八話、放課後の体育館倉庫
◆◇◆
その夜。部屋でちゃぶ台を囲いながら夕食を食べていた。
「……明日は決闘か……」
ドレッドは空になった茶碗をアリエスに差し出す。
割烹着と白頭巾を纏ったアリエスはご飯を並みに盛ると渡した。
「……アリエス」
「? はい」
キョトンと、けれども表情は無のまま首を傾げるアリエス。
「味噌汁、おいしいよ」
「…………」
無言で無表情なアリエス。
――――無言で味噌汁を多めに注いできた。
「…………(なんだこの可愛い生物)」
ドレッドは味噌汁をおいしくいただきました。
「(……いや、決闘の件。一切解決してないな)」
そして夜が明ける……フェイヴァリットウェポンが裂かれて死んだとかそんなオチは無かった。
◆◇◆
翌日。第一訓練場。ドレッドが時間通りにきたらなんかカルクスが既にいた。
「よぉー、待ってたぜ無能(ふざけるな……本当ならその場所はオレがいるはずだったのに……あの雌が!!)」
「(魔法使ってないのに 思念ここまで届くの……!?)」
思念むき出しのホモクス、それを前にアリエスはそっとドレッドの背中に隠れて服をぎゅっと握った。
「? どうしたの、アリエス」
「…………したくなった だけです(命の危険的な意味で)」
自分の守護者を見定めて抱き着く。それは極めて自然な行動だろう。
なのでアリエスは自分が無意識に『自分を守ってくれる雄』としてドレッドを認識してることに、微塵も気付いてなかった。
「ドレッド先輩の……服を……」
心無しか視線に宿る殺意が三割増しになった。
「じゃーやろうか? ドレッドせん、ぱぁい?」
「見たところ観客がいないようだな。
お前のことだから〝証人が必要だ〟などと言って人を呼ぶと思ったが……ふむ」
「はっ、お前(が嘘なんて言う人じゃないって分かってるから……オレは)。証人なんざ必要かぁ? ええ? おいww」
心の声が聞こえてる分、顔面蒼白なアリエス。ホモクスを前にたまげるしかなかった。
「この子が怯える、(俺への)殺意の混じった視線は控えろ。
この子が可愛いというのは俺とて分かる、だがその上でその視線はあまりに露骨ではないか、カルクス卿」
何なら一番視線を向けられてるののお前の尻だぞとツッコミを入れてはいけない。
アリエスも我慢した、偉い。
「~~~~!!!!(オレは、オレが振り向いてほしいのは……!! なんで、なんで伝わんねぇんだよ……糞が)」
ムカついたのだろう、ファイアーボールを放つカルクス。しかしその火の玉はドレッドに届く前に消えた。
「……無意識にファイアボールは」
「うるせえええええええ!!」
飛び掛かるカルクス。それを以て決闘の開始のコングが鳴った。
「アリエス、ここから20メートルは離れておいて」
「…………」(コクリ)
アリエスは無言で頷くとタッタッタッと、離れていく。
「ぐああああああああああ!!!! なんだそのやり取りはああああああああああああああああああ!!!」
それを見てカルクスは爆発した。指示されるのがマジで羨ましかったのだろう、嫉妬の炎が爆発した。
「はあ、はあ、はあ……少しはやるじゃねえか」
「少しもやってないんだが!?」
「これが99位、ドレッド・クォーターの力か……ふむ、この第5位の実力を以てしても何をしているか分からなかった」
「何もしてないからね!? というか誰!?」
息を切らしているカルクス、勝敗は既に決したようだった。
「はっ、オレの……負け、か」
「勝手に負けるな」
「ドレッド・クォーター・クォーター……なるほど、風が吹いてきた」
「勝手に風吹かすな、つか誰なんだ本当に」
ともあれ、決闘はドレッドの勝利に終わった。カルクスのホモ計画は失敗に終わる。
「(……決闘 なら 何か演出 でもしましょう。
データベースには 愛しい人が勝った暁に 花嫁のキスが 必要と書いてありました)」
決闘が終わり、安全確認を済ませたアリエスが、ドレッドの元にとことこ歩く――――ほっぺにキスをした。
「!?!?!?」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「カルクスが更に爆発を!?!?」
「決闘に負けた相手に追い打ちとは……これがドレッド・クォーター……!」
「冤罪なんだが!?!?」
爆発するカルクス。ドン引きされるドレッド。冤罪を訴える罪人。その中でアリエスはトコトコと、カルクスの方へ向かった。
「アリエス?」
「どうして、どうしてどうぢでっ!!」
進んだ先で、泣きながら地べたを殴るカルクス。ホモ寝とられは辛い。
「――――それは……貴方のしたことを見れば、分かりますよ」
アリエスの言葉に頭を上げるカルクス。その瞳は憎悪と殺意に塗れていた。
「あなたがしたことは
出会い頭に挨拶ファイアーボール
返事すれば照れファイアーボール
反抗すればツンデレイアーボール」
「ツンデレイアーボール……!?」
「ごめんなさい 最後の無し」
そう、カルクスはこれまで……その拗らせたツンデレでファイアボールしかしてこなかった。
被害総額は馬鹿にならない値段であり――――好かれる要素が微塵も無いのだ、カルクスは。
「それにあなたの心の声を聞けば 分かります。
あなたは 相手の意思が自分の都合にあうように動くと信じ切ってる。
自分に振り向いてくれるはずだ、あの女から取り戻してやる、これは俺が履いていた短パンニーソ…………
――――あの人を 人形か何かと勘違いしている」
「(これは俺が履いていた短パンニーソ……?)」
ドレッドの自由意思、というモノを微塵も斟酌していない。それに対して強烈な怒気を宿るアリエスの瞳。
そしてその瞳はそのまま、蔑みの眼へと変わり――――
「そんな奴が、 好かれるわけがないでしょう
常識的に考えて」
ある種の御褒美としか思えないレベルの見下した瞳が、カルクスへと叩き落された。
「現実に潰れて、そのまま消えてください」
冥途の土産と言わんばかりに一冊の本を投げ捨てた。
『カルクス×ドレッド本 ~放課後の体育館倉庫で~ 著者:アリエス』
「、うっ、う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
逆CPのドレッド×カルクス派だったカルクスは、そのまま絶望した。
自分の行動で、アリエスの本で『お前の理想は叶わない』という現実に押し潰されて、壊されたのだ……。
カルクスを倒しました。可哀想ですね