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四条半昇賀の作品

絶対殺すマン

作者: SSの会

 この街にはヒーローが必要だ。鳴り響くパトカーのサイレンの中に女性の悲鳴が聞こえた。

 暗くて汚い路地裏で女が脅されている。男三人に囲まれていて、見るからに絶体絶命だ。

 オレは非常階段の踊り場から一人の男の上に飛び降りた。ゴミだらけの地面に組み伏せる。

 まるでお金持ちの家の暖炉の前にあるクマとかトラの敷物みたいに動かなくなった。

「きゃああああ」

 最初に叫んだのは脅されていたはずの女だ。脅されていた時よりも怖がっているように見える。まあ、助けにきたのが全身タイツにマントを付けた典型的なヒーローじゃないからな。

 ゴーグルを掛け、顔面にタトゥーの入った男が助けにきたからだ。助けにきたヒーローじゃなくて、新手の悪者にしか見えないと思う。

「絶対殺すマン!」

 女はオレを嫌いな呼び方で呼び捨てにして逃げていった。めちゃくちゃ足が速い。一瞬で大通りへ駆け抜けて喧騒の中に消えていった。たぶん、そういう能力者だ。犯罪なんてしなくても暮らしていけそうなタイプで羨ましい。オレもああいうのが良かった。

「おい、今の女はスリの常習犯なんだよ」

「俺たちが捕まえたのに逃がしてるんじゃねえぞ」

 男二人がナイフを取り出して、オレへ怒りをぶつけようとしている。ナイフ男たちに大通りへの道は塞がれた。

 素手では戦いたくないな。なんかポケットに入ってないかな。

 ポケットには何もなかったし、小銭入れをさっきの女に盗まれたことが分かった。

「オレも財布を取られたから、一緒にあの女を追うってことにしようぜ?」

 オレの素敵な提案は蹴られてしまったらしい。ナイフ男たちが殺意を持って、切りかかってくるのが見える。どこに攻撃が来るか分かる。

 そして、オレが避ける意思を見せないと体が勝手に動き、死ぬはずだった運命すら捻じ曲げる。捻じ曲がった死の運命は攻撃した本人か、オレが親しくしている人へ矛先を向ける迷惑な能力だ。使い方によっては炎を出せるとか電気を出せるよりも確実に人が死ぬ。はた迷惑な能力だ。

「オレの能力は未来視だって公言してるだろ! 当たるかよ」

 こんな面倒な能力を未来視と呼ぶのも嫌だけどな。最小限の動きで攻撃を避けたが、ナイフはオレの量販店で買える服だけを切り裂いた。

 大きくお腹が見えてしまった。タトゥーだらけの腹が丸見えになる。

「男の服破いても嬉しくないだろ」

「うるせえ!」

 言い返してきた方の男の腕を取り、そのまま一本背負いを決めてやった。ナイフを奪いとって、残った一人に突き付ける。

「降参です」

 オレがナイフを突き付けた男が武器を手放したので、オレもナイフを落とした。

 ゴーグルを取って、路地から大通りへ出る。当然、さっきの女の姿なんて見つからない。

「助けたのに財布盗むかよ、普通」

 そう、ため息交じりに呟くと、パンッと乾いた音が聞こえた。それと同時にオレは何でもないところで躓いた。音がしたのは今出てきた路地の方だ。振り向くと、銃を構えた暖炉の前の敷物みたいになっていた男がいた。

 オレが躓いたせいで弾丸は逸れたらしい。

「う……うぐぅ」

 呻き声をあげたのは銃を撃った男だ。首のあたりから血が出ている。たぶん、頑丈な何かに銃弾が当たり跳ね返って当たったんだろう。道も混んでいるし出血量も多く、助かりそうにない傷に見えた。

