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「いかないで」と全力で引きとめられるまで転校できません  作者: 嵯峨野広秋


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青天の霹靂

 うっぷんを()らしたかった。 

 だからここにきたんだ。

 前回のループで翔華(しょうか)とデートしたバッティングセンターに。

 えらんだ球速(きゅうそく)は、もちろん130キロ。


 そして、


「やった!」


 何球目かのあとで、ようやくボールが前に飛んだ。あの日、あざやかに打った彼女のフォームをおぼえていたからかもしれない。

 こうなると、コツをつかめたも同然(どうぜん)

 しだいにゴロじゃなく、フライも打てるようになって、


「…………まじか」


 おっめでとうございまぁ~す! とまわりのみんなにきこえるようにハデな場内アナウンスが入る。

 ホームラン。

 なんか、急にハズかしくなってきた。

 バットを置いて、逃げるようにバッターボックスから出た。


 おれの目の前には――ぱちぱちぱち――と小さな拍手でむかえてくれる、



「やるじゃん、(むかう)



 飯間(いいま)翔華がいた……らいいな、っていう妄想をしてしまう。

 現実は、おれとソエンな、たんなるクラスメイトにすぎないのに。

 どうして、あの子を思い出すような場所に来てしまったんだろう。


(でもスカッとしたな)


 そのあと、映画館にいく。

 なんとなく気になったヤツをえらんで、座席にすわった。



「上映前の、このワクワクする感じが大好きなの」



 いつか(さくら)はそんなことを言ってたっけ。おれとのデートのときに。

 あの子のウィンクは今でも目に焼きついている。かわいかったから。


 館内が暗くなり……二時間後……また明るくなる。


(まあまあだった)


 そうだねー、と彼女だったら同意してくれそうだ。


 せっかく(まち)まで出たんだから、次は本屋に行こう。  


 基本、ループはかなりタイクツなんだ。流れてくるネットニュースは同じだし、当然テレビもそう、毎日ずっと知ってることばかりが起こりつづける。


 そんな中、つよい味方は本。

 読書すること、これが新鮮なんだ。

 おれは読むのがおそいほうだから、だいたい一ヶ月に3冊もあればじゅうぶん。それだけ、おこづかいで買っておけばいい。


 今日は三連休の最終日。体育の日。

 明日からテスト――なのに、おれは外出をして楽しんできた。



「へー、ずいぶん余裕あるじゃんか。勉強もせずに遊びにいってたなんて」



 ふらっとコンビニによると萌愛(もあ)がいた。

 ナマイキにも――というとこいつはおこるだろうが――大人の女性向けのファッション雑誌を読んでいる。


「そっちは家でずっと勉強してたのか?」

「当たり前でしょ。私、頭そんなよくないんだから」

「モア、おれの(なや)み、きいてくれよ」

「はぁ~⁉ とつぜん何いってんの?」


 と、イヤそうな顔になるも、萌愛は立ち読みしてた本をおいておれについてきてくれた。

 ならんで歩きながら、


「これ、いるか?」


 ホームランの景品でもらった〈うまい棒〉を萌愛にみせた。

 しゃっ、とネコみたいなすばやさでうばいとられる。


「レア(あじ)じゃん……」

飯間(いいま)さんに、もらったんだよ」

「飯間さんて同じクラスのあの飯間さん? まーたウソばっかいって」


 と言いながら、もう袋をあけていた。

 ぱくっ、と一口かじる。かじって、そんなに長くない髪を耳にかきあげた。


「で、悩みは?」

「たとえば誰かを好きになって……」

「まさかの恋愛相談っ⁉」

「きいてくれ。それでな、その子の意外な一面をみてしまうんだよ。ちょっとコワい部分を」


 萌愛は考え事をするように、上を見上げた。おれもつられてそっちを見た。

 夕方の赤い色と、夜の青い色が半分半分みたいな空。


「もうちょい具体的におしえなさいよ。どうせそれアオイのことなんでしょ?」


 そうだよ、とおれは否定しない。したって、もう意味がない。


「なんかされたわけ?」

「いや、まあ、ジェラシーやシットされたっていうか……いきすぎたヤキモチというか……」

「コウちゃん、そういうの女の子だったら誰だってあるから。この私だって―――」


 ん?

 時間停止……か?

 お菓子を食べている萌愛が、そのままうごかなくなった。

 歩きながらだったから、足まで止まっている。


「途中でやめるなよ。おまえもあるのか? そういう感情が」

「……べつに」


 その返事からあとは、あからさまに無口になった。早歩きにもなった。

 こうなると、なんだか質問をムシかえしにくい。

「じゃね」と小声でいって家に入っていく萌愛を見送ると、おれも帰宅した。


(あんま考えすぎないほうがいいのかな……)


 しかし〈告白〉にはこたえないといけない。

 保留したままなのは、彼女にわるいだろう。


 その翌日、翌々日は中間テストで、

 次の日の昼休み。


 おれのとなりに、となりにふさわしくない人間がいる。



「押しだまらない。もっと軽快なトークで私を楽しませなさい」



 ぶおん、と遠心力で髪の毛をふっておれのほうを見る深森(ふかもり)さん。

 あの日から、彼女はずっとポニーテールだ。


「あえてきたない言葉をつかうけど、私をオトす気できて。ラテンのノリで(ねつ)っぽくクドくのよ」

「そうは言ってもさ……」

「あなた、ループを終わらせたくないの?」


 教室の外。

 カーテン全開なのを確認した上で、さっき深森さんが「出ましょう」と言った。

 非常階段につながっている、どういう名称なのかよくわからない場所。ベランダ……で合ってるんだろうか。そこから運動場をながめるように――教室には後ろ姿を向けて――おれたちは横ならびで立っている。


「きょ、今日もとても、めちゃくちゃかわいいね」

「もし私よりもスーパーかわいい子があらわれたら、そっちを好きになるっていう意味?」

「ならないよ。おれには深森さんだけだから」

「……」


 再度、ポニーテールを横方向にふった。

 後頭部しか見えなくなって表情は不明。


(んー、あとはどんな話題が……あっ!)


