涙のお別れってこと!
朝。空港に向かうバンの後部座席。
さやかちやんと僕、並んで座ってる。
運転はさやかちゃんのお父さん。助手席にお母さん。
さやかちゃん、僕のこと見て笑う。
「悠ちゃんが見送ること、学校に連絡してある。
心配しなくていいよ」
さやかちゃんの言うことだからきっと間違いない。僕、大きくうなずく。
「ふたりとも本当の家族みたい。ねっ」
さやかちゃんのお母さんが微笑む。
「うん。ふたりとも高蔵への進学が決まったら、ハッキリさせようか。
相川君はお祖母ちゃんと二人暮らしだけど、一応了解は得ているんだ。
相川君は知ってるかな。
君の伯父さんはね。お祖母ちゃんと暮らしたいらしいが、相川君はこっちで進学する予定だし、君も一緒に住むのは難しいしね。
相川君は、昔からうちに遊びに来ることが多かった。こらからずっと一緒でもいいからね」
お父さんの口調ってなんだか楽しそう。
僕たちふたり、顔を見合わせる。
座席に座ったまま、自然と手を握っていた。
空港の出発ロビー。
国際線の乗客と見送りの人たちで埋めつくされている。
サンフランシスコの姉妹校を訪問する中部中学のグループが一ヶ所に集まってる。
校長先生、引率の先生ふたり、PTA会長。
一年二年を中心に生徒が五人。そのうちのひとりがさやかちゃん。
「なにかあったら連絡するんだよ」
さやかちゃんったら、グループの人たちなんか知らん顔。
ずっと僕に付き添ってた。
どっちが旅行に行くんだか分らない。
だけどもね。
なにも言わなくたって、すぐそばにいてくれる。そんなさやかちゃんの優しさが、僕って一番好きだった。
「うちとあまり関係ない藤山高校のだれかが合唱部のCDを30枚も買った。
変なプレゼントまでつけて・・・
なんだか気になるの。
悠ちゃんも気をつけて・・・」
国際線旅客機の搭乗時間を知らせるアナウンス。
中部中学姉妹校訪問団のメンバーが、ひとりふたりと出発口に消えていく。
さやかちゃんが僕の手をしっかり握る。
僕のこと、じっと見つめる。
「じゃあ、行くから」
「行ってらっしゃい」
ふたりとも涙をポロポロ流してた。
「上月さん!」
付き添いの先生が出発口から声をかける。
さやかちゃんがそっと自分の髪の毛を二、三本抜いた。
丁寧にティシュに包む。
僕の手をとって握らせる。
優しく頭をなでられた。
そのまま、さやかちゃん・・・
僕の前から見えなくなった。
涙が止まらなくて、ずっとハンカチで押さえた。
さやかちゃんの両親が、僕のことなぐさめてくれる。
50mくらい離れたところ。
ブレザーの制服を着た男の人・・・
あれって・・・
藤山高校だ!ブレザーの色がライトブルーだもの。スクールバッグも確か同じ色!
真面目そうな人。僕と目が合うと、おびえた表情で横向いた。
そのまま出発ロビーから走り去った。
藤山高校の男子生徒に、もう一回会った。
さやかちゃんの両親と一緒に出発ロビーを出たときだった。
「間違いなく出発したから・・・ハッキリ見た。
学校に戻るかどうかって?
たぶんそうだと思うけど・・・そこまで分らないよ。
怒らないでくれ。か、金出すから・・・」
さっき見た藤山高校の男子生徒だった。
僕らに背を向けてスマホで話をしていた。
僕の視線に気がついた。
こちらを振り返って・・・
ウワーーーーーーーッ
スマホを手にしたまま走り去った。
「僕、なんにも知らないよ!
藤山高校の生徒なんかじゃないよ!」
おびえた声がずーっと長く続いた。
なんだか変な人・・・