「こういうことが起きるから、オレが絶対殺すマンなんて呼ばれるようになるんだよ」

 路地の方へ歩いていき、さっきの切りかかってきた男たちに話しかける。

「なあ、コイツの名前なんて言うの?」

 死にかけている男を指さして聞いた。

「おい、ガス! ポートガス!」

 オレの問いかけは無視されているが、名前が分かったから小悪党たちに用事はない。

 一応内ポケットに手を入れて財布が無事かを確認し、行きつけのタトゥーショップへ歩み出した。


 * * *


「ポートガスか」

 シャッター街の一角にあるタトゥーショップの前で、今日オレのせいで死んだヤツの名前を呟いた。改めて看板を見ると、店名は掠れて読めない。店長は顔にムカデのタトゥーが入っているからムカデさんと呼んでいる。

 別に親しくはしてない。客と店員の関係のままだ。

「今日はポートガスと入れてくれ……腹の空いてる場所でいい」

 さっき服を切られて丸見えになった場所に入れてもらうことにした。

「はいはい。デザインはボクッチに任せるだろ」

 中世的なムカデさんの指がオレの腹筋をなぞる。無駄な肉が付いていない貧相な体は男にも見えたし、女にも見える。服装はタンクトップというべきか、ブラトップみたいなヤツに革製の体に張り付くようなズボンだ。

 親しい人を作らないようにしているせいか、他人の体温が伝わってくるのは妙に安心した。

 それにタトゥーを入れる痛みはオレに死への恐怖を思い出させてくれる。だから、タトゥーが完成するまでの時間は好きな女を思い出す時間だ。

 オレは死神に恋をした。

 まだ厄介な能力を持っていない頃だ。パンイチのマフィアに殴られていた。

 クソみたいな犯罪まみれの街でオレは違法カジノのディーラーとして生活していた。

 パンイチなのはオレがイカサマで巻き上げたからだ。それがバレてボコボコにされている。

 殴られた場所が悪かったらしい。目の前が暗くなってくる。これが死にかけているってことなのかと思っていたら、目の前に大きな鎌を持った美人が現れた。

 名前も知らないが、今まで見た誰よりも美人だった。

「好きだ」

 そう言っただけだ。

「は、はあ? お前はゲイなのか?」

 殴ってるマフィアの手が止まる。あの美人はオレにしか見えていないらしい。

「吾輩の娘は誰にも渡さん! お前から死を奪って二度と会えないようにしてやる!」

 地の底から響く声が聞こえてきた。

「な、なんだよ、これ!」

 この声はマフィアにも聞こえていたみたいだ。

「またイカサマか、カマ野郎!」

 パンイチのマフィアの拳がオレの顔面に向かってくる。避ける体力なんて残ってなかったから、オレは近づいてくる拳を見つめていた。

 目の前まで迫っていたはずなのに、マフィアの拳が逸れる。ボロボロの建物の壁に当たってめり込んだ。

「くっそ、抜けねえ」

「ざまあみろ、くそマフィア」

 ギリギリ動く体でやったことが中指を立てたことだった。我ながら、バカだったと思う。

 その時だった。マフィアの頭に植木鉢が落ちてピクリとも動かなくなる。

 この時からオレは死ななくなった。死を奪われたというのは本当らしい。

 それからは死ぬためにヒーローとして活動を始めたのだが……オレは死なないし、周りの人間が次々死ぬせいで絶対殺すマンなんて呼ばれるようになってしまった。

 オレには寝る間を惜しんで考えた格好いいヒーローネームがあるんだからな。

 その名も――。

「はい、終わり!」

 壁の落書きみたいなみたいなポップな字体でポートガスと入れられた。

 体にも顔にも入っているタトゥーは殺してしまった人の名前だ。ヒーローの名前もあるし、ヴィランの名前もある。それどころか、ポートガスみたいな普通の名前もある。いや、彼は悪人かもしれない。

