不良の黒崎先輩との対決ってこと!
「めんこい少年君!」
冷たい声が僕に投げられた。
黒崎先輩ったら木刀をブラブラさせている。
「さっきの見ただろう」
黒崎先輩の冷たい笑い。
「どうだ。
君にできるか」
そう言って、僕の顔のぞきこむ。
僕、さやかちゃんのウサギをギュッと握る。
負けちゃ・・・
負けちゃいけないんだ。
「できません」
正直に答える。
黒崎先輩の勝ち誇った顔。
その表情に向かってできるだけ大きな声。
「僕、剣道部じゃありません」
黒崎先輩の笑い顔がフリーズする。
「だからできるはずありません。
できないこと、なんとも思いません」
黒崎先輩が僕のことにらみつける。
クルッと背中向ける。
もしかして怒ってる?
僕の喉がゴクンって鳴った。
ハハハハハハハハハ!
黒崎先輩の笑い声。
「面白れえな。ホントに」
黒崎先輩がこっちを向く。
左手で木刀構えている。
木刀の先が伸びる!
鋭い風の音!
木刀の先が僕の喉に迫る!
かすかに喉のしびれ!
黒崎先輩の突き出した木刀!
先端が僕の喉すれすれで止まった。
黒崎先輩の目が吊り上がってる。
体全体から殺気!
僕の身体を包み込む。
「できないってのはな」
黒崎先輩の大きな声。
「こうなるってことだ」
喉が・・・
喉が冷たい。
体が寒い。
体中が凍りついたみたい・・・
「めんこい少年君。
木刀をもっと前に突き出してやろうか」
黒崎先輩の顔が・・・
家にある般若っていう鬼女のお面に見えた。
目が大きく吊って・・・
口が大きく開かれて・・・
舌なめずりしてる・・・
血のように真っ赤な舌・・・
限界だった。
涙がポロポロこぼれた。
知らないうちに叫んでた。
「さやかちゃん。助けて・・・」
木刀が黒崎先輩の手元に戻った。
どっと涙が噴き出し、僕、両手で顔を覆った。
そのまま座り込んだ。
声をあげて泣いた。
ものすごく怖かった。
それにものすごく悲しかった。
さやかちゃんに言われたこと、守れなかった。
いまの僕って・・・
さやかちゃんそれの助けを待つただの弱虫なんだ。
「君の幼馴染に指導されたんだろ。
強くなれって・・・
結構カッコいいこと言ったぜ。
ほんの一分だけな」
黒崎先輩の冷たい声。
僕って、ただ泣くだけ。
「だけどそんな君、キライじゃないぜ。
めんこい少年君」
黒崎先輩が右手を伸ばす。
「さあ、立とうぜ」
僕、立ってからも泣いてた。
黒崎先輩ったら、スマホ取り出して僕に向けた。
「なにするんですか?」
「めんこい少年君の泣き顔を撮影するってワケ。
君の幼馴染に送ろうか」
僕の涙が一瞬で引っ込んだ。
黒崎先輩が真面目な顔になった。
「そうか。
そんなに幼馴染の前じゃ、いいカッコーしたいんか。
泣くしかできないくせにな」
僕、唇噛む。
「あなたなんかに関係ありません」
最後に残った勇気で反論。
「そうか。
めんこい少年君!
オレってサ。君の情けない姿知ってるんだ。
まだ見栄張るワケ?
やめようぜ」
「あなたの言うことなんか聞きません」
「そっかー」
黒崎先輩のさりげない言葉。
次の瞬間!
さやかちゃんのウサキが取り上げられてた。
「なにするんですか!」
僕、大声出してた。
だけどそれだけ。
さやかちゃんのウサギを取り戻すことも出来ないまま、つっ立ってた。
黒崎先輩、さやかちゃんのウサギのマスコット、地面に叩きつけた。
靴の底で踏みにじった。
「やめてください!」
「やめねえよ。取り返せよ」
黒崎先輩の言葉にうつむく僕。
またしゃくりあげてた。
「泣いたって取り返せないんだよ」
黒崎先輩の足の下。
土で真っ黒に汚れたピンクのウサギ。
黒崎先輩がウサギから離れる。
僕、あわててウサギを拾った。
黒崎先輩が大声で笑う。
「めんこい少年君」
僕の手の中のウサギをバカにしたように見ている。
「それが幼馴染に見せる君の勇気ってワケ?
面白れえなあ」