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幼馴染みのさやかちゃんとの日常ってこと‼︎

 校舎の裏側。大きな木の根元・・・

っていったら決まりきったシーンがある。

 中部中学ちゅうぶちゅうがくだって同じです。

 三年三組。僕、相川悠あいかわゆうを待ってた運命だって同じ。

 大木を背にした僕。緊張で口の中、カラカラ。

 僕の前に同じクラスの円城寺誠えんじょうじまこと。長身でイケメンだけど、僕の前では冷たく無気味な笑い。後ろに取り巻き三人。

 身長1m57㎝。小柄な僕のこと見下ろしてる。


 「難しいことじゃない。石田がお前の隣の席だろう」


 坊主頭の石田を振り返る。もうクラブ活動からは離れたけど野球部出身。


 「テストの時な。

 山田が答え見えるように解答用紙をずらせばいいんだ。

 俺に合図送るから・・・

 お前ってすごいよな。優等生!

 ちょっと協力してくれよ」


 後ろの三人とも怖い目。

 僕の答え次第で、すぐ前に近づいてくる。

 僕、ブレザーの制服の襟を握る。知らないうちに全身に汗。

 だから・・・


 ここにはいない彼女の顔思い浮かべる。

 セミロングの髪。理知的で、時々厳しくなる目。

 美しいお姫様って雰囲気の美人。

 ブレザーの制服のミニスカートから、白くてスラリとした脚。形のよい膝小僧が大理石のように白く輝いてる。

 僕、四人のこと、まっすぐ見つめた。

 ゆっくり口を開く。


 「そんなことできない」


 どっと体中に汗。

 でも一言言ったら勇気が出た。


 「不正だから」


 心の中の彼女。僕のこと見て優しく微笑んでた。


 「こいつ、面白いこと言うな。オイ」


 円城寺が笑う。


 「お前。ふざけるなよ。

 テストに協力しろと言ってるんだ。

 お前、


 『ハイッ』


と返事すればいいんだ」

 「そうだ。またいじめられたいか?」

 「お前、本当は頭悪いんじゃねえか?」

 「クラス委員が


 『テスト教えろ』


と言ってるぞ。

 ちゃんということ聞けよ」


 震えが止まらない。

 もう一度、心の中の彼女の顔思い浮かべる。

 僕のこと、じっと見ていてくれる。


 「絶対イヤだ」

 「お前、バカだな。本当にバカだ。

 オレにさからうなんてつまらんこと言ったな」


 円城寺が笑う。


 「ホント。

 あなた、つまらないこと言ったよね」


 円城寺の笑いが止まる。

 ほかの三人の泣きそうな顔。

 校舎の陰から・・・

 担任の坂本先生。生徒指導の堀田先生。学年主任の山宮先生。

 そして・・・

 僕が心の中でずっと思い浮かべてた彼女。

 副クラス委員!前期生徒会長!

 そして僕の幼馴染!

 上月こうづきさやかさん。


 「円城寺!お前の高蔵高校推薦は却下する。

 内申書の関係もある。

 国家公務員への第一歩といわれる高蔵高校は一般受験でも難しいだろうな」

 「両親に来てもらうからな」

 「クラス委員はクビだ!」


 円城寺が泣きながら山宮先生の胸に顔を埋めた。


 「助けて下さい。

 山田たちに脅されていました。

 本当は僕って被害者なんです」


 山田たち三人、呆然とした顔。

 山田がつぶやく。


 「うそつき・・・」


 上月さんと僕、そっと顔見合わせて笑った。



 しばらく後。

 さやかちゃんに連れられて体育館横の自販機。

 さやかちゃん、自販機に用意のカードをタッチ。

 ふたり分のつぶつぶオレンジ。

 冷えた缶を僕に握らせる。


 「頑張ったね!」


 小さな子どもみたいに頭なでられる。

 身長180㎝。さやかちゃんから見たら子どもかな。

 僕らふたりとも中部中学の三年一組。同級生。

 小さいときからずっと一緒。

 だけどね。

 僕三月の早生まれ。さやかちゃん、四月だから本当は一歳離れてるんだ。


 「飲みなさい」


 さやかちゃんに言われて口つける。

 