 オレが死ねないなら、オレが殺した人の十字架を背負って忘れないように生きるための手段がタトゥーだった。

「あなたってボクッチがタトゥー入れてる時に変な顔してる」

 代金の受け皿をオレの前に置きながら、ムカデさんはそう言った。

「昔を思い出してるだけだ」

「昔の女とか? もしかしてボクッチに似てる」

 そんな訳あるか。オレは財布から少し多めに札を出した。ムカデさんがいつもありがとうと言って、それ以上は何も聞いて来なかった。

「また来る」

 そう言って店を後にする。

 自分の前で人が死ぬのを見るのは気持ちがいいものじゃない。今日みたいな小悪党なら目撃しても見なかったことにしよう。この治安の悪い街のヒーローはオレだけじゃない。

 それに駆け付けたら、悲鳴を上げられたのは今日が初めてじゃないが心にくる。

 タトゥーショップがあったシャッター街から賑やかな大通りに出た。その突き当りにある映画館のスクリーンに人気女優の顔をデカデカと映し出されているのが目に入る。

 テレビのCMでもやっていて気になっていた。ヒーローにも休息は必要だ。

 公開初日だったらしく、映画館は混んでいる。一番後ろの端っこを選んだのに隣にも人が座った。映画館に入ったのにサングラスを掛けている。何かある人なんだろう。この街だと珍しくない。

 映画は期待したほど面白くなかったけど、主役の人気女優の演技はずば抜けていた。役に入りこんでいるというか、その役をするために生まれてきたみたいな演技をしていた。看護師として死ぬかもしれない病に侵されている患者を好きになった役になりきっていた。

 エンドロールが終わり、劇場に明かりが点いた。ほとんどの人が明かりが点く前に出ていったらしく閑散としている。

 オレも映画館から出ようとすると、前の席に座っていた男が立ち上がりながらオレの隣の人に銃を向ける。

「アンタは生きてちゃいけない人間なんだよ」

 なんて言っているが、銃を向けている男はオレの同業者だ。オレとヒーロー人気ランキングの最下位争いをしていて武装探偵と呼ばれている。探偵なんて生優しいものではない金で動く傭兵みたいなヤツだ。

「隣の兄さん……いや、絶対殺すマンか。邪魔するなよ」

 オレは映画館の椅子から立ち上げり、劇場から出ようとする。面倒ごとには首を突っ込みたくない。それに加勢するなら、同じヒーローの武装探偵だ。

「ちょっと、顔にタトゥーが入った人! ヒーローなんでしょ、助けなさいよ」

 聞き覚えのある声だ。ついさっきまで映画で聞いていた声。隣の人の顔を見ると、そこには人気女優が座っていた。本当に面倒くさいことになりそうだ。

「武装探偵、ヴィランにでも金で雇われたか?」

 オレは彼が構える銃の前に立つ。この距離で撃たれてもオレは殺せない。まあ、後ろにいる人気女優には当たると思うが。

「今日のところは見逃してやる。せいぜい短い人生を楽しむんだな。キャロル」

 武装探偵は銃をしまって劇場から出ていった。

「何見てるんだ、見世物じゃねえぞ」

 そう言って人払いしてるのを見ると、全くヒーローに見えない。オレも人のこと言えないけど。それに彼は世間に疎いのかもしれない。

 キャロルはこの映画で彼女が演じた役の名前だ。確か彼女の名前はドリー・クローのはず。

「クローさん。どこに連絡すればいいですか、事務所とか? 警察?」

 そう彼女に話しかけた。

「アタシはキャロルよ。ドリー・クローなんかじゃないわ」

 キャロルと言い張る彼女はサングラスをかけ直して立ち上がる。

「それに警察も事務所もダメなのよ。あの銃を持ったオッサンは事務所が雇ったんだから」

 とんでもない事件に首を突っ込むことになりそうだ。


 * * *


 仕方なくオレの家に連れてきた。四階建ての雑居ビルの最上階だ。眺めは良くない。

 キャロルと名乗る美人はリビングのソファを占領している。

「クロー事務所には、とんでもない秘密がある」

 彼女はなんて言い始めた。

「待て待て、これ以上巻き込むな。知ったらヤバそうな情報を言うな」

 しかしオレの話を聞いていないようで、彼女はとんでもないことを言い出した。

「ドリー・クローは登録されている能力者だけど、能力を偽っている」

 能力者が偽った能力を登録することは犯罪だ。これだけでも大スキャンダルだった。

「不老と登録されているけど実際は違う。彼女は……いや、母さんの能力はクローン」

 週刊誌に売ったら、いくらになるんだろ。でも、突拍子がなさすぎてオカルト系のところしか買ってくれなそう。

「成長が早くて一定の年齢で止まるクローンを生み出して、映画の役の通りに育ててる」

 キャロルは唇を噛みしめる。

「そして映画の撮影が終わったら殺してる。くそみたいな母親よ」

 クローンの殺人って罪になるのか?

