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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

睡眠不足 ーTNstory

作者: 伊原みい

「あー、やっと昼めしだ」

俺は、お弁当が並んだテーブルの近くに腰を下ろした。今日は朝から忙しい。いつもなら不平不満が口をついているところだが、今回の仕事の救いは、メンバーがよく知った、仲の良い面々だというところにある。おのおのが考えていることがわかるからか、打ち合わせは短時間で済んでスムーズな上に、全員モチベーションも高く、久しぶりに密度の濃い良い仕事ができているという充実感がある。


とはいっても長時間の仕事は疲れることには変わりはない。しかも、とにかく時間に追い立てられている。昼食さえ、とれる時間が長くはとれなかった。テーブルを囲んだメンバーが「俺これ。好きなやつ」「これ食べたことないけどおいしい?」とあれこれ言いながらお弁当に手を伸ばす。俺は短時間で食べられるようにと麺をチョイスした。まあ、ただ麺類が好きなだけだ。


急いで麺を啜っていると、

「なあ。今日、ネオと会ったか?」

頭上から声が聞こえて顔を上げると、弁当を手にしたオーがいた。

「いや。会ってないよ」と答えつつ、さらに麺を口に入れた。

「そうか……」

オーが言い淀んだのがわかって、俺も手をとめてオーの顔を見つめた。なんだ? 何かあったのか? それとも、みんなの前では言いにくいことか? しばらく見つめ合ったあと、オーはため息をついた。


「なんでもないよ。ただ、昨日も帰りかなり遅かったらしいって聞いたから。今日もネオは早朝からなんだろ? 仕事。ほとんど寝れてないだろうし、大丈夫かな、と思って。お前に聞くことじゃないだろうけど」

ようは、鈍感な俺がちゃんと気遣っているのかってことか。


「そういえば、たまたま昨日、夜遅くに会社でネオ先輩に会いましたよ。後輩の俺には何も言いませんでしたけど」

そう言われて、隣に座る後輩に昨夜のネオの様子を聞こうかと思ったが、そこは先輩としての俺を優先させた。

「お前もかなり忙しいだろうが! お前も日付変わるまで仕事してたんだろ? 自分の体の心配をしろ」

「あはは。ばれました? 気をつけますよ〜」

そう後輩とは笑いあった。ネオにもこれくらい気軽に言えたらいいのに。今日は確か、夕方からネオもこの仕事に合流はず。少しでも様子が見られるといいが、と思いながら、急いで麺を啜った。


夕方というより、空が真っ暗になった夜といってもいい時間、部屋の扉が開いた。

「お疲れさまー」と言って入ってきたネオの姿に、びっくりした。全身、ずぶ濡れだったから。

周りのスタッフが慌てて渡すタオルを受け取り、頭を拭きながら、「着替えるよ」と話している。

「お前どうした?」 オーが声をかけるのがみえた。俺はただ見ているだけだ。

「雨が降ってきたんだけど、時間がなかったからバイクに乗ってきたんだよ。渋滞してて遅れるのいただったし。すぐ着替えるから大丈夫」

そういって別の部屋に消えた。オーと目があった。が、何も言われなかった。


ああ、オーは俺の態度が不満なんだろ。じゃあ、どうしろと言うんだ。ネオが心配だし、つらいことは代わってやりたいし、雨に濡れてほしくもないし、なんならちゃんと寝てほしい。でも、あいつは自分の好きな仕事を全力でしていて、おまけに人に頼るのが好きじゃない。基本、ネオは自分のことは話さないし! 俺が声をかけて喜ぶのか、うっとうしく思うのかも想像がつかない。まじで正解がわからない。なんなら、拉致して家で寝かせたいよ。


うだうだと考えているうちに、着替えたネオが仕事に合流したのがわかった。ひとまずは、仕事を終わらせないと。そう思って、俺も仕事モードに頭を切り替えた。


仕事をしながら横にいて気づいたことがある。ネオ本人はいつも通り振る舞っているし、周りから見て仕事ぶりは問題ない。真剣な表情もあいつらしいし、仕事に集中しているように見える。ただ、おそらく……かなり体調が悪い。疲れがたまっているのか。眠いのか。よく見るといつもよりほんの少し判断が遅い。ふと心ここにあらずというような“無”の時間がある。ふと見せるその違和感、そのことに気づいているのは、俺と、昔から一緒にいるオーを含めた数人のメンバーだけだろう。


仕事には問題がないから何も言えないが、休憩時間にはさりげなく椅子に誘導し、こまめに好きなお菓子を勧めたり……うん。俺のやっていることは些細すぎる。俺にできることがこれくらいしかないというところが情けない。ネオの忙しさは俺にはどうにもできない。本人が好きな仕事をやっている。俺にはどうしょうもない。けれど。ただ、好きな人がつらそうにしているという状況に耐えられそうにない。俺が、わがままなだけ。



もやもやとした気持ちを抱えながらも、やっと仕事が終わった。しかしネオはまだ仕事が残っているという。すでに23時近い。これからさらに仕事? 

俺はとっさにネオの背後から肩をつかんだ。

「なあ、本当に大丈夫か?」

振り返ったネオと、今日、初めてしっかりと目があった。

その時、ネオの目がふわっと色をかえ、感情が宿ったのがわかった。

「ああ。なるべく早く終わらせて帰るよ」

そう言って、ネオはいってしまった。俺の気持ちは通じたのか通じてないのか。


結局俺は家に帰っても眠れずに、ぼんやりとスマホをいじりながら今日のことを考えていた。ネオのあのようす、さすがにそろそろ限界じゃないのか。ただただ心配する気持ちが募っていく。スマホを見ると、仕事スタッフのInstagramにネオが写っているのに気づいた。Storiesには、眠そうなネオとともに「仕事終了〜」の文字。時間は0時42分。


俺は自分のInstagram Storiesに、ゆっくり寝れますように、そうメッセージをあげた。誰にもメンションしなかった。ネオは俺のメッセージが自分宛なんて気づかないだろう。それでも。ただ、ネオがゆっくり寝れて、少しの睡眠でも疲れがとれますように。明日の早朝起きたとき、体力も体調も回復していますように。そう願いを込めて。

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