 「悠ちゃん、勉強もできるし、合唱部のエース。

 二年にわたしが生徒会の役員になってからは、部長のわたしをホントによく助けてくれたって感謝してる。

 可愛い幼馴染み」


 僕、恥ずかしくて下見る。でも本当のこと言うと、嬉しくってしかたない。


 「うーーん。なんにも役に立たなくて。さやかちゃんに迷惑ばかり・・・」


 さやかちゃんが手を伸ばす。つぶつぶみかんで冷えた手で、優しく頭なでられた。

 幸せ気分。


 「悠ちゃんはいい子。だけどもっと心が強くならなきゃ・・・

 でも前よりとっても強くなったよ」

 「さやかちゃんのおかげ。

 色々教えて励ましてくれたんだし・・・」

 「だけどまだまだだよ。

 今日だって、わたしがいなかったらどうしてた?」


 僕、返事ができない。


 「いつも一緒にいて守ってあげたい。小さい頃みたいに・・・

 だけどそうもいかないしサ。

 生徒会の仕事とかあって・・・

 わたしいないと、いつもいじめられてた。

 後でわたしが文句言ってもね。証拠なければどうしようもなかったし・・・

 でも今日のことで円城寺はもう心配ないね。これから悠ちゃんに変なことしたら、どこにも進学できなくなるし・・・」


 さやかちゃんが、そっと僕の肩を抱いた。


 「円城寺の件は解決したけど、やっぱり心配だな。

 ちっちゃな幼馴染のこと」


 かすかに甘い香りがした。

 さやかちゃんの香り。

 僕ね一番好きだった。小さい頃に飲んだ哺乳瓶のミルクの香り。

 

 「さやかちゃん、しばらくいないんだよね。

 サンフランシスコの姉妹校訪問で!」

 「高蔵高校に特別優待生の枠で入学決まったしね。受験勉強の必要ないし・・・

 悠ちゃんも高蔵の推薦獲れるようにね。円城寺はもう絶望的だけど・・・」

 「でもすごいな。訪問団の生徒リーダーなんて!」


 僕の自慢で憧れの幼馴染。

 いつもまぶしく見上げる。


 「悠ちゃんも連れて行きたかったな」


 受験生だし、さやかちゃんみたいに進路がきちんと決まっていないし絶対ムリな話。

 でもさやかちゃんの本気モードの言葉。僕、とっても嬉しかった。


 「先輩!」


 明るい呼び声!

 合唱部の新部長。二年の斎藤さん!

 

 「合唱部の引退記念コンサートのCD。すごい人気です!毎年、発行してるけど、こんなの初めてです。

 コンサートだって超満員だったし・・・」


 斎藤さんったらスキップして喜んでる。


 「相川君のおかげ!」

 「部長のおかげ!」


 ふたり同時に叫んでた。

 斎藤さんが笑う。


 「おふたりのお陰。高蔵高校や藤山高校の人だって、コンサートのCD買ってるんです」

 「藤山って、合唱部のOBの人いた?」

 「よく分らないですけど、藤山高校の人が三十枚、いっぺんに!」

 「フーン」


 さやかちゃん、首かしげる。


 「藤山の人からプレゼントも貰ったそうです。

 きちんと生田さん聞いてなかったけど、確か部長宛てに・・・」


 斎藤さんが黒のトートバッグ差し出す。


 「やだ、これ。ランジェリーショップのバッグ。

 だれよ、こんなの?」

 「買いに来た人は代理だって言ってたそうです。なんかオドオドしてたって・・・」


 僕、さやかちゃんの後ろ。

 さやかちゃんがだれかと話してるときの定位置。

 そっとふたりの会話聞いてた。

 さやかちゃんのスカートが大きく揺れた。裾から、なだらかな曲線の白い太腿。

 あわてて横向く。

 中身見てさやかちゃん・・・


 「ヘンタイじゃない。捨てといてくれる」


 不機嫌に斎藤さんにトートバッグを預ける。

 さやかちゃんと僕、一緒に校門出て、そっと手をつないで帰った。

 

 

 

 

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