 罪になるなら彼女は大量殺人犯だ。能力を不老と偽ってるからドリー・クローは少なくとも五十年くらい前からの映画に出ているはず。その間に出た映画の本数分クローンが死んでる。

「アタシは死にたくなくて逃げ出した。この事実を公表して、姉妹たちの仇をとる」

 彼女の決意は固いようだ。

「絶対殺すマンっていうヒーローなんでしょ。関わった人が絶対死ぬっていう不人気ヒーロー」

 キャロルは札束を取り出した。

「公表するのを手伝って」

 オレはお金で動く訳じゃない。美人に弱い訳じゃない。でも、これを断るのはヒーローじゃないだろ。それに知ってはいけない秘密も知ってしまった。彼女が死んだあとはオレが狙われるかもしれない。

「わかった。手伝おう」

 断る訳がなかった。引き受けた最大の理由はオレが絶対殺すマンと呼ばれるようになってから、ヒーローとしての仕事を頼む人は初めてだったからだ。

「交渉成立ね」

 彼女はニコッっと笑った後に少し疲れたような顔をした。

「はあ、お腹空いた。何か食べる物……何でもいい」

 緊張の糸が切れたみたいだ。

 不人気ヒーローと人気女優が一緒に外に出るのは目立ちすぎるから、ピザのデリバリーを取ることにする。オレだけ買い物に出て、彼女を一人にする訳にもいかない。

 十分ほどで玄関のチャイムが鳴った。いくら何でも早すぎる。オレはカメラ越しに確認すると確かにピザ屋の制服を着ていた。ドアの前に行くとオレの能力が働かないところを見ると、攻撃の意思はないようだ。

 ドアを開けてピザを受け取り金を渡す。その時に配達員の顔を見ると、そこにはオレから小銭入れを盗んだ女だった。

「もしかして絶対殺すマン?」

 そう言った女が少しだけ未来で逃げるのがオレには見える。なんかムカつくので足を引っかけると彼女は派手に転んだ。

「そんだけ足が速いなら、バイク便みたいなことをすればいいだろ」

「うるさいんだよ、不人気ヒーロー!」

 中指を立てられた。脚が速い彼女は一瞬で雑居ビルから出ていく。オレは部屋の窓から外を見ると派手なピザ屋の制服が車をぐんぐん抜かしていくのが見えた。

「ホントに速いな」

「これがピザね。初めて食べるわ」

 キャロルがピザを口に運んでいると、窓が割れてガラスが部屋の中に飛び散るのが見えた。慌てて窓から離れると、ガラスをぶち破り銃を持ち顔を隠した人たちが三人も入ってくる。

「キャロル隠れてろ」

 そう叫んで敵との距離を詰めながら、飛び散ったガラスを拾う。敵がやたら銃を撃つが当たらない。チンピラより下手かもしれない。

 オレは拾ったガラスを投げつける。一人が怯んだ隙に足払い。残り二人がオレと転んだ一人に向かって連射してきた。もちろんオレには当たらず、弾切れになる。

 残り二人が殴りかかってきたが、まるで子供のケンカみたいな殴り方だった。なんか違和感がある。戦い慣れてるオレにとっては赤子の手をひねるようだった。

 多少手荒れだったかもしれないが、二人を動けなくした。

「キャロル生きてるか」

「生きてる」

 キャロルの無事を確認できたので、敵の身元を確認し始める。そこにはキャロルと同じ顔があった。動けなくした二人は痛いのか呻き声を上げている。オレが思いきり蹴ったから痛そうだよな。