 思い出した。あれ。小原(おはら)さんと映画みにいったときのこと。


「あ、あの」

「つづけなさい」すっ、と顔の向きがもどっておれと目が合う。いつもと変わらないポーカーフェイス。

「2週間前の土曜日……映画みてた?」


 がっ、と片手で肩をつかまれた。


「どっ、どうしてあなた、それをししし知ってるのっ!!!???」

「いや、そんなにおどろかなくても。偶然、うしろの席にいただけだから」

「あれは中学生の男の子が興味をもつような映画じゃないでしょ!」

「終わったあとに、ハンカチで目元を――」

「あーあー! だまってっ!」


 つかんでいた手をはなしてバイバイのようにふる。

 ふと、教室に目線がうつった。

 おわっ⁉

 ほぼクラスメイトの全員が、こっちをガン見してる!


「別所くん。その記憶はただちに全消去で。いい?」

「お、おーけー……」

「そしてすでにタネはまいた。このメは、明日の朝に出るでしょう」

「えっ?」

「いつもより一時間はやく登校。さもないと世話を焼くのもこれにて終了」


 ラップみたくインをふんで、深森さんは非常階段へ歩いていった。

 い、一時間もはやく家を出る……のか?

 しょうがない。今日ははやめに寝るか。



 ―――翌朝。



「昨日のあの行動によって、かならず二枚目の〈脅迫状(きょうはくじょう)〉がとどくはず」 


 メガネの横に指先をあてながら、深森さんは言った。


「犯行現場をおさえられたら、彼女も言い(のが)れのしようがない。そのあとどうなるかは――」


 あなたしだいね、と指をピストルにする。

 おれはフクザツだった。

 だって、こんなことをしたら、江口(えぐち)さんがキズつくんじゃないか?

 たしかに「近づくな」とか書いてオドすのはよくないことだけど……。

 告白を保留しつづけてるおれにも、責任はあるような気がするんだ。

 でも今さら中止にしてくれとも言えない。

 

(あとはおれしだい……か)


 待つこと40分から50分。

 とうとうそのときはやってきた。

 思わず何か口走りそうになったおれのくちびるに向かって、深森さんが人差し指をタテにする。「しっ!」


(こんなに思いどおりになるなんて)


 おそるべし、すぎ。

 あらかじめ靴箱の位置はカドの一番下よ、と彼女はおれに教えてくれていた。

 そこにしゃがみこんでいる人影。

 むろんセーラー服の女子だ。


「もう。バレるからそんなに身を乗りださないで」

「ごめん」


 靴箱に近い大きな柱のカゲに、おれたちはいる。

 ここなら、ばっちり江口さんのことが―――



「あの……二人でなにしてるの?」


「えっ?」「えっ!!??」



 おれと深森さんがほとんど同時に声をあげた。

 おれはともかく、彼女がこんなにきょとんとした表情になるのはめずらしい。

 反応も、カミナリが落ちたときと似ていた。

 とっさに抱きつくようなそぶりを見せたが、せいいっぱいのブレーキでおれに伸ばしかけた両手をピタッととめたのがわかった。


 ゆっくり二人でふりかえると、



「?」



 無言で首をかしげる――――江口さんがいた。

 まじで江口さんか? とおれは必要以上にじろじろ見てしまう。エンリョもなく、顔、胸、腰、足と。


 首をターン。


 あっちにも、いる。


 靴箱にモノを入れ終わったのか、しゃがんでいた姿勢から立ち上がったところだ。


「おーっ、おはよー!」

「………………おは」


 からっとした萌愛の声が、あたりにひびいた。

 そして、いま返事をしたのが、おれたちがずーっと江口さんだと思いこんでいた人物。


「どうかした? なんかきょろきょろしてる?」

「べつに、べっしょ。それはモアちぃの未来のダンナさんの名前」

「もー、朝からくだらない冗談はやめてよー! ヤッちゃん!」


 ぱしん、とスナップをきかせた手で肩をたたいた。

 あいつの親友の山中(やまなか)小柄(こがら)な体を。

 

「未来といえばね、ヤッちゃん。私……いっこ知ってるんだよ、この先の世界のこと」

「ほう?」

「今から一年後、戦争がはじまっちゃうの」

「それは悲しいお知らせ」

「ねっ。私もさぁ、なんとかならないかな~って思うんだけど―――」


 ギリギリ会話がきこえる距離。

 萌愛は、すぐうしろでおれが盗み聞きしていることに、気づいていない。


「ちな、どこ?」


 山中の問いかけに、萌愛は即答した。


 それが耳に入った瞬間、

 ぴりっ、とおれの体に小さなカミナリが落ちた。


(おいおい……)


 あいつは冗談でこんなことをいうヤツじゃないと思っていたが。

 いいや、冗談にしてもタチがわるすぎる。


(萌愛。おまえも行き先ぐらい知ってるはずだろ?)


 その戦争になるっていう国は、おれの転校先なんだぞ。


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