四話、他人を傷つけることでしか傷は癒えないと思ってる人は一定数いる。
◆◇◆
――――私は私らしく、朽ち果てて死ねばいい。
『汝の名を与えよう。
新生せよ――――天使アリエス』
始まりは天界で、その命を芽吹かせたこと。
何もおかしくない、平凡な天使の始まりだ。
天使とは清廉なる聖者の魂を加工して、再臨させた存在。ゆえに天使には必ず生前の存在がある。
『 kろ シて こ、し て ころ し、 て』
――――そのため天使は生前の記憶が、囁いてくることがあるらしい。
『天使の清廉な魂は、大体が生まれた直後に死んだ赤子。
何故なら赤子は、世界を知らないから。
世界を一切見ずにその生を終わらせた魂は、必然的にその例連鎖は至高の純度を持つことになる』
赤子じゃない魂から生まれた天使はほとんど存在しないのだ。
ゆえ、誰も私の心が分からない。
『しに たい しな せて こわ して』
――――朝も、昼も、夜も。誰にも理解されない、誰にも伝わらない。誰にも分からない声が囁いてくる。
『ころ して しな せて。 いや だ いや、 だ』
だから、そう。ふと、手元がズレたのだ。
精神が摩耗し続けるということも、その原因すらも話せない。その生活環境が私の頭を壊し、致命的な失敗を起こした。
――――そして、そのミスが18年後に発覚した。それだけの話。
「(殺される かな 殺されるよ ね。
人生を 無茶苦茶 にした なら最低でも 私の人生が滅茶苦茶になれなきゃ 何も 整合性が取れてない)」
殴られるかもしないし蹴られるかもしれない。当然だ、自分はそれだけのことをしてきたのだから
「(だと、言うのに……)」
行った先で対象ドレッド・クォーターという男の人は私を責めなかった。
「一目惚れですよ」
正直、タイプの男性だった。
でも、同時に恐怖が止まらなかった。
「(なんで 私を こわさない……?
普通なら 他の 人なら 壊してでも、気を晴らす。
壊された人生 私の人生を壊そうと するはずなのに 何故……?)」
怖い、怖い。私がドレッドさんに初めて抱いた感情は純粋なる〝恐怖〟だった。
「(あったかい……?)」
けれど命令だから、抱き締められるという〝恐怖〟に耐えた。嫌悪感は無かった。
「(男性は、女性の身体に興味を持つから その 類……?)」
撫でられるのが余りにも気持ちよくて目を閉じながら、そんなことを思った。
――――勿論、自惚れだ。
「(こんな屑に……こんな塵の身体、興味出るわけがない。
自惚れちゃ、だめ……)」
ならば私に、何が出来る。
加害者で、最低で、劣悪で、捧げられるモノがこんな私の身体しか存在しない。
「(ゴミを渡されても、迷惑に決まってる)」
ならそんな私は、何が出来る?
もう二度と、あなたの前に姿を現さない。どこか遠くで死に絶える……それこそが相応しいのではないのか?
「(加害者は粗大ゴミらしく朽ちてしまえばいい)」
そうしよう。もう死のう――――こんな苦しい世界は嫌だ。
「(でも……でも……)」
何故、この手は離れてくれないのか。
何故、この温もりを放したくないのか。
そう思い、ついぞ放せぬまま……私は眠りについた。