。いつもは一人なんだよ?


「可愛い幼馴染との登校はさぞ楽しかっただろうな!!」


「「「幼馴染!?」」」


アレクが叫んだ。魂が篭ってた。


「ずっと我慢してたんだ…こそこそ下校も一緒にしてたって事も」


「「「下校まで!?」」」


 アレクがミスティカルに来た理由はモテたかったからと常々言っていた。冗談だと思っていたが、どうやら本気だったたらしい。ミスティカルに入っても女の子と話す事もなく僕と隅っこで過ごしていたくせに。


「許せねえ…許せねえよなぁあ!!!」


「「「ギルティ!!!」」」


 判決が出てたようだ。殺したいほど妬ましい、そんな顔だった。彼等は血涙を流し、血走った目で歯茎剥き出しで歯軋りしながら恨み言を唱える。


 遂に先生達の防波堤が効かないくらいファンクラブが暴れ出す。しかし、暴動は始まらなかった。


「何してんだ」


「げ、鬼姫(おにひめ)


 ドスの効いた女性の声が響く。先生達の顔が晴れ、生徒達はピタッと止まる。そして生徒達は何事もなかった様にサササッと散り、周囲の試合も再開された。


「よー、レインとアレク。流石のお前たちでも進級試験でやらかすとは思って無かったぞ」


 声に似つかわしくない線の細い女性がコートにやって来た。眼光は鋭く、怒りのオーラが視覚化出来るくらい怒っているのが伝わる。


「お前達は、何だかんだ優秀だから期待してたんだがなぁ」


 彼女はラファリア・オルコット。去年の僕達の担任でミスティカル最強の女教諭だ。全ての生徒を黙らせる圧倒的力をもつこの美人は普段の顔と鬼の形相の2つの顔を持つ事から鬼姫と呼ばれている。


「お前達の試験は終了だ」


「え?まだ始まってもないんですが…」


「先生!俺はまだレンを殴ってません!!」


 何もしてないのに突然の終了宣言に驚く僕と殴らなきゃ気が済まないというアレクは次の瞬間、鬼姫の腹パン一発で気絶した。

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