不良の黒崎先輩との初対面ってこと!
木刀で素振りしていた藤山高校の男子生徒。
手を休め、僕のこと正面から見た。
それから五人の男子生徒を見回す。
横に並んでた五人の男子生徒。
パッと左右に散る。
木刀を持った男子生徒が、僕の方へ歩き出す。
ひとりが駆け寄り煙草を差し出した。
別のひとりが火をつける。
煙草の煙が宙を漂う。
イヤな臭いが鼻をついた。
僕から10mくらい離れたところで立ち止まる。
「めんこい少年」
そう言って笑った。
「名前で呼ぶか。
中部中学三年生の相川悠君」
僕の名前知ってた!
なんで僕のことなんか調べてたの?
「なんでも知ってるぜ。
オヤジもオフクロも死んでバアちゃんとふたり暮らし。
成績は、二学期の中間で学年四位。
トップは幼馴染の上月さやか。
幼馴染から二位になるよう命令されてる」
木刀を持った男子生徒が言葉を切る。
僕のこと、じーっと見つめる。
それから笑った。
とっても怖い笑いだった。
「相川君のこと、これだけ知ってること、どう思う」
煙草を投げ捨てた。
「言ってみろよ」
僕、さやかちゃんのくれたウサギをギュッと握った。
「ストーカーみたいな人だって思ってます。」
「ストーカーじゃない」
そう言って木刀振り回す。
「藤山高校一年。
剣道部の黒崎真夜だ。
ストーカーって呼ぶのはやめようぜ」
「だって・・・」
言葉に詰まった。
僕ってすっごく緊張してる。
だってね。
なんで僕のこと待ち伏せしてたか、全然分からない。
「なんの用です」
黒崎先輩が冷たく笑う。
さやかちゃんのウサギに願いを込めた。
(さやかちゃん。僕のこと、見守ってて・・・)
黒崎先輩のこと、まっすぐ見た。
冷や汗が流れた。
だけど勇気を出して口を開いた。
「僕帰ります」
黒崎先輩が木刀を左手に握った。
強い風の悲鳴!
左手一本だけで素振り!
軽々と木刀を操ってる。
正面、左、右!
振る度に風の悲鳴が響く。
僕の心臓、冷たくなっちゃった。
木刀を宙に放り投げる。
僕のこと見てニヤッとする。
落ちてきた木刀。
黒崎先輩の手の中。
左手の中指、薬指、小指だけで握っている。
大型台風の突風が吹き荒れる。
左手三本の指だけで素振り。
振る度に突風!
僕、逃げられるなら離れたかった。
カーカーカーカー
カラスの大群。
大声でけたたましく鳴きながら空を飛び去る。
まるで泣き叫ぶような声!
僕だって泣きたいんだ!
黒崎先輩がカラスを見送る。
自信に満ちた笑い。
黒崎先輩って・・・
なんて怖ろしい人なんだろう。
カラスもおびえるなんて・・・
突然!
黒崎先輩、ハッとした表情。
僕のこと、正面から見る。
意味ありげな表情。
なにか話したいんだろうか?
僕も黒崎先輩の顔をじっと見つめる。
そのとき僕って・・・
空でなにが起きてるのか、なんにも知らなかった。
後で分かったこと・・・
鷹がカラスの群れを追いかけてた。
黒崎先輩って知ってたみたい。
黒崎先輩って強いんだけど・・・
ちょっと卑怯だって思うんだ。