 オレが足払いしたのは流れ弾に当たって死んでいる。

「これを警察に連絡すれば、キャロルの頼みを解決できそうだな」

 電話に手を伸ばす。

「絶対殺すマン、コイツらはドリー・クローのクローンで一日しか命がない戦闘用クローン」

 キャロルが叫びながら玄関の方へ走り出した。オレはクローンたちが爆発するのがわかる。

「早く逃げろ。オレは死なねえ!」

 彼女に追いつくとキャロルを抱えて、階段を落ちるように駆け下りる。能力がまだ危ないと知らせてくるので、二階の踊り場の窓をぶち破って飛び降りた。

 オレがキャロルの下敷きになって窓の下に停まっていた車に落ちた。久しぶりに怪我をしたかもしれない。


 その瞬間雑居ビルの四階がまるまる吹き飛ぶような爆発が起こる。オレの家が吹き飛んだ。

「キャロル、怪我はないか」

 そう聞いてから自分の上にいるのが超絶人気女優と同じ顔だと思い出した。オレが好きな人は、あの日見た死神だ。それでも目の前の美人には目を奪われる。

「アタシが美人だからって、見惚れないでよ」

 彼女に怪我はないようでオレの体の上から降りた。

「それに早く逃げないと、ただでさえ目立つのに」

 彼女の言う通りだが背中が痛い。何とか車の屋根から降りるが、壁に寄りかからないと立てない。

 ヒーローになって初めてかもしれない。ここまでダメージを受けたのは。誰かを守ろうとしたのも今回が初めてのような気がする。基本的に大規模火災とかの救助関係の仕事には呼ばれないから。

