十四話、別に全然最期じゃなかった。普通に脱出してきた。
◆◇◆
沸々と、轟々と火の海の中。
猿轡をされて、椅子に縛られた少女マリー。口元に宛がわれていた布がパサリ、と落ちる。
「…………」
視界の端で、死体が燃えているのが見える。
臓器を抜き出して、彼女が一人一人……救った人たちだ。
「ああ、ああ……シンデ、いくのですね……」
涙が、ホロリと流れ出す。腕のロープもどういうわけか、外れて地面にシュルシュルと流れていく。
「綺麗な光に……愛されてみたかった……」
手を伸ばし、次に何かを抱き寄せる仕草を取り――――悲しく空いた腕の中を見る。
「素敵な人に……貰われてみたかった……」
それは乙女の理想、将来に希望を抱く名も知らぬ少女の声。
「絵物語に、憧れた……」
それはきっと、彼女自身の想いなのだろう。しかし何故、今そのことを呟くのだろうか。
この独白に何の意味があるのだろうか。
「なれど、この身体は醜く穢れ」
――――否。断じて否。
これは断じて〝独白などではない〟
「〝肢体は淀み、乙女の花は泥へと堕ちた〟
〝春は枯れ まだ見ぬ花弁は種を知る〟」
血が溢れ、縄が円を描きだし――――魔法陣が描かれ始める。
「〝男は嗤い 女は泣いた〟
〝白い泥の沼で 瞳の抉れた少女は泣いた〟
〝瞳の抉れた少女を掴み 男は犯して冒して侵す〟」
それはマリーという12歳の乙女が歩んだ歴史。
マリーという少女の人生をそのまま術式に反映させるソレは〝固有魔法〟と呼ばれる鮮烈な輝きを放つ。
「〝我が宿業よ いざ参れ〟」
吐き気のする腐臭のする黒い泥が溢れ、炎を、死者を、あらゆる万象を、全てを飲み込み冒して壊す――――全てが腐った泥に塗れればいい、と、終わらない呪詛のように。
「死想を謳え――――即ちそれは救済なのだから」
ここに顕現する固有魔法。
全ての物質を、素粒子の域でその存在を侵し、全てを飲み込む悪意の泥を無限に生み出す悪夢の祈り――――それは洞窟を飛び越え、無尽蔵に森を冒し始めた。
「男の人って凄いのですよ? 潰れた瞳にさえ、耳の穴にさえ、興奮するのですから」
~その頃 森では~
泥により腐り始める森から逃げるように三名が駆け足で行動していた。環境破壊は基本。
「燃やして殺そうとしただけでそこまで 怒らなくてもいいのに……」
「むしろ怒るべきだろそれは」
「火ヲ放ッタ張本人ノ 台詞ジャナクテ草」
呑気だった。
「死は救済なのに 不思議です」
「天使特有の死生観語るの止めて?」
ドレッドは腐りゆく森を見て、はあとため息をついた。
「だがまあ、やっぱり怒るよな……大切な宝物を取られたらさ」
ドレッドは布包みを抱き上げてそっと撫でる。
「それは……?」
「あの子の息子さんだよ。赤ちゃんだ、可愛らしいよ、触ってみるか?」
ドレッドは赤ちゃんの腕をそっと、向ける。青白く、小さな手が映る。
アリエスはその手を興味津々と掴む。
「冷たいですね、あと硬い」
「布に保存の術式があっても少し腐敗臭がする辺り、かなり昔に死んだな、これは」
感想が雑だったが、この上なくシンプルなモノだと言えるだろう。
――――この子はもう、かなり前に死んでいる。
「あと顔が潰れてますね、かなりグチャグチャです」
「ああ、これが死因だろうな。
なんだろうな、こんなにぐちゃぐちゃになるほど潰れるなんて……誰がしたんだろ」
「アノ 女ノ子 デハ?」
盗賊Aの質問に対してドレットは唸る。
「うーん、あの子がするとは思えないな……あー、でも、思春期の女の子は感情の振れ幅大きいしふとしたことで殺すこともあり得るのかな?」
脳裏に浮かぶのはこの顔の潰れた赤ん坊を、とても優しく抱き寄せる姿だ。
「……でも、あの子はこの子を愛していたからね。長男って言っていたし、実際に抱き締めていたほどだ。姿造りにしていた娘ぐらい、愛着は強いんじゃないかな?」
凹んでる頭をなでなでしながら考察するドレッド。
「? 姿造りにされてた子も 娘だったんですか?」
「恐らくな。顔立ちが似ていた、特に目元がそっくりだった。将来美人になったろうになー。あんまりにも可愛かっただったのであの子だけは燃やす前に少しだけ舐めたよ」
「男尊女卑ダ!! 平等ニ殺サナイ コンナ ウンチ! 許シテイイノデショウカ!!」
「急に左翼に目覚めるじゃん」
急に左翼に目覚めた盗賊Aはドレッドの表情に気付いた。
――――ドレッドは泣いていた。
泣きながら赤ちゃんを撫でていた。
「ごめん、幸せそうな顔を思い出したら……泣けてきた。
よかった……よかったなぁ……目出度い……あんなに素敵なモノを見れるなんて思わなかった……」
「スマン コイツノ頭、ドウナッテンノ?」
「感受性が異常に高いのでしょう」
抱き締めてナデナデしながら……不意に、ドレッドは立ち止まった。
「……きっと愛を込めて……姿造りにするために、産んだんじゃないかな……あの天使は、それほどまでに美しかった……」
独白しその状態のまま、ドレッドは背後にいる者の気配を感じ取りながら。
「…………それで、答えはどうかな? マリーさん」
そう、呼び掛けた。
うちの作品にまともな子はおりません(探せばいそうだけれど)
読者様、読んでくれてありがとうございます。なんかください




