二話:時系列終わってて草
◆◇◆
前回のあらすじ。全身痣と包帯とほっぺにガーゼ付けてる痛々しい天使が性奴隷志願してきた。
「……ついに幻覚まで見えるようになったか」
「幻覚では ありません。
この不肖 アリエス。あなたの 性奴隷 として お仕えします」
ほっぺをむにーっと引っ張る。最近の幻覚は質感まであるらしい。
ぺしっ、と叩き落とされた。
「あなたは自らのことを どう 認識していますか」
「天使リョナ性奴隷とかいうとち狂った性癖」
「そっちではないです……」
「短パンニーソが好きだ。サイハイニーソとの組み合わせが至高だと思ってる」
「フェチでもないです……」
「じゃあどっちなんだ!!」
「なんで今、私は怒られたのでしょう……」
ごほん、と咳ばらいをしてから話を続けた。
「持って生まれた 素養 です」
「急にシリアスな雰囲気だすね君」
俺はちょこんと正座する。
「――――持って生まれた、素養、か……」
――――無能。俺の脳裏にはその二字が記されていた。
「……あまり優れたものではない、と認識しているよ」
「そう、ですね……」
アリエスはちょこんと正座してから、床へ指を添えて土下座した。
「大変 申し訳ございません でした。
あなたの素養は 手違いにより 本来の500分の1 にされていました」
俺はこの子の話によると本来の500分の1の素養にされていたらしい。
「ほうほう。俺の素養の無さ。究極のうんこオブザデストロイの称号を欲しいままにしていたのは全部君のせい、と」
軽い口調で学生時代のあだ名を口にすると、自分のしたことの重みを感じたのが更に暗い顔になった。
ポロポロと涙を流すアリエス嬢。全身がボロボロで光の宿さない瞳で泣かれると胸が苦しくなる。
「……で、君はそのお詫び。と」
「はい 先に呪いを解きます。
天界産の特殊術式は因果を司ります。
よって 今までの努力によって手に入った能力も 500倍で 還元されます。
その後 は 好きなように してください。
――――お願いします」
よれよれで、ボロボロで、苦しそうなこの子はそういうと床に手を突いて綺麗な土下座をしてきた。
ふむふむ、そしてその呪いを解いてくれるのか……有難い。
「おねがいします……おねがいします、わたし に罰を……」
とりあえず毛布で包んで抱き上げた。
「間違いなら仕方ない。誰にでも間違いはあるものだからね。
その上で罰がほしいなら、俺にされるがままに抱き締められなさい」
泣きそうな小さい女の子を抱き上げたままベットの方へ連れていき、そのまま俺はベットに座る。
膝にアリエス嬢を乗せている形になる。
「で、でも……それであなたの、人生は」
「そうかもしれませんね。ですが努力分も還元されて、かつこんな素敵なお嬢さんが着いてくるならばお釣りが出るほどです」
――――脈拍。動揺無し。
? 先ほどまで末期の歌(自作)を歌っていた奴は何処に行ったのか? 少し何言ってるか分からないな。
「それに俺はお嬢さんに一目惚れをしてしまったようですので、もうこれは幸運なのではないか。とすら思っているのですよ」
「ひ、ひとめっ……!?」
「(ああ、やっぱりこの子。可愛いな)」
――――心拍数の上昇を確認。正直者だな
少し突けばすぐに素直な反応が返ってくる。所謂、箱入りお嬢さまという雰囲気を感じる。天界では他の子もこうなのだろうか。
「(いや……他の天使はこの子ほど純粋ではない、か)」
抱き寄せながら、二の腕に付いた切り傷をそっと撫でながら治癒魔法を軽く使う――――軽くかけただけの治癒魔法で、アリエス嬢の身体の傷がほぼ全て治った。
「ひゃうっ……」
「(……五百倍なのかは分からないけれど、治癒の能力が100倍程度にはなってある)」
魔力量に関しては、もうどのくらいあるのか分からないぐらい増えてる。
「……一つ。アリエス嬢がミスをした、ということが発覚した時のことを詳しく伺ってもよいですか? 純粋な興味本位です」
――――心拍数、上昇。瞳孔にも反応。強いストレスだ。
柔肌に傷が一つも着いてないことを確認しながら、ふと気になったことを問う……が、そこで自分の発言がミスだと気付く。
「(……震えている。ふむ、俺の人生云々に関しての罪悪感はさっきので拭ったはずだが……残りカスがあったか……?)」
ぷるぷると毛布ごしに震えを感じる。小鹿のような小動物のような。子兎が天敵の鷹を思い出し、一人震えているように見えた。
「(いや、これはどうも別にあるな)」
今聞いたことがどうも危険なモノだったらしい。
さて、この震えてる小鹿をどうするべきか。頭を撫でたい衝動に駆られる。
「(……頭撫でるのはセクハラか)」
だが限界ギリギリで理性が押し寄せる。
「(……いや、そもそも抱き上げること自体がセクハラだったな、うん。セクハラしよ)」
だが既にセクハラしてたので頭を撫でる。気持ちよさそうな顔を浮かべる。何故だ。
「今の質問は不躾でしたね、忘れてください」
「…………ありがとうございます」
さて、どうやって残りの書類を処理しようか。
「(この子がいる以上、遠くにある机に手が届きそうもないし……さて、どうしたものか)」
少し考えていると丁度目の前に親子が不法侵入してきた。いいタイミングだ。
「どうすればいいと思いますか?」
「死ねよカス」「ゴミめェが。遠くにあるもの取りたいなら棒でも使いな」
罵倒された、理解できん。
「……ふむ……棒、か」
~十年後~
竜仙の塔 第999層――――最上層。
歴戦の戦士ドレッドが巨大な剣を構えながら目の前に存在する竜……超越竜と相対する。
「貴様がありとあらゆる念動力を宿した奇跡の杖を有するドラゴンで相違ないな!!」
「…………」
威厳と覇気に満ちた眼光だ。その爬虫類染みた瞳に俺はうっ、と後退ってしまう。
だが――――負けるわけにはいかない!!
「……如何にも」
「ッ!!」
その声。ただの一声だ。その一言で大地が怯え、風が恐れ、あらゆる万象が慄いた。
――――これが――神龍。
「これ以上の言葉は不要と見た――――往くぞ」
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
負けじと俺は吠えた。決して負けぬと叫び――――その竜へと相棒を振りかざした。
◆◇◆
そして現在。
「(よし……この念動力を扱える杖……【超越者の楔】を使えばいける。ベットに座りながらでも仕事が出来る!!)」
俺は【超越者の楔】を使うことで、腕の中に毛布で包まれたアリエル嬢を起こさずに仕事が出来た。
――――仕事は2分で終わった。どうやら俺の能力は本当に上がっているらしい。
俺はその日、布団を初めて安心しながら使った。
この世界はだいたい時間がバグってます。それは作者の日曜日深夜にした『時が止まればいいと思った……』という渇望の発露が深く関わってますが気のせいです。