「え、オレは死なねえとか言ってなかった? 体、大丈夫なの?」

「とりあえず、逃げるぞ」

 体を汚い壁に擦り付けながら路地を歩く。

「どこに行くの?」

 オレの後ろを歩いているキャロルが聞いてくる。

「病院……マスクとかも置いてるはずだから、顔も隠せるだろ」

 服の裾を掴まれた。

「アタシ病院行きたくない……」

 クローンが病院に行ったら問題になるとか思ってるんだろうか。

「大丈夫だ。オレの怪我を見てもらうだけ」

 路地を通ってネオンとかがない大人しい通りに出た。看板の電球が切れている病院のドアを叩く。

「オレだ……レッドラインだ」

 ヒーローとして登録している名前を言うが反応はない。嫌々あの名前を言う。

「絶対殺すマンだ」

 すぐにドアが開いた。

「久しぶりだな。女を連れてくるとかラブホと間違えてるんじゃないのか」

 ヒーローだろうがヴィランだろうが、誰でも治療する医者だ。

「間違えてねえよ。オレの家が吹っ飛ばされた時に怪我をしたから来た」

 医者もオレの後ろに立っている女性が人気女優だと気が付き、目立つから入れと言われた。

「怪我人連れてくることはあったが、お前の怪我を診るのは初めてだ」

 確かに彼の言う通りだ。

「折れてないな。ヒビが入ってるだけだろ。痛み止め出してやるから早く行け。解決してからもう一度診察してやる」

 ヤバいことを抱えてるのも伝わっているようだ。

「お前の家みたいに爆破されたくないからな」

 オレは痛み止めを飲み込んで待合室に戻るとキャロルはソファで横になっていた。眠っているようだ。

「なあ、出ていくの遅れてもいいか?」

「仕方ねえな。なるべく早くな」

 オレも待合室のソファに座り、痛み止めが効くのを待つ。

 座ったらオレも眠くなってきた。瞼が重力に負けて閉じていく。

「おーい、レッドライン。先生がコーヒー入れてくれた」

 目を開けると、キャロルがコーヒーを持っていた。コーヒーを受け取って一口飲んだ。

「えっ、今、レッドラインって呼んだか?」

「命の恩人を絶対殺すマンなんて呼び続けるのも変じゃない」

 コーヒーカップを両手で持ち、啜るようにコーヒーを飲むキャロル。改めて彼女の依頼を解決しようと思った。

 オレはコーヒーを飲み干して軽く体を動かす。

「じゃあ、暴露しにいくぞキャロル」

「どうやるの?」

「映画館のデカいスクリーンを乗っ取って君が真実を話す」

 良くも悪くも話題にはなるはずだ。まあ、権力とかないヒーローだからできること少ないんだよ。

 オレのスマホでキャロルがドリー・クローの秘密を話す動画を撮った。

 病院を出て大通りに出た。まだ早朝だから人が少ないと思っていたが、人が一人も歩いていない。メインの大通りなのにオレとキャロルしかいない。

 何かが可笑しい。

 そう思っていると五台のトラックが大通りを走ってくる。トラックの運転手は全員キャロルと同じ顔だった。

 人気女優の権力は半端じゃない。もしかしなくても、オレとキャロルを始末するためだけに街のメインストリートを貸し切ったのか。

 オレが彼女を救えるんだろうか。突っ込んでくるトラックから逃げることはできるが、止める能力はない。

「キャロルは映画館の中に入って、レジの奥にあるスタッフルームに入るんだ。オレのスマホを持っていけ」

「わ、わかった。死なないでよ」

 オレを心配するようなこと言うなよな……。

 能力の厄介なところが出てしまう。天涯孤独とは言わないが、一人じゃないとダメなんだ。この戦いでオレが死にかけるような攻撃をされたら、相手じゃなくてキャロルが死ぬかもしれない。

「オレは死なないからな……オレはな」

 トラックが突っ込んでくるかと思ったら、目の前で止まった。荷台のコンテナ部分が開き、たくさんの美人が乗っているのが見える。

 オレの家に乗り込んだ時みたいな雑魚なら問題ない。それに相手が爆発するクローンなら罪悪感も少しは減ると思う。

「私たちの秘密を黙っておくべき。姉妹を返しなさい」

 声を揃えて全員が喋る。トラック一台に二十人くらい乗ってるから百人か?

「あの三人は教育不足だった。私たちも同じように倒せると思うなよ」

 銃なんて使わずに彼女たちは攻撃してきた。訓練された者の動きだった。全員が格闘家みたいな動きをしている。

 オレに攻撃が当たることはないがキリがない。倒しても倒しても次がいる。爆発するかもしれないと思っているが、さっきから爆発はしない。

「全員で抑え込め! 敵は一人だ」

 美女が飛び掛かってくるが全然嬉しくない!

 それに彼女たちの他にオレへ攻撃してくるのが分かった。攻撃範囲とオレが巻き込まれるまでの時間を考えると、ビームか何かを撃てるヒーローの援軍かもしれない。とりあえず映画館の中へ向かって走る。

 しかし、映画館の自動ドアが開くより先にオレは吹き飛ばされた。自動ドアのガラスをぶち破って映画館の中へ入ったのは初めてだ。それに衝撃波が来たからビームじゃない。

 何が来たんだ。

「他のヒーローか?」

「映画の撮影だと言ってあるから多少派手なことしても大丈夫だ」

 クローンも混乱しているみたいだ。レジの奥からキャロルが顔を出した。

「ピザを頼んだ。超特急便っていうオプション付きで」

 何を言ってるんだ? そんなオプション知らないぞ。

「お待たせしました。ご注文のピザですよ」

 映画館の入口から入ってきたのは、めちゃくちゃ足が速いあの女の子だった。レジのカウンターにピザの箱を置く。

「え、なに、なんでドリー・クローがたくさんいるの?」

 やっと異変に気が付いたらしい。走ってきた時に気が付けよ。

「やけに道路に車がいないし、ホントどうなって……ひっ、絶対殺すマン!」

 衝撃波で人をぶっ飛ばしたくせに今さら驚くな。

「ビザ屋さん、もう一つお願いがあるの」

 レジの方でキャロルが話している間にクローンたちが映画館の中へ雪崩れ込んでくる。これを止める力はオレにない。少しでも時間稼ぎ出来ればと思い、オレはクローンの雪崩の前に立ちふさがるが数人止めるだけで精いっぱいだ。

