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過保護な主と外出許可

「リア様、本日のお召し物はどちらがよろしいですか?」

「………………」

片方はフリルをたっぷりあしらったゴスロリ風、もう片方はおとぎ話に出てくるお姫様ののようなドレスでどちらも遠慮したい。これまでのドレスがどれだけシンプルで控えめだったことか。

ジト目で見ているとステラは少し困ったような笑みを浮かべる。

「陛下がリア様のためにご用意したものですから」


(そういう趣味なのか……やっぱりロリコン?)

「どっちでもいい」

「ではこちらを! 甘くなりすぎないように差し色を入れて上品に仕上げましたの! リア様の愛らしさが一層際立ちますわ!!」

「お前の趣味か!」


思わず突っ込みを入れる。ステラは小さくて可愛い物が大好きらしい。

初めてリア様にお会いした時は自制するのが大変でしたわ、と翌日嬉しそうに頬を染めて言われた。ちょっと変わっているが、嫌がらせされるよりはずっと良いし、率直に話せるので気持ち的にも楽だ。本人に言ったらハグされるから絶対言わないが。


「ふふ、でも陛下からリア様への贈り物というのは本当ですわよ? リア様にお似合いになるお召し物を準備するよう言われておりますから」

「本当やめて…ただでさえ重くて動きにくい」

「お部屋と執務室のご移動だけなので、問題ございませんでしょう?」


それは最近のリアの不満でもあった。

ノアベルトは過保護すぎる。初日に衛兵(処刑は免れたが馘になったらしい)に絡まれたことを理由に行動範囲を制限されている。それなのに美味しいご飯やお菓子をこれでもかというぐらい与えられて、現在の自分の体重を知るのが恐ろしい。

部屋で簡単なストレッチや筋トレをしているが、焼け石に水だろう。


「…外に出たい」

「陛下におねだりしてみてはいかがでしょうか? 一緒にお出かけされるなら陛下もお許しくださるかもしれません」

身支度を整えながらステラはアドバイスをくれる。


(陛下の逆鱗がどこか分かんないからなあ)

先日の喧嘩でリアが反省していた部分ではないことに怒っていたと言われ、おまけに教えてくれない。不用意に怒らせるのは避けたいから、あれ以来リアなりに会話にも気を遣っている。それに、ただでさえ衣食住を過剰なほど与えられていてこれ以上何かをねだるなど、図々しいにも程があるだろう。


ステラにそう伝えると、

「リア様は本当に無欲な方ですわね。 私、微力ながらお手伝いさせていただきますわ」

いい笑顔で返された。何か良くない予感がする。

「ステラ? 変なことしないでね」

にこやかな顔で頷くステラに不安を募らせながらも、リアは部屋を後にした。


「城下に行きたいか?」

午後の休憩時間、髪を撫でられながらの突然の質問に言葉が詰まった。

(これは素直に答えてよいものか……)

壁際に控えるステラに視線を向けると、満面の笑みで返された。

何をしたかは不明だが、どうやらお手伝いしてくれた結果のようだ。

「……行ってみたいです」


躊躇いつつ答えるとノアベルトは顎に手をやり、しばし考える素振りを見せる。

(うん? これどっち?)

「では、3日後に連れて行こう」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

素直に感謝を伝えると、まじまじと見つめられる。

どうしたのかと首を傾げると、口元を押さえて視線を逸らされた。


ちょっとはしゃぎ過ぎたかもしれないと思ったが、陛下の奇行はよくあることだ、と一人納得して気にしないことにした。そのためリアはノアベルトとステラが交わす意味ありげな視線に気づくことはなかった。


魔物の王国であるイスビルでは、お膝元である城下町は一番大きな街になる。小規模な街が多いのは、部族間の縄張り意識の高さや文化の違いによりいざこざを避けるためだ。もっとも物の売買や流通のためにある程度の交流はあるが、必要がなければ多くの交流を求めない。集団を好まない魔物、特に獣形や異形の者は森林や洞窟を住まいとしている。

小さな独立した集団ゆえに多様な文化が生まれる土壌となった。


用意された書物の中には、元の世界とは違う文化や生活、食べ物などリアの興味を引くものがたくさんあった。そんなことに目を向けられるようになったのは、この世界で生きることを受け入れるようになったからだ、とリアは思っている。自分がこれから生きていく世界を知りたいと思うのは自然なことだった。


「リア様、ご機嫌ですね~」

いよいよ街に出かける日となった。実は楽しみ過ぎてなかなか寝付けなかったことは内緒だ。遠足前の子供みたいで少し恥ずかしい。

「本日のお召し物は、初めて逢引きをする令嬢の初々しさをイメージして作製しましたわ!」

「どういうイメージだ、それ……」


ツッコミどころが多すぎて追いつかないので、無視することにした。落ち着いた青緑のワンピースにレースをあしらった襟元に添えられた白いリボンがアクセントになっていて、清楚な雰囲気だ。いつもよりずっと動きやすいが、何となくお嬢様学校の制服といった感じで微妙に居心地が悪い。

制服フェチ、といった言葉が浮かんで慌てて打ち消す。これはステラの趣味、のはずだ。


朝食を終えると早速出かけることになった。

「リア、絶対に私から離れては駄目だ」

過保護な雇い主はくどいぐらいに念を押してくるので、その都度きちんと返事をする。せっかくの外出許可が取り止められてはたまらない。

「はい、陛下」

「……ノア、だ」

確かに身分が丸わかりになるような呼びかけは避けるべきだろう。

「承知しました。ノア様」

「様も敬語も必要ない」


ヨルンがすごい形相でこちらを見ているが、これは不可抗力というものだ。

「ノア、もう行こ?」

そう呼びかけるとノアベルトは口元を押さえて視線を逸らす。

「あ…、すみません。城下での話でしたね」

急にタメ口で話しかけられて驚いたのだろう。そう思って詫びたのだが、「全く問題ない」と真剣な表情で否定された。

相変わらず行動が読めないけど、本人がそういうならまあいいか。


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