8話
「あれ、智紗ちゃん!花ちゃんだけだと思ってた。」
「亜希ちゃん!智紗ちゃんも来てるなんて思わなかったよー。」
「さっき、朝倉さんに会って、亜希ちゃんもここに来てるって教えてもらったんだー。」
案の定姦しく、一人で帰ろうかと思い始めたが、露骨に智紗の機嫌が悪くなることが目に見えていたので、諦めた。
「ドーナツ、どれにしよーね?」
「いちごのもおいしそうだし、チョコのも捨てがたいなー。」
「智紗はどれにするんだ?」
真剣にドーナツを見つめる智紗に声をかける。
「この期間限定のさくらんぼ味のと、中にクリームが入っているやつのどっちも食べたくて困ってる。」
「分かるなー。決められないときってあるよね。
「じゃあ、二つとも食べればいいじゃん。」
「「「太っちゃうじゃん!」」」
あらかじめ打ち合わせしたかのような息の合い方だった。
「3人とも痩せてて、かつ運動部だから気にすること無いだろ。」
「お兄ちゃんは、ほんと女心を分かってないなー。私がみっちり教えてあげるしかないかな?」
「遠慮しとく。ドーナツは俺のを一口やるよ。」
そう言って、ドーナツを買い4人でテーブルに腰かける。食べながら、朝倉さんが喋り出した。
「それにしても、高校生の兄妹で一緒に出掛けるなんて、とっても仲良しなんだね!」
「俺は全く出かけたくなかったんだが、智紗に無理やり連れてこられたんだ。さっさと友達作って、遊びに行けばいいのに。」
「友達はいるから!ただ、休みの日に誘うのはまだハードル高いっていうか・・・。あっ、亜希さんって友達多いですよね。どうすればもっと仲良くなれますかね?」
智紗は俺や亜希の前では、明るく活発に振る舞うが、学校ではおしとやかなふりをするという驚きの内弁慶っぷりなので、あまり友人の多い方ではない。
少し考えた後、亜希は答えた。
「うーん。智紗ちゃんは深く考えすぎな気がするな。友達とどこか遊びに行きたいんだったら、何も考えずにそれを伝えればいいだけだよ。私はとにかく自分から話しかけるようにしてるよ。」
「でも、何話せばいいかとか考えたりしませんか?」
「全っ然、考えたこと無いよ。話すことなんて自分がしたい話題で良いんだよ。例えば、私だったら、最近ピオニーの香水がお気に入りなんだけど、好きな香りとかってある?みたいに、相手に質問する感じで話すと自然と会話が盛り上がると思うなぁ。」
流石、コミュ強。いいアドバイスするなぁ。これでストーカーじゃなければ、少しは尊敬できるんだけど・・・。
「分かりました!月曜から友達にもっと自分から話しかけるよう、心掛けてみます。」
「うん、その心意気だよ!智紗ちゃんならきっと大丈夫!」
その後、俺は3人の会話に相槌を打ち続けていた。当初の目的である亜希のストーカーの阻止は達成できたし、今回は買い物に誘ってくれた智紗に感謝しておこう。