「オッケー、この動画をマスコミに届ければいいんだね」

 足が速い彼女はレジの前でクラウチングスタートをする。

「レッドライン! 彼女が映画館から出られるように手伝って」

「絶対殺すマンのホントのヒーローネーム初めて知った。行くよ」

 アホみたいな初速だった。彼女がオレの目の前に来た後にレジカウンターが割れた音がした気がする。こんな速度で体当たりされたら、絶対に死ぬ。

 もちろんオレの能力が発動し、回避方法を教えてくれた。オレは手を組んで彼女を打ち上げる。細身の女の子なはずなのにオレの腕が折れそうな衝撃が加わった。

「あとは任せた!」

 クローンたちを飛び越したところまでは見えた。たぶん大丈夫だろう。あれに追いつけるのは、ほとんどいないだろう。

「キャー」

 と甲高い悲鳴が聞こえた。あの女の子の声、クローンに止められたみたいだ。

「本物のドリー・クローからサイン貰った」

 そんな声が聞こえてきた。それと同時にクローンたちが道を開ける。見えたのは捕まっている足の速い女の子が、サインを貰って喜んでいる。

 サインで捕まってやがる。

「ごめんね、私は本物じゃないの。ただの運転手よ」

「高そうな車から降りてきたから本物だと思ったのに」

 トラックの他に高そうな車が停まっていた。運転手と名乗ったクローンがドアを開けると、降りてきたのは上品そうな老女だった。

「私が本物よ。女優として活動して五十年……もうお婆ちゃんなのよ」

 腰は曲がり杖なしでは満足に歩けそうにない。今にも死にそうな感じだ。キャロルの姿だったのは何年前だったんだ。

「まだバレる訳にはいかないのよ。交換条件で黙っておいてくださる?」

 正義感が溢れる人が死ぬのは嫌だ。

「キャロルを殺さないでくれ。それでいい」

 老人のドリー・クローは自分の腕時計を見る。

「間に合うかしら。私のクローンの寿命は基本的には短いの」

 オレはレジの奥へ走る。キャロルは床に倒れていた。寿命が来たのか、それともあの足が速い女の子を打ち上げた時にした行動が自分の意志ではない行動じゃなかったのか。

 オレが攻撃を避けることを放棄したから親しい人が死ぬ。そんなクソみたいな能力が発動したのかもしれない。

「おい、キャロル!」

 彼女を揺さぶると目を開けた。良かった生きてた。

「ピザ屋さんが走った衝撃で頭をぶつけたみたい」

 と、頭をさすりながら彼女は笑った。だけど、顔が青白かった。ホントに寿命が近づいているのかもしれない。

「私の可愛いキャロル」

 老人のドリー・クローがオレとキャロルの近くに立っている。

「せめて人並みの寿命をあげることはできるのよ。もっと生きたいと思える?」

 子供に話しかけるようにキャロルと目線を合わせた。

「ええ、もちろんよ。この街は面白いことばかりなの」

 老人のドリーがキャロルの額に触れる。鈍い光を放った後にキャロルの顔が生気に満ちていく。

「戸籍も作ってあげるわ。あなただけの人生を歩みなさい」

 今回の騒動はこれで収まった。ネットニュースのトップに出たのは『絶対殺すマン、ドリー・クロー脚本監督の映画に出演!』だった。大通りと映画館でやった大立ち回りは全部映画の撮影ということになっている。

 ちなみに人気ランキングは少しだけ上がった。

「この前は災難だったな。絶対殺すマン」

「ああ、人気は上がったけど」

 たまたま入ったラーメン屋で武装探偵と出会った。勝手に同じテーブルに座ってきて鬱陶しい。

「あのキャロルとかいうお姉ちゃんは何してるんだ?」

「あの病院あるだろ、誰で診てくれるところ。あそこで働いてる。出た映画が看護師ものだったから医療の知識あるんだって」

 怪我したらあの病院へ行くか。なんて武装探偵は笑っていた。

「オレもそうする」



(終)

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

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作者:四条半昇賀

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